走れ、麦公

U^ω^U~”

風邪の神

2017-07-06 18:38:26 | 俳句
 貨物船が巨大な生き物に襲われていた。四角い大きな頭をした緑色の……、ガチャピンだろ? 見上げると三十メートルはある。
 船員たちは大慌てである。
 巨大なガチャピンが、積み荷を狙って現れたのだ。
 どこかで異次元ゲートが開いたものらしい。

 理子は寝汗で湿った前髪を掻き上げながら、だるそうに歯ブラシを動かしていた。昨晩、窓を開けっぱなしにしてそのまま寝た。
 そしたら、夜中に熱が出た。何度か起きて冷えピタを貼ったりしたが治らない。
 夏なのに風邪に罹ったらしい。身体が重く、体重がいつもの二倍はある感じがした。
「ガチャピン、がんばってるな」
 理子の家は岬の団地にあって、港がよく見えた。

 貨物船はコンテナを山積みにしていて、その一つに大きくバナナの絵が描いてあった。南国からの積み荷であろう。
 ガチャピンはそれを狙って出現したものらしい。
 貨物船から放水されたり、物を投げつけられたりしながら、ガチャピンは瞼の下がった大きな目をいくぶん潤ませて、イボイボのついた手をコンテナへ伸ばそうとしている。
 ガチャピンはバナナが好きだったのか。
「もう少しだ。がんばれ、ガチャピン!」
 理子はこぶしをにぎって応援した。

 突然、轟音が理子の家の屋根を越えていった。自衛隊の戦闘機だ。数機で編隊を組んでいる。
 F15戦闘機は夏空にキラリと細身の機体を光らせると、いきなり搭載ミサイルを発射した。ミサイルはガチャピンンに命中した。前歯を折られたガチャピンは顔を覆ってうずくまった。その背中へ、なお容赦なく20ミリ機関砲が火を噴いた。
 国家戦力の圧倒的な力の前に、ついにガチャピンは海に沈んでいった。
 港に平和が戻った。
「ガチャピンになにすんだよ、許さねーぞ!」
 理子は怒りでふるえた。みんなのアイドル、ガチャピンがやられたのだ、当然である。と、理子がはげしく身体をふるわせたその拍子に、何かがはじき飛ばされて後ろの壁に激突したようだった。しかし、ふり向いてみても何も異常はなかった。
 学生鞄を持って家を出たとき、理子は平熱に戻っていた。いつもの朝と変わらない軽い足取りである。

 同じころ、絆創膏を貼った風邪の神が、痛そうに腰をさすりながら、とぼとぼ岬の団地を反対側へ下りて行った。
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