一公の将棋雑記

将棋に関する雑記です。

ひと目だけでも(後編)

2017-09-19 01:16:21 | 将棋イベント
残るは▲竹俣紅女流初段VS△塚田恵梨花女流1級戦である。
局面は後手優勢。△7五角・△8四角の形が強烈だが、この二枚角は「大山十五世名人の寄せと詰めの極意」(池田書店)の講座の中にも出てきており、ご記憶の読者もいると思う。
両者はもちろん秒読みだが、ネット中継の更新が止まっているようだ。
やっと動いて、竹俣女流初段は▲8二歩。塚田女流1級は△7一飛。
「△7一飛は力強い駒音だった、とコメント欄に書いてありますよ」
と及川拓馬六段。「これはね、後手が優勢だけれども、先手が何をやってくるか、構えていたわけです。でも▲8二歩ぐらいの手なら、私は自信がありますよ、ということで、力強く指したんですね」
及川六段の解説は実戦心理を巧みに読んで、私も唸るところが多い。私は手の解説も好きだが、対局者の心理を類推する解説のほうが好きである。ちなみに現在の最高峰は藤井猛九段だと思う。
何手か進んで、貞升南女流初段が
「若いコは攻めますよね」
と言う。
「え? 誰でも攻めるんじゃないですか」
と及川六段。「9:1で攻め派の人が多いでしょう。受けでは永瀬(拓矢)六段が有名ですね。彼、奨励会の時は研究会を月30日やっていたらしいです。(数字が)おかしいですよね。奨励会で月2回は絶対取られるし…。正月は2日から研究会をやったという話です」
あとスゴイのは菅井(竜也)王位です、と続ける。「菅井王位はネットで年1万局を指したらしいです。(数字が)おかしいですよね。どうやったらこんな数字になるんでしょう」
と、これも驚きを隠せない。
棋士は将棋が好きなのだ、という当たり前のことを再認識させてくれるエピソードだった。
将棋は竹俣女流初段が追い込んで、実戦的にはいい勝負になってきた。ここで▲4二銀、が及川六段の推奨手。竹俣女流初段は▲4五飛と回ったが、△5四銀と受けられて、ややお手伝いになってしまった。
数手後塚田女流1級は△3六歩。
「△3六歩に、竹俣さんは小さく息を吐いた、とのコメントがあります」
と貞升女流初段。
「息は吐くからねえ」
と及川六段。客席から笑いが起こり、室内全体がひとつにまとまっている気がした。
局面は塚田女流1級の勝勢になった。
「私、今度塚田さんと対局があるんですよ」
と貞升女流初段が言う。女流王位戦の予選で当たっているらしい。「このお仕事をいただいた時は相手が分からなかったんですけど、その後決まってしまって…。今日はいい勉強になりました」
竹俣女流初段、自玉に詰めろがかかり絶体絶命の中、▲2三歩成として、詰めろをほどいた(ように見えた)。
「うん、そうですか」
と及川六段。棋士が負けを悟った時、3種類の指し方があるという。
一つは王手をかけて(相手玉に迫って)、形を作って投了。
一つは何も指さずに、即投了。
一つは徹底的に粘る。
及川六段は一番目で、貞升女流初段もそれに同意した。竹俣女流初段は三番目だったということだ。ちなみに私は二番目の投了。負けと分かっている将棋を延々と指すほど、私は精神力が強くない。
先手玉はそれでも詰みがあったようだが、詰まし損ねたら何もかもが水泡に帰す。塚田女流1級は慎重に寄せの網を絞り、竹俣女流初段が投了した。
「塚田女流1級の受けの手が印象に残りました」
と及川六段(が言ったと思う)。
しばらくして、竹俣女流初段と塚田女流1級も入室した。竹俣女流初段はタレントとしても活躍中で、いまや私は彼女を、将棋の強い芸能人としか見ていない。ほかの観客はどうなのだろう。
観客の多くがパチパチ写真を撮る。それは竹俣女流初段に向けられたもので、さすがの人気。私はカメラを持参しなかったことを、改めて後悔した。いや違う。家を出る時は大野教室に行くつもりだったから、やむを得なかったのだ。
対局者の感想。
塚田女流1級「序盤は自信がなかったんですけど、終盤でいろいろ考えちゃって…ゴニョゴニョ…」
竹俣女流初段「序盤はうまくいったと思ったんですけど…。秒読みは大変ですね。
右玉はやってみたかったんです。今日はゴチャゴチャした手を指してみたくて」
大盤の局面をややプレイバックし、及川六段が言及していた「▲4二銀」について、両者に問うた。塚田女流1級は△4三金を示し、これで後手が一手勝っていた。ここでも塚田女流1級はよく読んでいたということだ。
ここで渡部女流初段と和田女流初段も入室した。フレッシュな女流棋士が4人並んできらびやかで、まさにアイドルのようだ。私は、川口行きから土壇場でこちらに舵をとったことを、自分に褒めてやりたいと思った。
ともあれ対局者の皆様、お疲れ様でした。解説の及川六段と貞升女流初段も、お疲れ様でした。
決勝戦は渡部女流初段VS塚田女流1級。10月8日(日)に白瀧呉服店の店内で行われる。

帰りは上中里駅に向かう。この駅はむかし「将棋ペン倶楽部」に掲載された「文化祭1982」の最寄り駅で、私には甘酸っぱい思い出がある。
もう私は「お腹いっぱい」で、時刻も4時40分を過ぎているから、大野教室へ行くのも億劫になってしまったが、どうしようか。
それで、ホームに入線した電車に乗ろうと思った。すなわち、川口方面行きが先なら大野教室へ。上野方面行きが来たら帰宅、という按配である。
44分に構内に入ると、電車が入線していた。
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