漢字の音符

漢字の字形には発音を表す部分が含まれています。それが漢字音符です。漢字音符および漢字に関する本を取り上げます。

音符 「単 タン」 <二又の武器> と 「戦セン」 「獣ジュウ」

2016年01月12日 | 漢字の音符
[單] タン  ツ部

解字 甲骨文の初形は、二又になったY形の棒の先に矢じりなど尖ったものを装着した武器と思われる。のち二又の付け根に一や□、日などの付いた形に発展したが、これらは付け根を補強するかたちが発達したものと考えられる。(Yに口や日がついた形から盾とする見方もあり、私も以前この見解を取っていたが今回改めた)。単の音符のなかで、甲骨文からあるのは獣だけである。獣の甲骨文は「単(二又の武器)+犬」で、二又の武器を用い犬とともに狩りをするかたち。この字は狩シュの甲骨文字と同じでシュの発音で狩りを、ジュウの発音で狩りで獲たケモノを表している。
 しかし、単は甲骨文字で武器の意でなく、地名や施設名で使われているという[甲骨文字小字典]。のち、この武器は一人がひとつ持つことから、ひとつ・ひとりとなったと思われ、さらに一つのまとまり、ただ・たんに等の意味にひろがった。字形は篆文・旧字で單となり、新字体で使われるとき、單⇒単に変化する。
意味 (1)ひとつ。ひとり。「単独タンドク」「単身タンシン」(2)ひとまとまり。「単位タンイ」(3)たんに。ただ。混じりけがない。「単調タンチョウ」「簡単カンタン」(4)ひとえの着物(=襌)。「単衣タンイ・ひとえぎぬ」(5)うすいもの。かきつけ。カード。「名単メイタン」(名刺)「伝単デンタン」(宣伝ビラ)

イメージ 「ひとつ」 (単・襌・嬋・蟬)
      「二又の武器」 (獣・戦)
      「同音代替」 (禅・簞・弾・憚) 
      「その他」 (騨)
音の変化  タン:単・襌・簞・憚  ダン:弾  ダ:騨  
        ジュウ:獣  セン:戦・嬋・蟬  ゼン:禅 

ひとつ
襌[褝] タン・ひとえ  衣部
解字 「衤(ころも)+單(ひとつ)」 の会意形声。ひとえの衣。
意味 (1)ひとえ(襌)。裏地のない着物。「襌衣タンイ」(2)はだぎ。「襌襦タンジュ」(襌も襦も、はだぎの意)
 セン  女部
解字 「女(おんな)+單(=襌の略体。ひとえの衣)」 の会意。ひとえの薄い衣を着たあでやかな女。
意味 あでやかで美しいさま。たおやかなさま。「嬋娟センケン」(美しくあでやかなさま=嬋妍センケン)「嬋媛センエン」(あでやかで美しい)
蟬[蝉] セン・ゼン・せみ  虫部
解字 「虫(むし)+單(=襌の略体。ひとえの衣)」 の会意。ひとえの衣のような薄い羽をもつセミ。
意味 せみ(蟬)。セミ科の昆虫の総称。「蟬時雨せみしぐれ」(蟬の鳴き声が時雨の音のように聞こえること)「蟬羽ゼンウ」(蟬のはね)「空蟬うつせみ」(蟬のぬけがら。転じて、魂がぬけた状態の身)「蝉脱センダツ」(①蝉のぬけがら。うつせみ。②世俗を抜け出る。=蝉蛻センゼイ。)

二又の武器
 ジュウ・シュ・けもの  犬部

解字 甲骨文から金文まで、「單(二又の武器)+犬(いぬ)」 の会意。二又の武器をもち猟犬をつれて狩をすること。もと、狩りをする意で狩の原字(音符「守シュ」を参照)。篆文から単の下に口がついた形になり、旧字で単の下部の一が上下に分離した獸になり、新字体で獣となった。意味は狩りで獲たケモノの意。下部についた口の意味は分からないが、覚え方として、 「單(二又の武器)+口(かこい)+犬(いぬ)」 で、二又を持ち犬とともに囲いに獲物を追いこんで捕まえたけもの、と解字すると覚えやすい。狩猟の意は同音代替字の狩シュが受け持ち、発音はシュ。ケモノの意はジュウの発音を用いる。
意味 (1)けもの(獣)。けだもの(獣)。しし(獣)。「猛獣モウジュウ」「野獣ヤジュウ」「怪獣カイジュウ」(2)狩りをする。
 セン・いくさ・たたかう  戈部
解字 金文から現われる字。旧字までは戰で 「戈(ほこ)+單(二又の武器)」 の会意。戈(ほこ)を持った者と、單(二又の武器)を持った者が戦うこと。新字体で、戰⇒戦に変化した。
意味 (1)たたかう(戦う)。いくさ(戦)。試合。「戦争センソウ」「観戦カンセン」(2)おののく(戦く)。おそれる。ふるえる。「戦慄センリツ」(戦も慄も、おののく意)

同音代替
[禪] ゼン・ゆずる  ネ部  
解字 旧字は禪で 「示(祭壇)+單(タン)」 の形声。タンは壇タン・ダン(一段と高い平らな台)に通じ、平らな祭壇を設けて天地の神をまつる儀式。古代中国で即位した天子が聖山で行なった祭祀。即位した天子が行うので、前の天子が位を「ゆずる」意ともなる。のち、仏教の禅宗の意味が加わった。発音は、タン⇒ゼンに変化。
意味 (1)まつる。「封禅ホウゼン」(天子が天地の神に即位を知らせ、天下太平を感謝する儀式)(2)ゆずる(禅る)。天子が位をゆずる。「禅位ゼンイ」(位をゆずる)「禅譲ゼンジョウ」(天子がその地位を子に世襲させず徳のある者に譲ること)(3)仏教の禅宗のこと。座禅により悟りをひらき人生の真の意義を悟ろうとする仏教の宗派。「禅寺ぜんでら」(禅宗の寺院)(4)[仏]精神を統一して真理を悟ること。「坐禅ザゼン」「禅定ゼンジョウ」(精神を統一して真理を考えること)
簞[箪] タン・はこ  竹部
解字 「竹(たけ)+單(タン)」 の形声。タンは儋タン(かめ・にないがめ)に通じ、竹の容器の意。竹以外の小さめの容器にも使う。
意味 (1)わりご。竹で編んだ丸い飯びつ。「簞食タンシ」(わりごの飯)(2)はこ(簞)。竹で編んだこばこ。こばこ。「簞笥タンス」(箱形の収納家具)(3)ひさご。ひょうたん(瓢簞)。
 ダン・タン・ひく・はずむ・たま  弓部

解字 甲骨文は弓に丸い玉をつけた形で、はじき弓をあらわす。篆文・旧字は彈で 「弓+單(ダン)」 の形声。ダンは団ダン(まるい)に通じ、弓でまるい玉をとばすこと。また、はじき弓のたまが、はずむこと。日本でも正倉院に弾き弓がある。弓の弦の中央に丸座とよばれる玉を受ける台座をはめて、そこに玉を置き、弓を引いて飛ばす。
  復元された弾き弓(左)と、弦につけた丸座(兵庫県立考古博物館)
意味 (1)はじき弓。たまをはじきとばす弓。「弾弓ダンキュウ」(はじきゆみ)(2)たま(弾)。はじき弓のたま。鉄砲のたま。「弾丸ダンガン」(3)はじく(弾く)。はずむ(弾む)。「弾力ダンリョク」「弾性ダンセイ」(4)ただす。せめる。「糾弾キュウダン」「弾劾ダンガイ」(罪や不正をあばき追及する)(5)[琴や琵琶などの弦をはじくことから]ひく(弾く)。かなでる。
 タン・はばかる  忄部
解字 「忄(こころ)+單(タン)」 の形声。タンは弾タン・ダン(問いただす=糾弾)に通じ、糾弾されておそれる心。おそれつつしむ意となる。
意味 はばかる(憚る)。おそれる。さしひかえる。「忌憚キタン」(いみはばかる。遠慮)「忌憚キタンのない意見」(遠慮することのない意見)「畏憚イタン」(おそれはばかる)「敬憚ケイタン」(敬いはばかる)

その他
驒[騨] ダ・タン  馬部
解字 「馬(うま)+單(タン)」 の形声。タンという名の馬。毛にまだら模様のある馬をいう。單のイメージは不明。新字体に準じた騨を使うことが多い。漢音はタン・呉音はダ。
意味 (1)まだら馬。連銭あしげ。毛に灰色の丸い斑点のまじった馬。(2)地名。「飛騨ヒダ」(旧国名。岐阜県北部。古くは「斐太」や「斐陀」と書いた)「飛騨市ヒダシ」(岐阜県北部の市)
<紫色は常用漢字>

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