因幡屋ぶろぐ

劇評かわら版「因幡屋通信」主宰
宮本起代子による幸せの観劇記録。
舞台の印象をより的確により豊かに記せますよう・・・

劇団朋友アトリエvol.16 「久保田万太郎を読むⅡ」ドラマリーディング『釣堀にて』『蛍』

2017-04-21 | 舞台

*久保田万太郎作 西川信廣(文学座)演出 公式サイトはこちら 西荻窪/朋友芸術センター 25日まで
 文学座の会報「文学座通信」には、劇団の俳優や演出家が劇団外で行う活動についても記載されている。西川信廣が演出し、劇団の女優筆頭である本山可久子が客演するこの公演を知り、迷わず観劇を決めた。公演リーフレットには本公演企画の西海真理(『蛍』のとき役で出演も)の【ご挨拶】には、昨年4月に「久保田万太郎を読む」のドラマリーディングが実現し、好評裡に終わったこと。そして今回も演出・美術・照明・音響・演奏(ピアノ演奏・松波匠太郎)を同じメンバーで上演の運びとなったことが記されている。昨年の演目は『冬ざれ』と『十三夜』の2本立てで、もし知っていたならぜったいに見たのに!と残念でならない。  

 本山可久子は今回『釣堀にて』の芸者春次役だ。夏には朋友において、久保田作品のワークショップの講師を務めたとのこと。出演者のなかで、というより今の演劇界のなかで、久保田万太郎から直接の指導を受けた体験を持つ貴重な存在である。昨年暮れの文学座アトリエ公演『かどで・舵』の関連イベントでは、「久保田先生のことは、ほとんどが悪口になっちゃいそう」と言いつつ、突然の死のいきさつを語るときに涙ぐみ、言葉に詰まる場面もあって、久保田万太郎という人、その作品の魅力について、もっと知りたいという気持ちを掻き立てられた。

 こぢんまりとした劇場で、客席は40席ほどであろうか。ステージには窓のようにも障子のようにも見える大きな円柱、上に大きな実の成った樹木がある。上手奥にピアノがあり、前回に続いて音楽を担当する松波匠太郎が生演奏を行う。出演者は時には立ち上がったり歩いたりもするが、基本的に箱状の椅子に腰かけて台本を読む。オーソドックスなリーディングである。

 改めて考えてみると、久保田万太郎作品のリーディング公演は、これが初めてではないだろうか。戯曲はいくつか読んだことはあるが、ト書きまではあまり意識していなかった。
 衝撃を受けたのは、1本めの『釣堀にて』である。冬の昼下がり、釣堀で青年と老人が並んで釣糸を垂れている。青年が非常に複雑な自身の家庭事情についての話したあと、老人が席を外す。そのとき「信夫(青年の名)は涙を拭く」というト書きが読まれたのである。これまで本式の上演で3回は見ているにも関わらず、自分には、涙を拭く信夫はまったく記憶にない。「涙を拭く」ということは、信夫は涙を流していたか、溢れそうになっていた、にじませていた等々、涙を拭く動作に至るまでの心の動き、声の調子、表情の変化がそれなりにあったはずで、そういった「涙周辺の状況」についても一切認識がない。信夫が泣いていたとは初めて知ったぞ。いったい自分は何を見てきたのか。

 2本めの『蛍』については昨年9月、文学座の自主企画公演を観劇しており(1)、この複雑な因果関係にある二組の夫婦の物語は一応頭に入っているつもりであった。しかし今回改めて台詞に集中して聴いてみると、どうしようもない人間の心の悲しさ、営みの切なさがいっそうしみじみと伝わってくる。

 2本通して、若手、中堅、ベテランともにしっかりと稽古が入り、心のこもった舞台であった。劇団朋友の名は知っていたが、公演に足を運ぶのはようやくこれがはじめてで、嬉しいデヴューの夜となった。

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