因幡屋ぶろぐ

劇評かわら版「因幡屋通信」主宰
宮本起代子による幸せの観劇記録。
舞台の印象をより的確により豊かに記せますよう・・・

第14回MSP(明治大学シェイクスピアプロジェクト)『トロイア戦争-トロイラスとクレシダ-』

2017-11-11 | 舞台

*公式サイトはこちら 原作・ウィリアム・シェイクスピア 翻訳・コラプターズ(学生翻訳チーム) プロデューサー・川島梨奈(文学部2年) 演出 新井遥奈(情報コミュニケーション学部3年)監修・青木豪 コーディネーター・井上優 サブコーディネーター・大林のり子(1,2)明治大学駿河台キャンパス/アカデミーホール 12日で終了

 本公演に対する自分の思い入れは昨年と変わらずどころか、いっそう強まってしまい、したがって本稿は舞台そのものについてはほとんど言及しておりません。どうかご容赦ください。

 昨年同様、演出もプロデューサーいずれも女子学生であることに、昔の卒業生はいまだに驚きを隠せない。もっとも本プロジェクトは、キャスト、楽器隊、スタッフ合わせて126名で、その男女比は男子29名、女子97名と女子の割合が圧倒的に高い。となると男女に関わらずやれるものがリーダーを務めねば先へ進めない。彼女たちはなるべくしてリーダーになったと考えてよいだろう。裏方においても各部署のチーフが必ずしも最高学年ではないのも特徴だ。学生同士、わずか数年のちがいと言うなかれ。たった1年でも先輩は先輩、後輩は後輩だ…というのももはや古い感覚かと思われるほど、本プロジェクトは各部門いずれも男女や学年にこだわらない自由な印象がある。

 キャストに関しては、男性の人物の幾人かを女子学生が演じている。みな非常に力強く、かといって作りすぎや類型にも陥らず、楽しんでいる様子がうかがえるが、やはり願わくば男子学生に演じてほしいとの思いもあり、これは失敗すれば噴飯ものだが、男子が女性の役を演じるところもあってよいのかとも思う。いやあくまで自分の妄想だが。

 あるコミュニティの研修会において、今の中高校生や大学生について、「外国人と思って接すること。海外に行く際、その国のことばや習慣を学習するように、彼らが日常で使う言葉をまず知るべし」と言われ、現代若者用語をいくつも教えられたことがある。

 スマホをからだの一部のように自在に用い、SNSを使いこなす一方で、彼らには実際に顔を突き合わせてのやりとりは苦手、というより生身のコミュニケーションを取ろうという感覚がないという。自分の興味があるものには熱中するが、そのほかのものには関心を示さない。そういうものが「存在する」ことすら意識にないから、彼らが社会の中心になるころに老年となるわれわれ中高年は、「DELETされるでしょうね」というのが、学内外でよく聞く声である。これが当世若者気質というものだとすると、まことに寒々しい。

 しかしながら受付にはじまり、客席への誘導、トイレの案内は礼儀正しく行き届いており、カーテンコールが終わるや、1階ロビーに集まり、エスカレータで降りる観客に向かって来場のお礼を口々に言うキャストの様子を見ていると、今の学生たちも捨てたものではない。それどころか自分たちよりもずっと熱いものを持ち、一生懸命なすがたが眩しいほどだ。わたしはこちらも確かに彼らの顔であり、そこに希望を見出したいのである。

  本作はハッピーエンドの大団円ではない。やりきれず、後味がよいとは言えない作品である。しかしそういう作品に正面からぶつかった経験は、きっと彼らの人生の糧になるのではないか。劇中の人々ほどではないにしても、矛盾や理不尽、避けようのない不運や不幸は絶えず人を襲い、打ちのめす。そんなときに、400年前に書かれた物語がなぜ人口に膾炙し、世界で上演され続けているのか、そして若い日にその物語を自分たちで作り上げたときに感じたことを思い出してほしい。

  MSP公演は客席の雰囲気がとても優しく温かい。学生のご父兄が多く来場され、回数を重ねているだけに、卒業生や関係者のリピーターも訪れ、安定感がある。5回の公演がほぼ満席で、4000名の来客があるのだから、学内のイベントとしては相当規模であり、十分な結果を毎年出し続けていると言ってよいだろう。

 折しも昨年の第13回公演を中心としたドキュメント本、『明治大学シェイクスピアプロジェクト!熱闘!Midsummer Nightmare』が刊行された。公演に先立って本屋B&Bで行われた出版記念イベントでは、第12回から監修を務める劇作家・演出家の青木豪、第8回から11回まで監修を務めた劇作家・演出家の横内謙介が語り合った。聞き手は本プロジェクト・コーディネーターの井上優明治大学准教授。MSPの今後について、青木豪が「世間的にもっと知られて、演劇界全体にまでMSPを観に行こうというムーブメントを起こせるといいのでは?」と語ったとのこと(公演パンフレットより)。「現役の大学生がこんなにがんばっています」以上のクオリティがあるのは確かだ。そこをどうすれば演劇界全体に向かって発信できるものになるか。

 アマチュアであって、あまたのプロが活躍する演劇界に打って出ること。それがどういうことか。これまでのMSPの蓄積をどうしたら活かせるか、何が強味で、足らないものは何か。打って出ることがすべてにおいて必ずしもメリットばかりではなく、そうするがために失うもの、捨てざるを得ないものもあるだろう。

 いまのままで十分素晴らしい。けれどもっと!という欲もある。複雑な思いを抱きつつ、舞台そのものに対してきちんと考え、書くことがわたくし自身の第一の課題であることを心に覚えるのであった。

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