因幡屋ぶろぐ

劇評かわら版「因幡屋通信」主宰
宮本起代子による幸せの観劇記録。
舞台の印象をより的確により豊かに記せますよう・・・

第1回高円寺K'sスタジオプロデュース『ピンクミスト』

2017-02-26 | 舞台

*オーウェン・シアーズ作 吉田真理/日下論翻訳 高円寺K'sスタジオ演出 第1回高円寺K'sスタジオプロデュース 公式サイトはこちら 26日で終了
 この公演の大きな特徴はふたつある。まず第一に、イギリス・ウェールズで注目を集める詩人であり劇作家のオーウェン・シアーズによる詩劇が初翻訳、初演される点。第二に、会場である高円寺K'sスタジオが、俳優であり、シナリオライターでもある日下論が俳優仲間と二人で「演劇人の出逢いと集いの場」をコンセプトに立ち上げた、非常に志高く、独自性の強い場であることだ。こんな場所が欲しいという切実な願いが多くの演劇人の共感を呼び、話題作の本邦初演の実現に結びついたのだろう。月並みな表現になってしまうが、非常に貴重であり、客席に身を置く者としても喜ばしいことである。

 イギリス西部のブリストルで生まれ育ち、「戦争ごっこ」をしていた幼なじみのアーサー(西村俊彦)、タフ(日下論)、ハッズ(田部圭祐)の3人はやがて軍隊に志願し、中東の戦場に向かった。一人は両足を失い、一人は心に深い傷を負い、そして一人は無言の帰還となる。それぞれの家族、友人、恋人や妻子をめぐる95分の物語は、2015年ラジオドラマとして初演され、本国イギリスでは舞台版が全国をツアー中とのこと。

 「詩劇」とは、韻文によって書かれた劇を指す。本作『ピンクミスト』も「これでもかっ!と言うくらい詩的な言い回しを盛り込んでいる」(当日リーフレット掲載の翻訳・出演の吉田真理の挨拶文)ため、翻訳には大変な苦労をしたとのこと。韻を踏んだ台詞の響きやニュアンスを活かすこと、その上でそれぞれの役の個性を示すために、稽古場で俳優とともに試行錯誤したそうである。さらにリーフレットには本作に登場する用語解説が掲載されており、かの国ならではの風習(ガイフォークスの焚火まつり)や、輸送船を改造したショーボート(テクラ)や、軍事用語のスラングなども詳細に記載されている(手書き文字は味わいがあるが、願わくばもっと丁寧で読みやすい字で!)。開演前にアーサー役の西村が、会場に掲示された写真について、リーフレット掲載の用語説明と照合しながら解説し、「本邦初演」にやや硬くなりがちな客席の空気をなごませ、劇世界に導く。個人ではなく、「高円寺K'sスタジオ演出」と謳われている由縁であろう。

 西村が演じるアーサーは、物語ぜんたいの語り部的なポジションで、人物のあいだをわりあい自由に動きつつ、台詞を発する。もしかするとすでにこの世の人ではないとの設定であるのかもしれない。大上段から戦争反対を訴えるのではないが、三者三様の戦争体験があり、決してひとくくりにはできないこと、戦争体験が一人の人間の心もからだも傷つけ、本人だけでなく周囲の人々の人生にも深い影響を及ぼすことなどにしっかりと目を向け、丁寧に示す。

 今回はリーディングという形式をとったが、台本を離した本式の上演も十分にありうる作品である。残念だったのは自分の体調が万全でなく、ところどころ聞き逃した台詞や場面があったことである。これはまったく自分の責任であり、じゅうぶんな記事を書けないことを、作り手の方々に対してほんとうに申しわけなく思う。
 高円寺K'sスタジオの船出の舞台に、客席から立ち会えたことを感謝。これから足しげく通う日々となることを願っている。

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