因幡屋ぶろぐ

劇評かわら版「因幡屋通信」主宰
宮本起代子による幸せの観劇記録。
舞台の印象をより的確により豊かに記せますよう・・・

多摩ニュータウン×演劇プロジェクト 瀬戸山美咲作・演出『たまたま』

2017-08-06 | 舞台

*瀬戸山美咲作・演出(1,2,3,4,5,6,7,8,9,10,11,12,13,14,15,16,17,18,19,20,21,22 ,2324,25,26)公式サイトはこちら パルテノン多摩小ホール 6日で終了 
 多摩ニュータウンとは、東京都稲城市、多摩市、八王子市、町田市にまたがる多摩丘陵地に、1965年から2006年までのおよそ40年間にわたって計画され、開発された日本最大規模の広さを誇る都市である(公演チラシより)。昨今「ニュータウン」と聞けば、かつては憧れの的だったベッドタウンが、住宅や施設の老朽化、少子高齢化問題が深刻化しているイメージが強い。
 今回の舞台は、「多摩ニュータウンの各世代の住民の方々の証言と市民ワークショップをもとに、『街』を描く」もので、「多摩出身・在住の俳優と、他地域の俳優が一緒になって多摩ニュータウンについて考え、創作」するというもの。折しも多摩センター駅周辺では夏祭が行われており、パルテノン大通りには屋台や盆踊りの舞台も設営されてたいそうにぎやかだ。
 そこに暮らす人、過ごした年月、街の移り変わりを重層的に描く物語。「計画的に作った町で、計画になかったことが起きた」(公演チラシより)。まさに「人生は『たまたま』でできている」とキャッチコピーにあるように、誰もが幸せと安定を夢見て入居した多摩ニュータウンで、アクシデントというには痛ましい出来事が起こり、しかし野球チームがたくさん生まれたりなどといった楽しいことも起こる。
 物語は小学1年生の「あゆみ」が、森の中で拾った大量の百円玉を取りに行って不思議な穴に迷い込み、近未来の人々と出会って巻き込まれる騒動と、平凡ではあっても、それぞれが一編の小説になるほどかけがえのない人生を生きる人々の様相が交錯しつつ進行する。

 作・演出の瀬戸山はじめ、ワークショップ参加者、出演者、市民スタッフの方々は、たくさんの人やことに出会い、話し合いを重ねてこの舞台を作り上げたのであろう。2時間の舞台にまとめるためにそうとうな困難もあっただろうが、単に舞台の作り手と受け手だけではない、もっと豊かな関係性が構築されたことが伝わる。少し盛り込みすぎかと感じるところもあったが、かといって削れる人物やエピソードはどれもないと思われるのだった。

 心に残ったところを書き出してみると、ある女性が、親友が亡くなったあと、遺されたその連れ合いと少しずつ心を通わせ、やがてパートナーとなる経緯が淡々と読み継がれる場面がある。結婚式のお祝いスピーチらしき作りで、装った女性たち数名が彼女のことばを読み継いでいく。音楽はワーグナーの「結婚行進曲」である。それがいつのまにか少しずつアレンジされ、それだけでひとつの楽曲として味わえるほど美しい曲に変容していく。台詞に集中するために、残念ながら十分に聞けなかったが、音楽を含め、詩情にあふれる美しいシーンとなった。舞台の音楽とピアノ演奏は吉田能が担った。吉田は「傘の男」という謎めいた人物として劇中にも登場し、作品ぜんたいを見守り、支える役割を果たしている。

 いっぽうで、不注意から子どもが重い怪我を負ってしまう夫婦の場面は、非常に苦く重苦しいものであった。互いに惹かれあって結婚し、子どもも生まれたが否応なくすれちがう。今日この日のこのできごとをきっかけに始まったというわけではなく、日々の繰り返しと積み重ねがいつのまにか溝を生み、深めてしまう。どちらが決定的に悪いわけでもない。妻は子どもを連れて、逃げるように教会に行く。やがて子どもは怪我による障害を持ちながらも無事に成長し、夫婦も別れてはいない。妻は一人で教会に行き、息子はフットサルに行く。おそらく日本に数多く存在するであろう、「一人クリスチャン」の妻の様相である。

 
無頼派と見えて意外に「お父さん」役に合っていた浅倉洋介、軽みと深さ自在の中田顕史郎はじめ、これまでの瀬戸山作品の常連が多い座組であるが、安定感とともに新鮮味のある演技を味わうことができた。
 
いっしょに住んでいた恋人に去られて多摩に転居してきた女性(とみやまあゆみ)が最後に登場する。冒頭では「このごろ早く目が覚める」ので公園にやってくると独白した人物と同一と思われる。中田演じる一風変わった老人(でもないのか)を、最初は警戒しつつもなごやかな会話をしたあと一人になり、静かに涙にむせぶ。あれは何の涙なのか、と思ったが考えるのをやめた。そうするのが彼女への思いやりのように思えたから。

 演劇ができることは、もっとたくさんある。そう確信させる夏の一日であった。

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