▼映画「若おかみは小学生！」口コミによる広がりも納得の秀作
令丈ヒロ子による同名児童向け小説シリーズを
「茄子 アンダルシアの夏」の高坂希太郎監督が映画化した長編アニメ。
小学6年生の少女おっこが祖母の営む山間の温泉旅館で若女将として奮闘する物語。
公開は9月21日だが、不入りを心配したファンがSNSで応援拡散を始め
週を追うごとに動員が増加、1ヶ月経過した現在も上映回数を増やしたり
新たに上映を始める劇場が出始めるという異例の興行になっている。
同時期にテレビアニメ版も作られているが本作は良くあるテレビ版の総集編や
追加シーンを入れた完全版ではなく、劇場用に作り直されたもの。
大筋は同じながら絵のクオリティは大幅にアップ、性格付けも若干変更されて
ドタバタアニメっぽさの強かったTV版とは随分印象が異なっている。
アニメーション制作はマッドハウス。
音楽は「東京ゴッドファーザーズ」の鈴木慶一。
声優陣は小林星蘭、水樹奈々、松田颯水、遠藤璃菜、小桜エツコ、
設楽統（バナナマン）、ホラン千秋、折笠富美子、花澤香菜、山寺宏一など。
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映画は温泉旅館で働くおっこの一年を四季折々の美しい風景の中で描いている。
絵のタッチはバリバリの現代風CGなので手描きの温かさはないものの、
ここまで美しい美術が見られたのは「ももへの手紙」以来ではないか。
一瞬しか映らない旅館のフロントやひなびた温泉街など
隅々まで気配りの届いていて感心させられる。
「千と千尋の神隠し」も湯屋で働く少女の物語だが、
千の修行が魑魅魍魎達に揉まれながらのハードワークだったのに対し、
祖母、旅館の仲居や板長、おばけのウリ坊や小鬼、
旅館を訪れる客達が皆温かい目でおっこを見守っているのが大きな特徴。
唯一おっこと敵対する同級生の真月ですら
高い志を持って街全体を盛り上げようとしているだけで
1本筋の通ったキツさなので不快感が無い。
この辺は「小公女セーラ」あたりから続くヒロインvsライバルの典型的なパターン。
本作の大きなテーマは『死』である。
映画の冒頭でおっこは自動車事故に遭い両親を失ってしまう。
見を寄せた祖母の旅館には、祖母と仲良しだったウリ坊の霊が居着いている。
訪れる客も恋人と破局したり（喪失感という意味では共通）、母を失っていたり、
目を奪われるほどの美しい景色の中で、様々な形の死や別れを描いている。
ほとんどの場合、おっこと同い年の子供に死は現実味のない恐怖に違いない。
だが、未来だけを見据えて目一杯楽しんでいればそれで良い年頃の中にも
おっこのような境遇の子はたくさんいて、幾夜も涙を流し、人の温かさに触れることで
哀しみを乗り越えて笑顔を取り戻してゆくのだ。
おっこにとっての若女将業は、両親の死を日々の忙しさの中で忘れさせてくれ、
たくさんの人に感謝される悦びも教えてくれる最良の環境に違いない。
しかし、事故のショックは身体の奥深くにまで浸透し、時折顔を出す。
PTSDについての表現もかなりストレートで、
「河童のクゥ」にも似たシビアさに大人の私も胸が苦しくなった。
絵柄とタイトルから、幼女を主人公にした大きいお兄さん向けの
媚び媚びアニメだろうと、詳しく中身も調べずにスルーしていた自分を恥じた。
94分しかないため若干御都合主義なところもあるにはあるが、
「子供向けの作品を作る大人の責任」を考え抜いて作られた力作。
「茄子 アンダルシアの夏」から15年もかかってしまったが、
高坂希太郎監督の新作に早くも期待してしまう。
映画「若おかみは小学生！」は現在公開中。
