因幡屋ぶろぐ

劇評かわら版「因幡屋通信」主宰
宮本起代子による幸せの観劇記録。
舞台の印象をより的確により豊かに記せますよう・・・

九十九ジャンクション第4回公演『赤い金魚と鈴木さん~そして、飯島くんはいなくなった~』

2017-03-01 | 舞台

*土屋理敬作 後藤彩乃演出 公式サイトはこちら (1,2,3)花まる学習会王子小劇場 5日まで
 土屋理敬の最新作、演劇集団円の気鋭の若手・後藤彩乃が演出を担う。後藤の舞台の観劇は、昨年夏のCROQUIS(クロッキー)vol.1『余炎』以来2度めである。
 土屋理敬の『そして、飯島くんしかいなくなった』は、犯罪加害者の家族の苦悩を描いた傑作である。本作はそれから流れを受けた「続編ともいえる作品」とのこと。みんないなくなったあとに、たったひとり飯島くんが残った前作。今回はいよいよ「飯島くんがいなくなる」のだろうか。土屋作品に臨むとき、このゆるい日常会話がいつ鋭い刃に変わるのか、どこにでもいそうな平凡でのんびりした人々の表情が豹変し、心の奥底の苦しみを吐露しはじめるのかと、期待とともに胸が苦しくなるような感覚に襲われる。今回はことさらに痛ましいものであった。

 公演中の作品ゆえ、詳しいことは書けない。しかしある程度は書かねば文章にならない、どうすればいいのか、いやもう書くのはよそうかという、この右往左往は土屋理敬作品に出会ったものの宿命であり、幸福ですらあるのだ。いや、それにしても今回はほんとうに困ったなあ…。

 
今回の舞台の特徴は、目の前にあるのはマンションの一室だけだが、そこが複数の家族の部屋になり、過去の物語も同時に進行する形をとっている点だ。そのために人物の相関図や時間軸において少し混乱するかもしれない。
 
どこかの町。ハウスクリーニングを営む夫1と妻1(世古陽丸、中條サエ子)、ニートの息子(名倉周)に頭を悩ませているが、黙々と働くクニさんという従業員(大竹周作)を家族同様に大切にしている。マンションの管理人をしている夫3(原田大輔)は中学生の息子を連れて、年若い妻3(星出紗希奈)と再婚した。上階の物音に悩まされている夫2(大竹周作)、妻2(馬渡亜樹)とは、息子どうしが同級生ということもあり、家族ぐるみのつきあいである。最近マンションの敷地内に猫の死骸が投げ込まれる事件が起こった。犯人は居住者のなかにいるのではないか、警察に通報すべきか。折しも夫婦2の部屋のベランダに…。

 これまで何作か土屋作品を観劇し、改めて感嘆するのは、どれひとつとして類型、類想、パターンがないところである。大竹周作は土屋とは演劇集団円研修所の同期であり、2000年の『そして、飯島くん~』初演に出演している。九十九ジャンクションでの上演では違う役で出演し、いわば土屋作品の顔である。だがどれひとつとして「似たような感じ」という印象を抱いたことがない。とくに今回はいつにも増して複雑な役回りであり、観客を混乱させないために、演出上もうひと工夫することも可能だが、敢えてそうしない選択をしたのだろうと考えたい。

 タイトルの通り、飯島くんはいなくなった。しかし物語の世界からも、観客の心からも完全に消えてしまってはいない。夫2(大竹)とともに苦悩のさなかにあって、妻2(馬渡)は可愛げがないほど気丈に「考えよう、必死で考えよう。考えるしか前に進めないんだよ」と言う。

 むしろ飯島くんは、ずっとどこかにいて、不意に目の前に現れるのである。ある日あなたの職場の新人として、引っ越ししてきたご近所さんとして、あるいは愛する人として。そのときあなたは、わたしはどうするか。考えよう、必死で考えよう。けれどそのときわたしたちはひとりぼっちではない。今夜の舞台の、あの家族がいっしょにいるのだ。初日の舞台を見て激しく心が痛むのに、嬉し涙が出そうになるのは、おそらくそのせいだ。

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2 コメント

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Unknown (九十九ジャンクション 原田大輔)
2017-03-05 09:08:06
早速、劇評いただきましてありがとうございます!
大変励みになります!!

お陰様で当日のお申込み・ご来場もいただいております。
「前作(そして、飯島くんしかいなくなった)を観たい」、「前作・今作ともに再演してほしい」など、うれしいご感想もいただいております。

土屋さんの描く人々と言葉が、多くの方々に届いているのを改めて実感いたしました。
あつかましながらも、土屋さんへもこちらの記事をお知らせさせていただきました!

本日、千穐楽行ってまいります!!
Unknown (宮本起代子)
2017-03-05 23:35:03
九十九ジャンクション 原田大輔さま
拙稿お読みくださいましたこと、並びにコメントをありがとうございました。土屋理敬さんへもご案内くださった由、恐縮しております。
千穐楽の手ごたえはいかがでしたか?
戯曲は俳優さんのからだと声によって新しい命を得て、客席に届きます。どうかこれからもさまざまな作品を私たちに届けてくださいね。

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