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歳を取らないと分からないことが人生には沢山あります。若い方にも知っていただきたいことを書いています。

ブランド牛

2017-11-15 06:19:17 | 日記

「神戸ビーフ」の名は1980年代に広く知られるようになりましたが、元々は役牛であった小柄な牛が食肉用に改良を重ねられ、肉の断面に霜降り(サシ)と云われるマーブル状に脂肪が入った肉質になったことが評価されたものです。

「神戸ビーフ」に肉質にバラつきがあったため、1983年昭和58年)に生産・流通・消費の関係団体が「神戸肉流通推進協議会」を創設して定義を明確にし「脂肪交雑」のBMS値No.7以上のものと決めました。

BMS(Beef Marbling Standard)は、赤身の肉にどれだけサシが入っているかを絵で示したものです。ランクはNo.1 からNo.12までありNo.12が最良です。脂肪交雑は5段階評価でも示され、4段階がNo.5~7、最上評価の5段階がNo.8~12となります。

国産牛肉の肉質等級は、脂肪交雑・肉の光沢・肉の締まり及びきめ・脂肪の光沢の4項目の各々5段階評価で決定されますが、4項目中の一番低い評価が肉質等級になります。

枝肉とは家畜して皮をはぎ頭部内臓四肢先端取り除いた骨付きの肉で、脊柱に添って左右二分したものを云います。枝肉の段階で歩留等級が決められ、ロース芯の面積、ばらの厚さ、皮下脂肪の厚さ及び半丸枝肉重量の4項目の数値を計算してA・B・Cの3段階に評価します。

牛肉の格付けは歩留等級と肉質等級の両方で表示され、歩留等級A、肉質等級5が最高の格付けになります。ブランド牛は全国に200種以上ありますが、すべてA-5かと云えばまったく違います。

ブランド牛の定義は各生産者団体が独自に定義を設けています。仙台牛は肉質等級5のみを仙台牛と表示するので、仙台牛と表示される肉を買う限り最高の肉質が保証されますが、松阪牛や但馬牛は等級に関係なく産地で名乗っています。

肉質等級4と5をブランド牛としているのは佐賀牛・神戸ビーフ・前沢牛・若柳牛・常陸牛・阿波牛・宮崎牛です。米沢牛・大和牛・飛騨牛・熊野牛・Theおおいた豊後牛は肉質等級が3から5で、石垣牛は肉質等級が2から5です。松阪牛・伊賀牛・近江牛・三田牛・しまね和牛・千屋牛では肉質等級は無関係で1から5まですべてが含まれます。

「霜降り」は和牛に見られる特有の肉質で世界的には珍しく、ヨーロッパで超高級ステーキとして珍重される「シャトーブリアン」は、ヒレ肉の中心部の赤身肉です。日本の格付に従うと赤身は格付が低くなってしまうので、肉質等級は和牛にしか通用しない基準です。

格付け制度は1960年代に公布された「畜産物の価格安定等に関する法律」とともに実施されました。現在我が国の牛肉の評価は格付けで決まりますが、歩留等級は業者には大切な指標であっても、消費者にとっては美味しさとは関係のない数値です。

A4やA5といった格付けの高い牛肉を作るには、牛にいかにサシを入れるかですが、牛にはサシが入りやすい血統とそうでない血統があります。飼料によってもサシの入り方が違います。

生産者が高く評価される牛として重要視するのがブランド名です。品質が5等級の牛を苦労して育てるよりも、等級が低くても名の通った牛肉を多く売る目的で増えたのがブランド牛です。

神戸ビーフは兵庫県産のうち歩留等級がAまたはBで、メスでは未経産牛、オスでは去勢牛で、脂肪交雑のBMS No.6以上、枝肉重量がメスでは230〜470kg、オスでは260〜470kgのものと決められています。「神戸ビーフ」の基準を満たした牛肉は「神戸ビーフ」と「但馬牛」のいずれかのブランド名を名乗れます。

2012年(平成24年)神戸肉流通推進協議会が「神戸ビーフ」の輸出を解禁しましたが海外で偽物が出回り、その対策としてブランド名が採用されました。2015年12月22日「特定農林水産物等の名称の保護に関する法律」に基づく、地理的表示の登録第1弾7件のうちの1つとなりました。

松阪牛は「まつさかうし まつさかぎゅう」は但馬牛のほか全国各地から黒毛和種の子牛を買い入れて、三重県松阪市及びその近郊で飼育されたです。霜降り肉が特徴で、肉の芸術品の異名を取る日本三大和牛の1つです。

江戸時代には農耕用の役牛として但馬国の雌牛を飼育していて、明治になって牛肉食が始まると農耕用を退役した役牛を肉牛として売るようになりました。その後役牛から肉牛へのシフトが進み1935年昭和10年)の「全国肉用牛畜産博覧会」で名誉賞を受賞し、全国的に知られるようになりました。

1949年昭和24年)には松阪肉牛共進会が開始され、優秀な肉牛が品評会で名声を高めました。当時は最上級のA-5とB-5のみを「松阪牛」として厳格に品質を守り、ブランド牛として知名度を高めました。

2001年平成13年)に発生したBSE問題産地偽装事件で、2002年平成14年)に子牛の導入から出荷までを管理する「松阪牛個体識別管理システム」が発足し、これに登録した肉牛を松阪牛としました。その一方で定義から枝肉格付けが外れたため、格付けが最低のC-1であっても「松阪牛」と名乗れるようになりました。

現在の「特産松阪牛」は但馬系の黒毛和種の雌牛を900日以上飼育したもので「金」は肉質等級が5、「銀」は4です。規約改訂前の松阪牛に該当するのは全体の6%に当たる「特産松阪牛」で「金」の枝肉のみです。

松坂牛は特産松阪牛でなくても、サシを強くするためにビールを飲ませたり、脂肪を均一にするためにマッサージをしたり、大切に育てられた牛であることは確かです。導入から出荷まで36項目のデータが松阪牛個体識別管理システムに集積されていて、販売時には産地を示す認証表示がされます。

米沢牛は山形県米沢市のある置賜地方3市5町で米沢牛銘柄推進協議会が認定した飼育者が、18か月以上継続して飼育した黒毛和種の未経産雌牛または去勢雄牛です。生後32か月以上で3等級以上の外観並びに肉質及び脂質が優れている枝肉とし、放射性物質が「不検出」のものとされます。枝肉に証明印を押印し、トレーサビリティーの番号を表示した米沢牛の証明書を発行しています。松阪牛神戸牛と並んで日本三大和牛に数えられます。

近江牛は日本での肉牛としての史実が最も古いものです。滋賀県内での飼育期間が最も長い黒毛和種で、JAS法に定める原産地表示が「滋賀県産」と表示できるものです。どの肉質等級でも近江牛ですが、A-4、B-4以上の格付けの枝肉には認定書や認証シールが発行されます。

1590年(天正18年)の秀吉の小田原攻めのとき、高山右近が蒲生氏郷と細川忠興に牛肉を振舞った史実が残こされています。江戸時代後期「養生薬」の名目で、干し肉将軍家へ献上されたことが2回あり、松平定信徳川斉昭などの大名に味噌漬・粕漬などが贈られたと彦根藩の記録に残っています。

ウシは、ほぼ、すべての部位の肉を食べることができ、冷凍保存に向いていて家庭用冷凍庫で半年、業務用冷凍庫で1年は保ちます。ウシは人間を終宿主とする無鉤条虫の中間宿主で幼虫はウシの筋肉に寄生しますが、60℃以上の加熱または-10℃以下で10日以上冷凍した肉は安全とされます。生レバーも食べられてきましたが、重い食中毒の発生が避けられないため、平成24年7月から食品衛生法に基づき生食用の販売・提供が禁止されました。

日本では牛は一頭ずつ大切に育てられてきたので、従来牛肉は非常に高価なものでしたが、1991年平成3年)からの輸入自由化で、安価な輸入牛肉が家庭の食卓に頻繁に上るようになりました。

日本人が牛肉と云えば、まず、すき焼きでしょう。すき焼きではなんと云っても霜降り肉の出番です。ステーキになると日本式のサシの入った霜降り肉か、欧米式の赤身肉かは、好みによって選択の余地が出てきます。

オバマ大統領が来日に際して神戸ビーフを所望したのは有名ですし、サシの入った和牛は外国人の憧れの的ですが、最近では有名なニューヨークのステーキハウスも日本上陸を果たし、赤身肉のステーキも我が国で人気を集めています。

日本人も外国人もランチにはステーキを選んでも、ディナーには鉄板焼きを選ぶようです。鉄板焼きの魅力は肉の美味しさとともに、目の前で焼いてくれるエンターティメント性にあるのでしょう。来日したトランプ大統領夫妻も鉄板焼きで喜ばれたようです。

鉄板焼きやローストビーフは別としても、すき焼きやステーキは家庭でも食べられます。外食で払う大金をつぎ込む気になれば、高額の霜降り肉も選べます。和牛は格付けのお蔭で、値段の高さは素直に品質の良さを保証しますが、経験上サシは細かい方がよく、低い温度でも脂肪が溶けやすいものがいいようです。

最近はブランド牛流行りになりましたが、外国人の憧れの的のサシの入った牛肉が簡単に手に入るのは、戦後の飢餓線上の食糧事情を経験した私にとって長生きはするものだと思わせられることの1つです。

霜降り肉は日本の消費者の美味しいものへの関心の高さと、それに応える生産者のたゆまない努力の結晶なのでしょうが、大草原での放牧が出来ない国土の狭い我が国で、一頭一頭可愛がって育てられるからこその、世界に誇れる肉の芸術品なのでしょう。

  


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