散日拾遺

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ローカリティ

2017-06-16 07:59:29 | 日記

2017年5月20日(土) ~ 引き続き北九州のこと。

 ホテルの向かいに末吉耳鼻科があり、角を曲がると香月眼科である。末吉も香月(かつき)も覚えのある姓で、そういえば彼らいずれも福岡の産だったような。懐旧にふけるこの時点で頭の中では博多と北九州は区別されておらず、いわんや北九州の中で小倉と黒崎の区別もない。ただ、福岡と博多を区別すべきことだけを、幼い時から教わった。朝、北九州サテライトの事務担当者と挨拶を交わしながら、自分の思い違いをたちどころに悟った。事務長さんは根っからの北九州なので、博多から黒崎に戻るとホッとする、少々街中が剣呑であろうと些細なこと、飲むなら断然ここが良いのである。

  放送大学の面接授業はいつだって楽しいが、今回はオマケ付き。着任して最初の年度に担当した修士課程修了生の中に長崎在住の理学療法士O君があり、彼がもともと北九州の生まれ育ちで、故郷の町で一席設けてくれたのである。さらに受講者中にもひとり修士課程修了生があり、こちらSさんは博多周辺の出身、三人で歓談する。

 「やはり博多と北九州は・・・」

 「違います!」と声が揃う。

 「北九州でも、黒崎と小倉は・・・」

 「違います!」と再びキッパリ。

  よいよい、これでよい、これが良いのだ。街ひとつごとに言葉も気風もわずかながらハッキリ変わる、微妙なローカリティを頑固に守るのが田舎の良さである。その対極に東京があって、こちらは「都市の空気は自由にする」のが身上。しかし、国全体が東京になったら滅びは近い。

 そもそも北九州市は1963年の大合併で成立した、五(六)大都市以外では初の政令指定都市、「門司、小倉、戸畑、若松、八幡で五つ」とフシをつけて覚えたことがあったっけ。一括りにするのがどだい無理な、高度成長期の政策的産物である。そんなことも実際に来てみないといつの間にか忘れている。

***

  この楽しい時に、なぜそんなことを思い出したか分からないが・・・

 宴会の席で、たとえば先輩が「自分の靴にビールを注いで後輩に飲ませる」という蛮行のあることが話題になった。見たことはないが聞いたことはある。無論ハラスメントに決まっているが、ふと思ったのはビールなんぞを並々と注いだ靴は、その後に履けたものではなかろうということである。一足の靴は安くもなし、足に馴染んだ靴ならそこそこ大切でもあり、してみるとこのハラスメントには独特の饐えた意味合いが備わっている。押しつける側にも物心両面でのちょっとした痛手が生じており、「足を汚し靴が履けなくなってでも、末永く酒を飲ませてやる」というメッセージと見られなくもない。少なくとも、相手の靴にビールを注いで飲むことを強要するのとは全く意味が違う。

 もちろん肯定するのではない。今の僕らには異次元の話だが、それがある種の象徴行為として成立するような世界が、意外に近いところにあった ~ 今でもたぶんある。四半世紀前の最初の電通事件では、過労自殺を遂げた青年がまさにこの儀礼を強いられたと伝えられている。青年がこの倒錯的なありがたさを受け取れない文化の中で育ったのだとしたら ~ 間違いなくそうだと思うが ~ その苦痛たるや想像に余るものだったろう。

 O君は鉄骨ラガーマンだが心は紳士、Sさんも然り。黒崎の夜は和やかに過ぎ、分不相応な歓待で頭のてっぺんまでゴキゲンに染まった者、約一名。

 Ω

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