ギリシャ神話のメドゥーサは見た者全てを石に変えるという。
ちなみに最近のボクは見た女性全てを花嫁姿に換えてます。脳内で。
男だったら惚れた女の花嫁姿を少しは想像するよね。
結婚願望が弱かったあの頃のボクですら、
それが本気で愛した女であれば、チラリと想像しては
結婚するならこんな子なんだろうな…
と思ったもんです。(遠い目)
正月休み、実家に帰ったら夕飯がお鍋だった。
「ポン酢と紅葉おろしで召し上がれ」と母が言った。
またポン酢かよワンパターンだな…とブツクサ呟きながらボクは食卓についた。
「ポン酢はすっきり爽やかで美味しいじゃない!」
それが母のお決まりの言葉だ。
「今夜はフグ鍋よー」
またフグかよワンパターンだな…いやこれは嘘ですごめんよ見栄張った。
缶ビールをプシュッと開け、グビッとひと口やる。
次に、フグと野菜が程好く入るように杓子ですくい、取り皿へと入れる。
その後、紅葉おろしを乗せ、上から軽くポン酢を注いだ。
フグの身をほぐして箸でつまむと、ひょいと口の中へと放り込む。
うん、うまい。
ボクは酒とそれに合う料理があればそれで十分満足できる。
別に安い魚でも良い。好き嫌いは無い。
友人からはよく、いつも美味そうに食べるよなと言われる。
それはボクが食に集中するからだろう。
多分、味わうことに没頭するからだ。
食事中は食べ物にしか目が向かないし、
誰かに何か喋り掛けられたら返事をするぐらい。
お喋り好きな女性と食事デートでもした日には、
きっと「つまらない男ね」と思われるだろう。
その位、ボクは食に集中する。
で、集中してたら、プシュッと隣で音がした。
見れば親父が次の缶ビールを開けていた。
遅れて席に着いた母のほうからも、プシューッと音がした。
久々の一家団欒。みんなで酒を飲む。やはり家庭料理はいいもんだな。
と思ってたらね、
「きゃーどうしよ!」
って、年齢に似つかわしくない、OLみたいな母の声がした。
何ごとだ!と、
食べ物ばかりに目をやっていたボクはすぐに慌てて母のほうを見た。
そしたら彼女、固まってた。
たった今しがたメドゥーサにやられちゃいましたみたいになってた。
どうやらポン酢を自分の取り皿に注いでる最中の出来事だったみたいなんだけど、
ハッとした表情で、注いでいる途中のポン酢をビタッと止めていた。
取り皿にすでに注がれたポン酢と、片手に持ったポン酢を恐る恐る見比べてた。
何このポン酢中のフリーズ。
なんかね、ポン酢の色とは対称的に、彼女の顔面は真っ白になってた。
まさにポン酢ダブルホワイト。
まだまだ引っ張るよポン酢。
ポン酢、ポン酢、
奥様の強い味方ポン酢。
ポン酢、ポン酢、
母の大好きなポン酢。
ポン酢、ポン酢、ポン……酢?
え?あれ??
って、ええええええーーー!?
何そのごっついポン酢!!
思わず目を疑った。
嘘だろ?お母さん…、それ…。
お母さん、何とか言ってくれよ!お願いだよ!!
って、だいぶ引っ張りましたけど、
この衝撃的な出来事を高畑勲の世界でお伝えするとね、こうなる。
清太「節子!それ、ポン酢やない!米英生まれのコカ・コーラや!!」
愕然とした。
多分、母本人よりも、
今後面倒を見ないといけないかもしれない息子のほうが相当なショックだったと思う。
そうか、あのプシューッってのはそのプシューッだったのか…凹
って、その音で気付けよ!!
ポン酢は開けた時、プシューッともポンとも言わないだろ!
それが未開封のポン酢だったとしても、全然違う音だろ!
あ、そういえばあの栓開ける時って
キュパッ
て言うよね。うん。
あのキュパッていう音、好き。
なんか可愛いよね。たまんないよね、キュパッ。
…そんな話はどうでもいいんですよ。
だいたいね、そのコーラ、
1.5リットルのほうじゃね?
百歩譲って500mlのほうならまだ分かるよ?
ポン酢と同じくらいのサイズだし。
でも1.5て…業務用のポン酢か!!
ポン酢なんて比べ物にならないほどデカイ。
恐ろしいくらいデカイわけですよ米英生まれは。
島国日本と大国の力の差をまざまざと見せ付けられた感じ。
清太「負けたって本当ですか!日本が?大日本帝国が?」
そりゃ負けるわな、って思うくらいの歴然たる格差。
いやでも、お母さん、惜しかったね。
色はね、合ってた。
あ、あと“すっきり爽やか”ってのも、ね…。
その後、フリーズしたオカンが次にとった行動に、また唖然とした。
彼女、止めてたコーラをね、さらに注ぎ足しだした。
すまし顔で。何事も無かったかのように。
うわ!開き直ってるよこのひと!
そんで、取り皿に両手を添えるとすっと持ち上げて
ズ、ズズーっと飲み干した。
食前の、このタイミングで!?
その姿が不意に神前結婚の三々九度みたいに見えてしまい、
ボクの脳は否応無しにオカンを花嫁姿に変換した凹
そん時思った。
親父は何でこのひとと結婚したんだろう?って。
焦って結婚なんてしないほうがいいかもしれないな…。
そう気付かせてくれたのは母とポン酢でした。
