【タイ山岳民族の村に暮らす】

チェンマイ南西200キロ。オムコイの地でカレン族の嫁と綴る“泣き笑い異文化体験記”

【甥っ子ジョーの結婚】

2014年05月29日 | オムコイ便り

 甥っ子ジョーが、ついに結婚式を挙げた。

 長年の読者や拙著『「遺された者こそ喰らえ」とトォン師は言った』(晶文社)を読んでくださった方はご存知のように、真面目で律儀で働き者で、わが家の牛の世話も一手に引き受けてくれていたのだった。

 これまでにも何度か縁談はあったのだが、そのたびに「離婚した母親と弟の面倒を見なくちゃいけない」と断り続けてきた。

 ところが、最近になって母親に新しい伴侶ができ、弟もチェンマイで仕事を得たことで、ようやく自分自身のことに目を向けることができるようになったらしい。

 私にとっても、彼は大の恩人である。

 初めて村にやってきた時、さまざまなことに戸惑っていたのだが、彼の存在に勇気づけられるようにして住み着いたという経緯があったのだ。

 なにはともあれ、よかったなあ、ジョー。

 おめでとう!

     *

 実質的な結婚式は、土曜日の早朝から始まった。

 同日には新婦の村へ行き、日曜日の式に臨むという段取りなのだが、その前に月曜日におけるわが村での式に備えて、大量の唐辛子を搗くなど料理の下ごしらえや各種の準備をしておかなければならない。

 延べ100人を超える両村の人々に食事を提供する場所の草刈り、地ならし、テントの設営、洗い場の確保、大鍋や食器の手配、動き易いようにするための家の手直しなど、やるべきことは山ほどある。

 彼の人柄を表すように驚くほどたくさんの村人が手伝いにやってきてくれたのだが、ジョーはいっときもじっとしていない。

 草刈りからテントの設営まで、コマネズミのように動き回っている。

 長丁場なのだからちょっとは休めと言っても、いつものように微笑みながら「マイペンライ」だ。

 手伝いの衆への昼飯は、嫁のラーが先頭に立って大量のカノムジンを作った。

 新婦の村への移動は午後2時という話だったのだが、待っている間にそれが3時、5時、6時とずれていく。

 どうやら、先方の村での受け入れ準備が遅れに遅れているらしい。

 さもありなん。

 新郎の家族、親戚、村の衆が40人近くも押しかけ、半数近くが泊まり込むのである。

 結局、村中のピックアップを連ねての出発は夜8時前になったのだが、その時点で私の腰はパンパンに張り、向こうでの式への参列は断念せざるを得なくなった。

 なにせ、今夜中に村に戻りたいと思っても戻れるものかどうか、泊まるにしても一体どんなところに寝かされのか、まったく分らないのである。

    *

 翌日曜日は、ラーの友人スジャーの娘の結婚式である。

 腰痛がひどく、早朝からの料理手伝いはさぼって、祝儀を渡しがてらの朝食会と新郎側の受け入れの儀式だけに参加した。

 村の衆が銅鑼、太鼓、鉦のお囃子隊を先頭に、焼酎、ビール、清涼飲料水などを手にして迎え入れるのだが、今回は先方の村の老人が真剣を振りかざして「剣の舞い」を待ったのが印象に残った。

 だが、うっかりしてカメラを持参せず。

 週始めからの結婚ラッシュで、なんだかぐったりと体が重い。

    *

 翌朝、5時。

 再び、黒豚の悲鳴が村中に響き渡った。

 3頭の巨体を、焚火であぶる。

 腹を割く。

 各部位にばらす。

 大鍋に放り込む。

 煮る、焼く、叩く。

 私は、今回もラープムー(豚肉の血まぶし叩き)係で、腰痛ベルトを巻いて血まみれになりながらひたすら山刀を振るい続けた。

 8時半、手伝いの村の衆に朝食を供す。

 やれやれ。

     *
 
 新郎新婦を先頭に、泊まり込みの村の衆、先方の村の衆が村に戻ってきたのは、11時過ぎだった。

 今度は、彼らに昼食を供さなければならない。

 新郎新婦が台所に入り、これを囲んだ両村の古老たちが寿ぎの歌を歌い出す。

 ジョーは、ひたすら焼酎の献杯に努めている。

 私が遅れて入ってゆくと、こちらの顔を見上げて「クンター」。

 ホッとしたような顔で呟いた。

 おそらく、腰痛のことを心配してくれていたのだろう。

     *

 糸巻きの儀式とひととおりの接待が済み、ようやくこちら側の家族だけで新郎新婦を囲み昼食を摂る時間をもつことができた。

 その中には、離婚して離ればなれになってしまったジョーの実父も混じっている。

 私も、ここでようやくカメラを構える余裕ができた。

 ジョーと一緒に挨拶や接待に追われていた新婦はまだ緊張している様子で、カメラを向けてもなかなか笑ってくれない。

 ジョーと同様に小柄だが、眉が濃く、意思の強さが垣間見える。

 ときおり、ジョーの腕に手をやりながら小声で語りかけている様子が微笑ましい。

 そこには、ジョーを頼りながらもしっかり支えていこうという気構えが感じられた。

 よしよし、彼女ならジョーにふさわしい穏やかな家庭を築いてくれるに違いない。

     *

 祝い客は、その夜遅くまで、さらには翌日の午前中まで続いた。

 そのたびに、ジョーは自ら飲み物や食事を運び接待に努めている。

 そして、午後からのテントなどの撤収にも先頭に立つ。

 おいおい、ビールの空き瓶やゴミまで自分で片付けることはないだろう。

 新郎はもっとどっしりと構えていろよな。

 まったく、律儀なんだからもう。

 ともかく、お疲れさん。

 今夜は、ゆっくり寝ろよなあ。

 おっと、愛らしい新婦がいるんだった。

 そういうわけにもいかんかあ。

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5 コメント

コメント日が  古い順  |   新しい順
おめでとうございます。 (シンシン)
2014-05-29 21:35:39
お久しぶりです。

チェンマイのシンシンです。

いつも、ブログは拝見していますけれど、コメントはしませんでした。

今回は一言いわずにいられません。

ジョー君。吉田さん。ラーさん。本当におめでとうございます

ジョー君。末永くお幸せに。
おめでとうございます。 (首長カレンライダー)
2014-05-30 09:08:31
おめでとうございます。
チョッピーさんにも、現地ではチラっとお見かけしただけだけど、本を読むと親近感がわくジョーさんにも、すっかり先を越されました。(^_^;)

クンターさんもお忙しいようですが、ご自愛ください。
ダブルッ!(カレン語でありがとう) (クンター)
2014-05-31 09:52:29

シンシンさん

 ありがとうございます。ジョーにも伝えておきます。それにしても、本当にお久しぶりです。チェンマイに戻られたのですね。
  
      *

首長カレンライダーさん

 ありがとうございます。チョッピーの方はちょっと問題を起こして、せっかく見つけた嫁さんは実家に戻ってしまいました。まだまだ、追いつけます(笑)。
Unknown (ぷよよ)
2014-05-31 14:56:36
おー!
おめでとうございます。

ジョーはいつも控えめで挨拶程度。
クンターの大恩人ですからね。同じ日本人として礼を尽くさねば。
次回は逃がしません(笑)
日本のおじさんとおばさんがお祝い金しますよ。
献杯をうけてくれる様にしっかりと段取りをお願いしますね!

ありがとうございます。 (クンター)
2014-06-08 14:08:24
ぷよよさん
 
 ジョーにも伝えておきました。彼、結婚を境に以前よりもずっとたくましくなった感じです。

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