今日の一貫

ハイエク型の不況だと篠原三代平先生はおっしゃる

一橋大学名誉教授の篠原三代平先生の私の履歴書が日経新聞で連載中だ。
90歳になんなんとしておられるが、お元気なようだ。
ところで、篠原先生、今のデフレ状況を、ハイエク型の不況だとおっしゃる。

この世代の学者の強みは、文献を実に丹念に読んでることだろう。
統計も整備されておらず、調査やヒヤリングもままならない状況下では、出版された世界の学説を書斎に閉じこもって必死に読み読解するというのが、学問のやり方だったのだろうし、この世代の学問の特徴だ。
だから、学説を学問にする『学学者』と揶揄された、都留重人先生のように、外国の説を紹介することを仕事の中心にする先生方が多かった。

この世代の先生方の特徴は、すばらしい読解力と記憶力、それに、現実の動きを垣間見たときの、その現象が学説のどこにあるかを言い当てる能力ではないか。
これは近代経済学者、、マルクス経済学者を問わない、この世代特有の能力だろう。
まだご存命のころの大内力先生などは、マルクス主義が期待した金融恐慌が生きてるうちに生じるとは思ってもみなかったのではないだろうか。元気であれば、これはヒルファーディングが、、、などとおっしゃったかもしれない。

それはそれ、篠原先生、ケインズも、ハイエクも、熟読された先生。
その先生、、今回の恐慌はケインズ型の「過小需要」でおきたものではない
とのこと。むしろハイエクの「貨幣的過剰投資」によっておきたものとの考え。
マーさすがに泰斗だ。

需要不足もたしかだし、市場に貨幣が足りないのも確か。
その需要不足をもっぱら財政対応で対応しようとしているケインズ的発想が問題なのだが、、。
ともあれ、文献をきっちり読まれて発言する先生方には脱帽だ。



以下引用
一橋大学名誉教授篠原三代平氏(1)2度の大不況(私の履歴書)

2009/06/01 日本経済新聞 朝刊 36ページ 1341文字
へそまがりに先見の明 ケインズもハイエクも学ぶ
 世の中は今、「百年に一度」の大不況のさなかにあるといわれる。世界を揺るがし、後に大戦の遠因となる大恐慌が起きたのは1920年代後半。私が10歳のころである。その後80年、2度も大不況を経験した人間はそう多くはいないであろう。ただ、経済学を学んだ身にとって、今回の大不況をどのように考えるか。これはなかなか大きな問題である。
 私が一橋大学に入学したとき、どのゼミでもケインズ研究が主流をなしていた。私も宮沢健一氏とクラインの「ケインズ革命」を翻訳したのだから、その意味ではケインジアンの一人であったかもしれない。
 ことし3月、青森を皮切りに始まった「定額給付金」には、ばらまきとの批判もある。しかし、給付金やその他の財政出動の計画には“不況退治薬”としての、ケインズ的なセンスが見いだされる。
 このケインズ主義に立つと、総供給に対して総需要が下回り、貯蓄が投資を上回るとき、景気後退が発生するという考え方になる。つまり、これは「過少消費説」である。しかし、へそまがりの私は学生時代、ケインズとは水と油の関係にあったハイエクも人一倍勉強した。
 「資本の純粋理論」は全文を翻訳せんばかりに精読した。だから、こぞってケインジアンになった当時のエコノミストたちとは違い、私は時代背景が異なってくれば、ハイエクの考え方も世に受け入れられる時期が必ずやってくると確信していた。その意味で私は、ケインズもハイエクも同様に尊重する人間である。
 ハイエクによれば、投資が貯蓄を大きく超過し、一国経済が金融面から過剰投資の状態になり、過熱状況を呈すると、その後に景気後退が生ずるとみる。ケインズとはまさに正反対。経済学の用語で言えば、これは「貨幣的過剰投資説」の考え方なのである。
 2007年半ば以降に表面化したサブプライムローン危機を契機とする景気後退は、今や全世界を覆うスケールにまで拡大したが、私からすれば、これはハイエク的な恐慌以外のなにものでもない。その結果、株価は暴落し、不況は世界的な規模に広がった。その昔、ハイエクに言及したら、「篠原さんは頭が古い」とからかう人がいた。その人たちは今回の貨幣的過剰投資説の再現をどう感じているのだろうか。
 もっとも、ケインズ、ハイエクいずれの考え方に立っても、いったん景気後退が始まれば過剰生産、過少消費が一般化し、経済は一路、後退過程をたどる点ではおなじである。しかし両者の違いはその「発端」にある。
 たしかに、戦後、もはや金融恐慌から景気後退が起きるようなことはなくなったかのように思われる時期があった(高度成長期)。しかし、今のサブプライム恐慌と同様に、10年ほど前に起きた「アジア金融危機」も、金融恐慌始発型であった。だから、金融恐慌が景気後退の誘因となり、ほぼ10年周期で世界を覆うという図式は、21世紀の今もそう変わってはいないのかもしれない。
 ヘッジファンドの一指揮者ジョージ・ソロスはある本の中で、それを抑止する方法はないのではない、政府・中央銀行がしっかりした対処の仕方をとることだと述べている。私はこのひと言を忘れることはできない。
(一橋大学名誉教授)

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牡丹鍋
学者
はじめまして。

篠原氏が↓のような実態
http://homepage3.nifty.com/joharinokagami/10006.html
を見てどう思われるか伺ってみたいものです。
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