因幡屋ぶろぐ

劇評かわら版「因幡屋通信」主宰
宮本起代子による幸せの観劇記録。
舞台の印象をより的確により豊かに記せますよう・・・

語りライヴ「楽語会」

2017-06-11 | 舞台

*6月10日、11日 野方/ブックトレード・カフェ「どうひん」
 ブックトレード・カフェとは、好きな本を持ち寄り、意見を交わしあったり、本を交換したりする場を言う。より多くの本の魅力を、より多くの人と共有し、本を通してより深く自分を知ることを目的とする。ご参考までに、ブックトレード・カフェの紹介サイトはこちら
 今宵は西武新宿線野方駅から商店街を抜けた通りにある「ブックトレード・カフェ どうひん」にて、語りライブ「楽語会」を堪能した。中に入ると右壁ほぼいっぱいに大きな本棚があり、多種多彩な本が観客を迎える。正面にはカウンター、奥にキッチンがあり、そこで飲み物を注文する。ソファ席、大きなテーブル席もあり、小さな空間ながら圧迫感はなく、これから始まる「語り」に期待が高まった。
 11日18時の回の出演者と演目は以下の通り。
 中野順二 太宰治「猿塚」/神由紀子 小泉八雲「おしどり」/松夕佳 谷崎潤一郎「刺青」~休憩~神由紀子 小泉八雲「因果話」/加藤まゆ美 「絹子さんのこと」

 休憩をはさんでおよそ90分のステージが終わったあと、同道の友人が「セルフイメージ」ということばを使って感想を語った。セルフイメージとは、ずばり「自分について抱いているイメージ」であるが、今回の場合俳優が自分自身について抱いているイメージだけでなく、作品について、それを語るステージについてのイメージという捉え方で考えてみる。

 この楽語会には演出の記載がない。各ステージはそれぞれの俳優に任されたものと思われる。作品を選ぶこと、それをどんな声と表情で語るかはもちろんのこと、衣装や髪型、メイク、ずっと椅子にかけたままか、どのあたりで立ち上がるのか、ほかに道具を使うのか、客入れにどんな曲を流すか。前説で何を話すかに至るまで、俳優が自分で考え、決定しなければならないことはたくさんある。俳優が自分の実力と持ち味を冷静、客観的にとらえ、どのようなステージを構築するか。俳優が抱いたであろうイメージと、実際に観客の前で繰り広げられた語りの世界が幸福な一致をみせるかどうかが重要になる。

 もう20年近く前になる。白石加代子の『百物語』を聴きに、岩波ホールへせっせと通っていたとき、語り本編には毎回魅了されたが、語りはじめる前の白石の前説のことも印象深かったことを思い出す。「ようこそいらっしゃいました」観客へのにこやかな挨拶に始まり、作品の概略や聞きどころなどを短く、ユーモラスに語りかけ、客席をリラックスさせる。これは聞いた話だが、あるとき開演前だったか、一幕たけなわのときだったか、かなり大きな地震があった。白石は「さっき地震がありましたね。実は私はとても怖がりなのですが、大丈夫です」といったことを少し恥ずかしそうに話してから、見事に語りはじめたとのこと。そうなのだ。柔らかな口調の挨拶から、顔つきも声もきりりと「読みますものは、泉鏡花作『高野聖』」と宣言して始まる瞬間の高揚感は、いま思い出しても背筋がぞくぞくする。

 俳優が自己を磨くために、勉強会、ワークショップ、師と仰ぐ人に私淑するなどさまざまな方法があるだろう。鍛錬を継続し、より高く飛躍するためには、やはり観客に披露する機会が必要だ。そのためにも今夜の「楽語会」が作り手受け手双方により有益なものとなることを願っている。

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