一会一題

地域経済・地方分権の動向を中心に ── 伊藤敏安

最初の一鍬

2012-07-09 18:45:13 | トピック

● わが国における国土計画の原型は1940年代にさかのぼります。そのような計画のひとつとして、1943年10月に「中央計画素案」が発表されました。参考表と別表を除く本文だけで9万字を超える大部の資料です。そのなかに奠都のことが出てきます。東京は危なくなってきたので、首都機能をどこかに移さなくてはなりません。それが「奠都」ということです。

● 皇居、政府官衙、各種統制機関、生活必需物資配給機関、外国公館などを設置する新しい首都として、具体的に3ヵ所の候補地が提示されました。興味深いのは、候補地の選定条件。すなわち、①全国土の中心、②地震、風水害などの天災地変が少ないこと、③四季別明にして冬期に寒気厳しくなく夏期に暑気甚だしくないこと、④地形平潤、高燥、風光明媚、⑤用水、電力、食糧などが豊富、⑥交通利便、地域文化が高く、既成都市と適当に離れていること ── という6点です。

■ これらの条件に該当する候補地としてあげられたのが、岡山県邑久郡行幸村福岡県八女郡福島町、そして京畿道京城府(いずれも当時の地名)。四季別明、地形平潤、風光明媚であることは見れば明らかでしょうが、天災地変が少ないというのは、古人の知識や知恵が投射されたものと考えられます。実際、これらの候補地は、その後も甚大な自然災害に遭ったことはないのではないでしょうか。

● 私の知っているNPOのなかには、古地図をもとに過去の被災状況を調べるとともに、現在の避難経路を点検している人たちがいます。深刻な被災地でもだれかがどこかに住み始めれば、それがのちの経路を決定していきます。金烏玉兎、匆々としているからこそ、最初の一鍬には慎重さが求められそうです。