因幡屋ぶろぐ

劇評かわら版「因幡屋通信」主宰
宮本起代子による幸せの観劇記録。
舞台の印象をより的確により豊かに記せますよう・・・

MSPインディーズ・シェイクスピアキャラバン 並行世界ハムレットプロジェクトその1『新ハムレット』

2017-08-17 | 舞台

*太宰治原作 MSPインディーズ脚色・演出 公式サイトはこちら 20日まで 早稲田小劇場どらま館
 MSPすなわち、明治大学シェイクスピアプロジェクト(1,2)の卒業生と現役生による合同公演が、今年も開催された。昨年の『クレオパトラ』に続く第2弾であり、並行世界(よこみちと読む)ハムレットプロジェクト・その1と銘された本作は、太宰治がシェイクスピアの『ハムレット』を「二次創作」(公演リーフレットより)した「新ハムレット」をMSP流に舞台化したものである。95分休憩なし。白と黒に統一されたシンプルな舞台装置、登場人物はクローディアス、ハムレット、ポローニアス、レアティーズ、ホレーショー、ガートルード、オフィリヤの7名のみ。照明効果もぎりぎりまで削ぎ落し、シェイクスピアと太宰治に果敢に挑戦した。

「ハムレット」は多くの俳優が憧れる作品であり、役柄であろう。一度は演じてみたい、できればタイトルロールを。ほかの役であってもこの作品の舞台に立ちたいと願う気持ちは十分に想像できる。観客にとっても「ハムレット」はシェイクスピア作品のなかでも特別な存在で、自分の観劇歴のなかで「誰が演じるハムレットを見たことがあるか」は非常に重要であるし、「いつかあの役者のハムレットが見たい」と夢を膨らませる。自分の好きな俳優がこの役を射止めたときの、「とうとうあの人が!」とわがことのような晴れがましさ。この特別感は「ハムレット」だけと断言してもよい。

 太宰治の「新ハムレット」には作者自身による「はしがき」があり、書き出しからして、「こんなものが出来ましたというより他に仕様が無い」と身もふたもない。沙翁の註釈書でも新解釈でもなく、「作者の勝手な、想像の遊戯に過ぎないのである」。また決して戯曲のつもりで書いたのでもないそうで、それを舞台化するのは、もしかすると「ハムレット」そのものの上演以上の困難があるのでは?あたかも日本の世話物のように人々はよくしゃべる。のみならず、原作通りに話が進まず、まさかの展開、ええっ、この人がそうなるの?いったいどこへ到達するのかと前のめりにさせておいて、読む者を突き放すように幕を閉じる。原作を読んだときの意外感、唐突感、もっと言えば不完全燃焼感は、舞台の「ハムレット」からは想像もできないものだ。

 本作は1940年7月、文藝春秋社より刊行された。太平洋戦争がはじまる直前である。終幕、クローディアスによって告げられる「戦争が、はじまりましたよ」はほどなく始まる戦争の予言であり、開戦のどさくさにまぎれて先王毒殺の一件をごまかそうとしたり、「国の名誉、という最高の旗じるし一つのために戦え!」と強要したりなど、当時の不穏な世情を濃厚に反映し、軍部の暴虐を予感させる。それに対するハムレットの台詞は、これを物語最後のひと言として受け止めるのは、原作の「ハムレット」を知る者にとっては、困惑を禁じ得ない。これから戦場に駆り立てられてゆく若者のつぶやきかと思うと、背筋が寒くなるのである。

 MSPは熱いエネルギーを爆発させるような勢いで物語を走らせた。適材適所の配役で、入念な稽古を重ねたことが窺われる。ただ好みの問題になるかもしれないが、「前説」は慎重に扱ったほうがよいと思う。観客側にも相当な緊張と期待があって幕開けを待っているわけで、リラックスしたいが、高揚感は保っていたいのだ。観劇中の諸注意のアナウンスは、淡々と行っていただいてよいのではないか。
「ハムレット」の苦悩は終わらない。太宰治の筆を通して、演じる人々の声とからだを通して続いていくのである。

 MSPの「新ハムレット」はぜんたいとして無口な演出であるにも関わらず、冒頭は一気に舞台に引き込まれた。まさにスタイリッシュ。太宰の「新ハムレット」は饒舌多弁であるところを、丹念に読み込み、辛抱強く作り上げた証左であろう。 自分の「ハムレット」観劇歴は、芥川比呂志を見られなかった無念の筆頭とし、無上の喜びには2003年初役の藤原竜也が位置する。今夜のMSPによる「新ハムレット」は、これらの「ハムレット」から少し距離を置いたところに確かに記憶される喜ばしい舞台であった。

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