因幡屋ぶろぐ

劇評かわら版「因幡屋通信」主宰
宮本起代子による幸せの観劇記録。
舞台の印象をより的確により豊かに記せますよう・・・

ガラス玉遊戯vol.9 『落ちこぼれアイドルだった私が社長になって1年で会社を立て直した10の方法』 

2016-07-27 | 舞台

*大橋秀和作・演出 公式サイトはこちら スペース雑遊 31日(日)まで (1,2,3,4,5

 企業でも学校でも自治体でもよい。何らかのコミュニティがあり、そこはかつての勢いを失い、人びとも疲弊している。そこへ現れたのが型破りの新参もの。あるいは何やらわけありの凄腕の持ち主。コミュニティを立て直そうとする動きに、「救世主だ」と心酔するものもあれば足を引っ張るものもいる。猛反発しながら何らかのきっかけで心を開き、力を注ぎ始めるものが増えはじめ、コミュニティは息を吹き返してゆく。
 これまでたくさんのドラマや映画でみてきた記憶がある。主人公にも脇役にもいくつかパターンがあり、ストーリー展開も何となく読めるものが少なくない。それでそのような作品が次々に生まれるのは、一見ありきたりの成功譚を、受け手が決して飽きていないどころか、求めてしまうためではないだろうか。

 それは夢を見たい、人の真心は通じる、努力は報われる、必ず最後に愛は勝つと(言い過ぎか)と信じたいからだ。 

 本作はいわゆる「パターン」や「常套手段」、「類型」という手法に対し、またそれらを使うことによって受けるかもしれない批判に対しても臆するも逃げることもなく、堂々とぶつかった印象を持つ。タイトルにしても、芝居の内容を説明する長々としたものはときどきお目にかかる。「地下アイドル」というポジションがあるのだそうだ。別名「ライブアイドル」とも呼ばれ、テレビやグラビア誌などへの露出がむずかしいため、地道なライブ活動や握手会などを通じてファンと交流する活動を行っているタレントを指すとのこと。その地下アイドルとしてもぱっとしなかった女性が30歳を過ぎ、急死した父親が経営する地方のガス会社「小倉リビングサービス」を継いで奮闘する物語である。

 アイドルの芸能活動の乗りで張り切る社長に社員たちは戸惑うが、その「戸惑い加減」を人物のキャラに対して実に的確に設定してあるので、一見テレビドラマでいかにもありそうな人物配置のように見えて観客を惹きつけ、飽きさせない。営業のロールプレイの場で、愛想の良くない若手の営業マンや社長の乗りに終始引き気味だった女性社員をみるみる巻き込んでいく様相など、客席も大いに沸く。

 セクハラまがいの発言を繰り返す反抗的な男性社員が歩み寄り、どうやって溶け込んでいくかという点は、じっくり見たかった。また物語は決してハッピーエンドではないのだが、そこへの運び方にも劇作家にはあとひと息がんばってほしい気もする。社長を演じる西尾美鈴の「イタイ」感じは出そうと思って出せるものではなく、それが一転最後に見せる暗い表情と声をもっと活かすことも可能ではないか。

 これがテレビドラマの連続ものなら、毎回見せ場を作り、中心になる人物のエピソードを重ねて最終回に持ってくことができる。100分の演劇でどこまでどのようにつくるかは、おそらくこちらが想像するより悩ましいであろう。だが作・演出の大橋秀和の筆致はあくまで誠実だ。次回作にも期待したい。

  観劇日の今夜は、初日の緊張か、何らかの事情があったのか、俳優の台詞が不安定で、ヒヤリとさせられたり舞台のリズムが乱れる場面が散見していたのは残念であった。ぜひつづく4日間は精度を高め、充実のステージにならんことを。がんばれ、小倉リビングサービス、そしてガラス玉遊戯。

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