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大衆が生み出すことの強み:日本文化の論点(2)

2017-03-30 10:50:36 | 書評:日本人と日本文化

■『日本文化の論点 (ちくま新書)

日本のオタク系文化の歴史は、コミックマーケットからニコニコ動画に至る二次創作空間のコミュニティの歴史だと著者はいう。二次創作することで、ときにオリジナルと異なった人生をキャラクターに歩ませ、あるいは自分が作った歌を歌わせることでキャラクターへの愛着を増す。

初音ミクの「擬人化」とその成功に、二次創作の魅力の本質がよく現れている。初音ミクは、とりわけ消費者たちの二次創作的な欲望(キャラクターへの愛)を呼覚ます。その創作の舞台となっているのがニコニコ動画だ。初音ミクは、その中で巨大な存在感をもつ一大ジャンルに成長した。そこでユーザーは、創作者でもあり消費者でもある。どちらかに明確に区別することはできない。この曖昧な「中間の空間」こそが、現代日本の二次創作的な文化空間だと、著者はとらえる。

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こうした二次創作的な消費文化なくして、現代日本のサブカルチャーの本当の快楽を味わうことは難しいという。二次創作的な消費をすることで、その快楽の本質にたどり着けるような表現様式こそが、現代日本のサブカルチャーの中核をなしているからだ。作品(ソフトウェア)だけ輸出しても現代日本のサブカルチャーの本質は伝わらない。消費環境とコミュニケーション様式(ハードウェア)が輸出されてこそ、その全体が伝わる。

初音ミクだけ見ていても、楽しみは半分でしかない。ニコニコ動画で二次創作を表現できる環境も丸ごと輸出されることで、その本当の面白みが伝わる。大切なのは、日本産のアニメが世界中で見られることよりも、日本的なアニメの「楽しみ方」がグローバルスタンダードになり、世界中のオタクたちが、それぞれのコミックマーケットに集まることではないか。これが、この本での著者の主張のポイントだろう。

話を少し広げれば、戦後の日本が輸出に成功し、グローバル市場を牽引した多くが、コミュニケーション様式の輸出だったのではないか。たとえばトヨタの「カイゼン・カンバン方式」。とくに「カイゼン(改善)」は、主に製造業の現場の作業者が生産現場のいろいろな問題をボトムアップ方式で改善していく方式で、日本的な集団主義を利用した集合知的なシステムともいえよう。通信カラオケもまた、録音された伴奏に合わせて自分で歌う二次創作的なゲームだともいえる。

ともあれ、欧米から輸入されたものを、日本的なコミュニケーション空間で運用している間に、いつの間にか日本独自のものに変えてしまう。日本車、ジャパニメーション、ニコニコ動画‥‥世界に輸出されるべき日本的想像力の核には、この独特のコミュニケーション様式にあると著者は考えている。これは、先に考えた、日本文化の「造り変える力」とも関係が深い。以下の記事を参照されたい。

日本の秘密「造り変える力」(1)
日本の秘密「造り変える力」(2)
日本の秘密「造り変える力」(3)

さて、このブログでの私の関心は、著者のいう「日本的なコミュニケーション空間」がどのように作られて来たかということである。それは日本文化の伝統とどのようにかかわるのか。具体的には、このブログで追求している「日本文化のユニークさ8項目」とどうかかわるのか。もちろんすべての項目が多かれ少なかれ関係しているであろうが、ここでは「日本的なコミュニケーション空間」とは何かを考えながら、いくつかの項目を取り上げてみたい。

「初音ミク」現象に典型的に見られるような「日本的なコミュニケーション空間」とは何だろうか。

①まず特徴的なのは、多くの人々の協働作業、集合知による創作活動であるということ。
②それが上位に立つ指導者のもとに行われるのではなく、参加者の対等意識、平等意識の上に成り立っているということ。
③参加者一人一人の「自分たちの創作」いう当事者意識が、作品への愛着を増しますます完成度を上げていくこと。

そして、これらの特徴が成り立つ前提には、民族や言語、階級などによって分断さず、宗教やイデオロギーによる制約がない自由な発想と表現と相対主義的な価値観を共有する、巨大で知的な庶民の存在がある。

日本は、かつて「一億総中流」といわれたような、巨大な中間層があったからこそ、マスとしてのマンガ市場が出来、そこにいろいろな表現が芽生えてきたと言われる。今は日本も格差が広がったといわれるが、それでも日本の社会は、階層性のきわめて少ない、巨大な中間層が中心をなす社会だ。

さらに言えば、世界中のほとんどどの国にも大衆をがっちり支配する知的エリート階級が存在する。しかし日本ではそのようなエリート階級は、元来大きな力をもたず、近年はますますその存在感を失っている。実は、そのような傾向は江戸時代からあった。江戸の庶民文化が花開いたのは、武士が、権力、富、栄誉などを独占せず、それらが各階級にうまく配分されたからだ。江戸時代の庶民中心の安定した社会は世界に類をみない。歌舞伎も浄瑠璃も浮世絵も落語もみな、そんな庶民が生み育てた庶民のための文化である。庶民は自らの文化を育て楽しみ、それが江戸文化の中心になっていった。

庶民は、どんな仕事をするにせよ、自分たちがそれを作っている、世に送り出している、社会の一角を支えているという「当事者意識」(責任感)を持つことができる。自分の仕事に誇りや、情熱を持つことができる。近代以前に、庶民中心の豊かな文化をもった社会が育まれていたから、植民地にもならず、西洋から学んで急速に近代化することができたのである。

このような日本社会のあり方が、上に述べた現代の「日本的コミュニケーション空間」の形成に影響しているのは確かだろう。

階級によって分断された社会では、下層階級の人々はどこかに強力な被差別意識があり、自分たちの仕事に誇りをもつという意識は生まれにくい。奴隷は、とくにそういう意識を持つことができない。日本文化のユニークさのひとつは、奴隷制を持たなかったことであった。奴隷制の記憶が残り、下層階級が上層階級に虐げられていたという記憶が残る社会では、労働は押し付けられたものであり、そこに誇りをもつことは難しいだろう。自分たちの協働作業に当事者意識と責任感をもって取り組んだり、ましてやそれを楽しんだりいう社会風土は育ちにくいのである。

逆に日本には、

①知的エリートにコントロールされない巨大で平等性の高い大衆層が存在する。
②その各自が、現場でどんな仕事をするにせよ、自分たちがそれを作っている、世に送り出している、社会の一角を支えているという「当事者意識」(責任感)を持っている。
③だからこそ、互いの仕事を信頼でき、相互に協力し合いながら、共通の仕事を成し遂げたり、社会全体の質を保っていくことができる。

これが広い意味で「日本的コミュニケーション空間」の基盤をなすもので、日本独特の風土と地理的条件、歴史の中で育まれてきたものである。そして、そのような信頼に基づく、平等で細やかなコミュニケーション空間が、現代のサブカルチャーにも受け継がれている。

これらを日本文化のユニークさ8項目との関連でいえば、次の二つに関係が深いだろう。

(4)大陸から海で適度に隔てられた日本は、異民族により侵略、征服されたなどの体験をもたず、そのため縄文・弥生時代以来、一貫した言語や文化の継続があった。

(5)大陸から適度な距離で隔てられた島国であり、外国に侵略された経験のない日本は、大陸の進んだ文明のの負の面に直面せず、その良い面だけをひたすら崇拝し、吸収・消化することで、独自の文明を発達させることができた。

異民族との闘争のない平和で安定した社会は、長期的な人間関係が生活の基盤となる。相互信頼に基づく長期的な人間関係の場を大切に育てることが、日本人のもっとも基本的な価値感となり、そういう信頼を前提とした庶民文化が江戸時代に花開き、現代に引き継がれたのである。

また、異民族に制圧されたり征服されたりした国は、征服された民族が奴隷となったり下層階級を形成したりして、強固な階級社会が形成される傾向がある。たとえばイギリスは、日本と同じ島国でありながら、大陸との海峡がそれほどの防御壁とならなかったためか、アングロ・サクソンの侵入からノルマン王朝の成立いたる征服の歴史がある。それがイギリスの現代にまで続く階級社会のもとになっている。日本にそのような異民族による制圧の歴史がなかったことが、日本を階級によって完全に分断されない相対的に平等な国にした。武士などの一部のエリートに権力や富や栄誉のすべてが集中するのではない社会にした。

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《関連図書》
★『日本の「復元力」―歴史を学ぶことは未来をつくること
★『格差社会論はウソである
★『ユニークな日本人 (講談社現代新書 560)
★『日本の曖昧力 (PHP新書)

 

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