射手男のイテオロジー(極私的映画世界案内、よろず見聞録、俳句、etc.)

なによりもまず読んでおもしろいものにします。

平田いことだよ、ぺちゃんこなのがえらいんだよ

2016-10-13 01:04:56 | 宮澤賢治読み直し



■獏さんの手跡
 岩波文庫に山乃口獏(ばく)が入ったと案内があったので、すぐ本屋へ立ち寄ってみたが、影も形もない。やむなく取り寄せてもらったら、あの超貧乏の獏さんの面影がうすれて、なんだか逞しくなっているので、オヤ?と思った。ボロ畳の上にボロ座布団が現れる。その上にボロを着た嫁さんが現れる。・・・このとおりではないけれど、おおむねこのような我が愛笑詩が入っていない。編者は高良勉だ。まあ、こんなところでいちゃもんつけても聞こえまい。それに、書きたいことはこれではない。

 急いで書いておきたいことは、文庫本のカバーについてである。岩波では、ほとんどの場合、タイトル・著者名・挿絵の一部分・160字ばかりの要約・「種まく人」マーク・分類記号番号を決まったレイアウトで組み合わせ、タイトル・著者名・マークにはジャンルごとに変えたカラー・パッチをのせて岩波らしく装っている。ところが、詩集となると一切これらのコンセプトは無視してもかまわないらしい。獏さんの場合は、表紙の左右中央に「高良勉 編/山乃口獏詩集」の2行を縦にドーンと置き、その背景に濃緑色のシートを敷いたものだ。よく見ると、シートには文字が書いてある。獏さんの詩で、つまりは獏さんの自筆稿が使われているのだ。

 詩の文字の一つ一つが、実にすばらしい。殴り書きは一切なく、どれもみな几帳面で、それでいて柔らかく膨らみがあって、優しい。解説によると、獏さんは一篇の詩のために200枚から300枚の原稿用紙を消費したそうだ。信じがたいが、この書き文字がそれを保障している。書店の棚の前で確かめてみてほしい。表紙だけでなく、全篇自筆の特製版があればいいのに。

■オリザ・サティバ
 獏詩集を読んでから一週間ほど経って、イーハトーブセンター会報53号が郵送されてきた。宮澤賢治学会員のための情報誌で、惜しみなくカラーを使った、立派な機関誌である。今号は、恒例の功労者表彰が目玉記事。賢治生誕120年という節目のせいか、26回を数える宮澤賢治賞、イーハトーブ賞に加えて「イーハトーブセンター功労賞」も設立された。こうしたシステムはだんだんややこしくなるものである。4年前からは「国際研究大会」も始まっており、記念講演が行われる。会報の編集作業も例年〈秋の号〉は多忙を極めることであろう。この作業は、経験者だから分かるが、かなり、そーとー、申し分なく、キツイ。著者校正もキツイ。・・・おっと、話が逸れた。

 その国際フォーラムの目玉は、目下ときめく人材を招いての講演会だ。今回のゲストは、アーサー・ビナード氏(詩人、翻訳家)と演劇人の平田オリザ氏。と、この人の名前を聞いたとたん、

 平田オリザ? 変わった名前だが、本名とはね。オリザは『広辞苑』には出ていないが、『定本・宮澤賢治語彙辞典』には〈稲〉の項で解説してある。オリザ氏の父が名付け親だそうで、平田穂生というのだとか。どうりで稲の親戚を誘っているような切り継ぎ方ができるわけだ。『銀河鉄道の夜』を下敷きに一幕物の『幕が上がる』を書いて、人間の命のあり方を四方八方から考え直してみたり、

 父は十六歳の時に終戦を迎えた戦中派なので、食いっぱぐれのないように、とオリザの名をつけたそうです。と、種明かしもある。おじいさんの話になって、医者でありながら詩も書いていて、「歴程」の戦前最後の編集者だった。(中略)これに続いてこんなことを語っているのには魂消た。≪詩人としては才能がなかったのですが、景気のいい医者だったものですから、パトロンのようなことをしていたそうです。事実として残っているのは、山乃口獏の第一詩集は祖父が相当お金を出したそうです。≫ガチョーンのチョン。

 賢治を実践する一人として、壊れた鏡のように無数の破片を光らせてみせたオリザ氏の講演はまだまだ続くのだが、私にも都合がある。先を急ごう。

■雁さんも出てきた
 十月九日付けの毎日新聞〈今週の本棚〉に、『平田篤胤――交響する死者・生者・神々』が取り上げられていた。著者は吉田麻子。平凡社新書の新刊で、評者は中島岳志だ。私ではない。第一、私は本書を持っていないし、まして読んでもいない。皇国史観にも格別の関心はない。私はただ何となく緊張しながら批評家の論理の進め方に感心していたのだが、文末5行になって、「ぎょへー!」と呻いてしまった。こう書かれていたからだ。≪著者の意気込みは、心を揺さぶる。著者の伯父は詩人の谷川雁。あとがきに記されたエピソードは必読だ。≫

 こんなことを書かれて、落ち着いて昼飯を食っていられますか? いったい、その、エピ、エピ、ソラシドっちゃ、どんなものなのかな、かなちゃんよ。そこでまた帽子を被りなおし、杖を振り回しながら、ヒョコヒョコと宮脇書店に出向いた次第です。ここは平台が広いので、高いところが苦手になった眼でも苦しくなく本が探せる。あった。もちろん、その場で〈あとがき〉を読みましたよ。吉田さんの伯父様の知られざる習癖が回想されているのだけれど、中島氏に習って、ここまでにしておくとしよう。もちろん、平田篤胤論はこれから読むのです。・・・なにか忘れているぞ・・・
 そうそう、平田篤胤と平田オリザ氏とは、系譜的つながりはないのでしょうね?

【おまけ】
 山猫判事は、助っ人の一郎のとっさの機転に救われて、判決を下します。「このなかで一ばんえらくなくて、ばかで、めちやくちやで、てんでなつてゐなくて、頭のつぶれたやうなやつが、一ばんえらいのだ。」
 ここで、〈頭のつぶれたやうなやつ〉だけは、一郎のアイディアではないことに注意。山猫にも尻尾と脳みそがあった。脳みそは頭の骨に入っている。猫の頭はたいてい平たい。やっぱり山猫が一番えらいのだ。
 平たいものが最高というシュールな思想は、童話「蛙のゴム靴」にも書かれている。例の〈雲見〉遊びの場面、ペネタ雲がスーッと横に流れると、蛙たちは嬉しくてたまらない。
ペネタとは蛙語で〈平らなこと〉なのだそうだ。日本語の〈寝たっぺ〉にも似ているかも。
 平田の系譜の皆様、いかが思し召す?
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きいて!きいて!
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2 コメント

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訂正 (高野射手男)
2016-10-13 13:54:59
山之口獏が山乃口獏となっているままです。編集訂正が侭ならないのです。あいすみません。
やはり、DNA? (しばこ)
2016-10-13 14:43:16
秋ではなく冬って感じですね。
吉田さんの令嬢が物書きとは、さすが谷川家の一族という証ですね。
最近のオリンピックでメタルを取った選手たちのエピソードを見聞きするにつけても生まれながらにもったものは絶対的なベースにあるのは否めないですね。

寒くなります。御身を大切になさってください。

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