因幡屋ぶろぐ

劇評かわら版「因幡屋通信」主宰
宮本起代子による幸せの観劇記録。
舞台の印象をより的確により豊かに記せますよう・・・

日本新劇俳優協会Festival2016 『唐人お吉の神話~ブレヒト「下田のユーディット」・山本有三「女人哀詞」より~』

2016-10-12 | 舞台

*ベルトルト・ブレヒト『下田のユーディット』、山本有三『女人哀詞』より 内藤洋子翻訳 志賀澤子構成台本・演出 公式サイトはこちら ブレヒトの芝居小屋 12日で終了
 幕末の伊豆・下田で、アメリカの初代日本総領事のハリスの世話係として領事館に送られた芸者のお吉の生涯を描いたもの。お吉の物語は、奈良岡朋子や佐久間良子による『唐人お吉』の舞台でよく知られているが、今回はブレヒトと山本有三、ふたつの原作があり(ブレヒトは山本有三の『女人哀詞』に触発されて、『下田の~』を書いた)、それを融合させて再構成した、という理解でよいのだろうか。劇中には今回構成・演出を担った志賀澤子が「演出家」として登場し、作品の解説をする。さらに現代の(2016年の今よりは以前か?)女性ふたり(一人は外国人女性、もう一人は日本人の研究家か?記憶があいまい)舞台前面で、お吉について対談する場面が何度か挿入されるなど、これがブレヒトの異化効果かと深読みもしたが、流れとしてぎくしゃくしており、舞台の核がどこにあるのか掴みにくい印象が残った。

 また本作の上演台本、戯曲のことばの最終的な責任はどこにあるのかということも考えた。物語前半で、許嫁があることなどを理由に領事館行きを渋るお吉に対し、地元の顔役が「おまえの個人的な話は聞いていない」と言いかえす。「個人的な」という表現には少なからず違和感があったりなど、つまづくところが多々あり、2時間の上演時間が長く感じられた。

 出演俳優は、俳優座、文化座、東京演劇アンサンブル、新人会、銅鑼、青年座、フリーランスと実に多士済々である。劇団の枠組みを越えてひとつの舞台を作り上げることは、作り手はもちろんのこと、観客にとっても冒険であり、「いったいどんなカラーの舞台になるのか」という期待を抱かせる。さらに今回ほんとうに久しぶりで足を踏み入れたブレヒトの芝居小屋の空間のすばらしいこと!天井の高さ、奥行き、袖も余裕のある作りで、圧迫感がなく、「温かな闇」とでも言おうか、訪れる人を遠いところへいざなう雰囲気がある。
 今回は演出家とお吉以外の俳優は、複数の役を次々に演じ継ぐ。出番のないときは両袖に控えたり、裏に回ったり、それもあまりあからさまな見せ方をしない作りで、この点は好ましかった。

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