34歳の智彦さん、東京の人である。
思うところあって2年前にIT関連の会社を辞め、長野の安曇野にある農業体験民宿のスタッフになった。
そこでタイ人ゲストと知り合い、初めての海外ひとり旅の目的地としてタイを選んだのだという。
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まずは、友人がいるバンコクへ。
しかし、とにかく暑くて、しかも賑やかで、すぐに嫌になった。
そこで、安曇野の宿で知り合ったタイ人を訪ねてチェンラーイ、チェンマイへ。
チェンマイではソンクラーンも体験したのだが、あの汚いお堀の水をぶっかけられて、肌にトラブルがおきた。
お祭り騒ぎに疲れも出たのだろうか、「なんとなく田舎に行きたくなって」ネットで見つけたわが宿を訪ねてくれという次第。
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本当は農業体験ができればよかったのだが、あいにく今は農閑期。
稲刈りはとっくに終わっているし、収穫後の棚田を畑にしてシシトウやトマトを作っている人はいるものの、まだ収穫には早い。
そんな話をしたあとで、川向こうの棚田と展望台への案内に出た。
タイミング良く近所に住む姪っ子がカレン服を織っており、その脇では鮮やかな色合いのカレン服を着た叔母がその様子を見守っている。
「中年以上の女性たちは今も手織りの民族服を着ており、田植えや稲刈りもその格好でやるんですよ。特に、田植えのときはその色が水に映えてとてもきれいです」
そう言うと、智彦さん、しきりに頷いている。
ちなみに、彼が働いていた宿では合鴨農法を実践していたそうである。
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棚田に出ると、カランコロンとカウベルを鳴らしながら牛たちが草を食んでいる。
「わあ、のどかですねえ」
智彦さん、満面の笑顔になったが、収穫のあとに放置されたままの棚田自体は、やはり殺風景に見えるだろう。
実は、こうして草を食べながら牛が落とす糞が肥料になって、雨季に入ってからの田起こし、田植えに役立っていくわけなのだが、番頭さんとしては、棚田に水が入ったあの田植えの時期の瑞々しい風景をぜひ味わってほしいと思った。
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さて、冒頭写真は低い稜線に横並びにつらなるわが村を一望出来る高台なのだが、ここにゲストを案内したのは、実に久しぶりのことだ。
というのは、昨年からここはトウモロコシ畑に変わってしまい、収穫が終わるまでは立ち入ることができなかったのである。
番頭さん、ここから見える青空と綿菓子のような白い雲が大好きで、案内した智彦さんがVサインをしてくれたときにはバンザイを叫びたくなった。
ここに案内できなかったゲストの皆さん、トウモロコシ畑の中に隠されていた「謎の展望台」の様子は、こんな具合です。
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