Short Stories

vol.4 「どしゃぶり麻玲」(1/7)

どしゃぶり麻玲 美しいというより愛らしい少女だった。後姿が少年のように見えたのは、髪が短くて薄いアッシュブラウンだったのと、腰も肩も細く、柔らかな土から一本だけ伸びたアスパラガスを想像させたから。よく見れば、目も眉もくっきりしていて化粧などしなくても人目を引く。唇だけに淡い色のグロスを塗っていた。


 交差点を渡っている途中でいきなり雨が降り出した。デパートの玄関の屋根の下に走りこんだとき、走ってきた勢いで隣の女の子と肩が触れた、それが麻玲だった。


 赤紫色にたるんだ空から雨が落ちてくる。どんどん強くなった。麻玲がつぶやいた。


 「運命なのね、これ。交差点の真ん中で雨が降り出すって、昨日からわかってたの、やっぱり運命」


 声が澄んでいた。私に話しかけているのだと判った。


 「だったら傘を持ってくればよかったのに」


 横目で見て呟き返した。


 「傘をさしたら、雷がドカンと来て、あのあたりで死んでたわ。怖い運命から逃げ出したの。これは、生きていくコツ」


 少女のとがった顎の先から、しずくが落ちた。雨はさらに強くなって、落ちてきた雨粒が路面で跳ね返って、黒いアスファルトに白い泡が立つ。怖い運命と怖くない運命、雷は怖いけれど雨に濡れるのはたいしたことじゃない。最近の女の子って、何を考えてるんだか。寂しいのかしら。わずかに柑橘系の匂いがした。


 「雷なんか落ちそうにないけど」


 「そのひと言も運命!」


 彼女が頬を光らせて、人生を乗っ取ったような挑発的な顔で言ったので、私もそのとき、たしかに運命なんてそんなものかもしれないと、ばかばかしい気分で納得した。この子は電車代かタクシー代を欲しがってる、でなければ丸いアイスクリームが乗ったコーラかコーヒー。昼ごはんがまだならカレーライス代。運命に身を任せても千円札一枚ですむ。