因幡屋ぶろぐ

劇評かわら版「因幡屋通信」主宰
宮本起代子による幸せの観劇記録。
舞台の印象をより的確により豊かに記せますよう・・・

劇団普通企画公演 『クノセカイ』

2016-05-14 | 舞台

*屋代秀樹(日本のラジオ)作 (1,2,3,4,5) 石黒麻衣(劇団普通)演出 公式サイトはこちら ギャラリーしあん 15日で終了
 先日『ゼロゼロゼロ』を観劇したばかりの屋代秀樹作品を見に行く。今回の『クノセカイ』は、「結構昔に頼まれて書き下ろしたのですが、なんだかんだで結局上演してもらえなかった戯曲」(劇団ブログより)とのことで、こちらで無料公開されている。戯曲は読みたし、けれど観劇の印象を先に書くことにいたします。

 イタリアンマフィアの話である。子どもの頃いつもいっしょだった男性3人と女性1人の合わせて4人組が、長じて男性のうちの1人は女性と結婚して子どもを成すが、実はその子どもは・・・といった男女関係のもつれに、マフィア同士の権力抗争や身内のだまし合い、裏切りなどが絡む。大河ドラマというほどではないけれども、親子二代に渡る愛憎が生む悲劇であるから、作りようによってはたいそうな手間がかかると想像する。「なんだかんだで結局上演してもらえなかった」理由はわからないが、今回劇団普通企画公演においては、演出の石黒麻衣によって非常に軽やかに気負いなく作られており、110分の上演をリラックスして楽しむことができた。

 ギャラリーしあんは一昨年秋、オクムラ宅公演『さくらんぼ畑 四幕の喜劇』で訪れて以来だが、JR御徒町駅から徒歩10分、駅前の喧騒から離れた静かな住宅街にあり、「和」の雰囲気をもつ空間である。そこに登場するのはイタリアンマフィア、つまりイタリア人なのだが、俳優たちは化粧もかつらも特別な作りはまったくしていない。考えてみると、日本人劇作家が外国を舞台に、外国人が登場する戯曲を書くというのは、非常に珍しいことではないだろうか。翻訳されていない外国戯曲、とでも言おうか。劇中、挨拶の部分に時おりイタリア語が使われているが、だからといって、ギャラリーしあんがまるでイタリアのように見えてくるなどということはまったくなく、作り手もそのような効果は狙っていない。
 物語の時間は20数年にわたるが、時系列に沿って展開せず、行ったり来たりする。ハロルド・ピンターの『背信』のようでもあり、いや、もっとわかりやすいけれども、場所もいくつか変わるので、話の流れや人間関係がときおりわからなくなるときもある。しかしいずれも本作を楽しむ妨げにはならない。

 今年の2月に観劇した三澤の企画『マリーベル』も、外国が舞台の外国人の物語であったが、そこにつまづくことはまったくなかった。外国戯曲を自分流に読み解き、舞台にする名手として、中野成樹+フランケンズが思い出されるが、屋代はシェイクスピアの『タイタス・アンドロニカス』から『パイ・ソーセージ・ワイン』、複数のギリシャ悲劇を再構築した『蛇ヲ産ム』を書いている。ベースになる作品のあるなしに関わらず、演劇に対するこちらの固定概念、既成概念を気持ちよく壊し、演劇の可能性というものを気負わずさらりと見せてくれるのである。

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