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ジョブズの頭の中

一時は「グーグル本」が流行したが、最近は「アップル本」があふれている。しかし私の読んだ限りでは、"iCon"が読み物としておもしろかったぐらいだ。特に日本人の書いたものは、ウェブの2次情報の切り貼りとジョブズ礼賛ばかりで、何の参考にもならない。

その中では、Wiredの編集者が書いた本書は、ジョブズ自身へのインタビューを含めて、新しい情報がある。"iCon"など、これまでのアップル本は内部抗争のゴタゴタ(確かにおもしろいのだが)ばかり書かれていて、肝心の経営戦略について書かれたものがほとんどないが、本書は「スティーブの頭の中」をさぐることによって、その戦略を分析している。

・・・といっても、常識的な意味での企業戦略とかマーケティングが解説されているわけではない。「アップルには戦略チームというものがないんだ。マーケティングリサーチの予算もない」と同社のエヴァンジェリストだったガイ・カワサキはいう。「アップルの企業戦略は、ジョブズの右脳で発想されて、左脳で処理されるんだよ」。

アップルは、多くの雑誌で「世界一イノベーティブな企業」とされている。イノベーションこそ「成長力」の源泉だと考える日本政府や企業にとっては、その秘訣が知りたいところだろうが、「どうやってイノベーションを生み出すのか?」という質問に対するジョブズの答は次のようなものだ:
No. We consciously think about making great products. We don't think, "Let's be innovative!" [...] Trying to systematize innovation is like somebody who's not cool trying to be cool. It's painful to watch Michael Dell trying to dance. (p.177)
石井淳蔵氏もいうように、「科学的マーケティング」なんて神話にすぎない。ヒットをマーケティングの成果として説明するのは、ただの結果論だ。ポラニーが、科学の理論が帰納から生まれるのではなく科学者の直観から生まれるとのべたように、イノベーションを生むのも統計や分析ではなくcoolな才能だから、それを作り出すハウツー的な方法はない。しかしイノベーションは、単なる思いつきではない。それをgreat productとして実現するデザインへのジョブズの執念も尋常ではない。
コメント ( 23 ) | Trackback ( 4 )
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コメント
 
 
 
Unknown (ken)
2008-05-28 10:35:21
あと、世の中は「アイディアの偉大さ」の重要性に対するバイアスがありますよね。アイディアその物は凡庸に毛が生えた程度でも、スピーディーで確実なexecutionと下手に妥協せず、エッジを薄める結果とならない信念の方が大事な例が多いと思います。学校でもan idea is less than 1% of the value of the total enterpriseと教授が強調していました。
 
 
 
まさに創発! (ひでき)
2008-05-28 12:06:11
ジョブズの発言を聞くと、マーケティングってやっぱり発想なんだと、それも生身の人間の発想なのだと実感しますね。なんというか、人間自身の可能性を今の世の中は過小評価しすぎています。

本来の人間の力を信じて、innovativeになることしか人は救われません。制度でも、年金でも、金融機関のシステムでも、数々の筋の通らない新しい法律でも、おとぎ話のサルの手のように、プラスがあれば、かならずマイナスがある。ラッキーだと思っても、かならずしっぺ返しがあるという仕組みにしかなりえないことをつくづく実感します。
 
 
 
日本のメーカーの多くは (野村 香久)
2008-05-28 12:10:21
「科学的マーケティング」のために会議会議とものすごい労力を使っていますね。

新規事業を始める前に必ず、マーケティングデータもってこい というのが多くの会社で見かける風景じゃないでしょうか?
 
 
 
エキサイトの翻訳 (ヒマジン)
2008-05-28 14:30:51
いいえ。私たちは、すばらしい製品を作ることを意識して考えます。 私たちは、「革新的にしましょう!」と思いません。革新を体系化しようとするのはクールになろうとするクールでない人に似ています。 マイケル・デルが踊ろうとしているのを見るのは苦痛です。

なんと、これ全部エキサイトの翻訳です。ここまで訳せるとは!(Google翻訳ではまだ意味不明でした)
 
 
 
Yahoo!翻訳では・・・ (GNJ_G頑張ろう、N日本の、J人材!)
2008-05-28 16:43:48
Yahoo!翻訳では、下の一節の最後のみ「買い」でした(笑)。

マイケルデルが踊ろうとしているのを見ることは痛いです。
 
 
 
Don't think, feel! (へだち)
2008-05-28 17:34:27
何が需要されるかって心の問題なので、そもそも論理的に分析するものじゃないですよね。「Don't think, feel!」ってやつでしょうか。
 
 
 
UI (池田信夫)
2008-05-28 18:22:37
ジョブズの「美学」に原則があるとすれば、user experienceを最優先することです。たとえばiPhoneでSkypeなどの外部アプリを使わせないのも、そのためにごちゃごちゃしたマニュアルが必要になるからだそうです。

だから彼がねらっているのは、コンピュータというより家電です。かつてソニー本社を訪れて、盛田昭夫氏から初代ウォークマンをプレゼントされたときは、すっかり魅了されて、それを分解し、すべての部品を見ていたそうです。

かつては日本にも、ジョブズを脱帽させるイノベーターがいたんだな・・・
 
 
 
前の方が良かった (fuji)
2008-05-28 19:44:08
全くの印象になりますが、経営に苦しんでいた頃のアップル社の方が良かった。いろんなフリーソフトを使って「カスタマイズ」して楽しんでました。みんな「アップル頑張れっ!」て感じだったと思います。アップル本があふれるにつれ、逆に親近感が無くなってしまいました。もちろん業績好調はアップル社には良いことなのでしょうが。
 
 
 
イノベーター (popo)
2008-05-28 21:03:00
ベルの電話、キャムベルのAM放送、ツヴォルキンのテレビ、この三つは現在でも継承されていますね。
交流発電、蛍光灯、LED、トランジスタなど海外で発明されたものを利用して、日本の電機産業は発展していったのですね。
 
 
 
ジョブズの美学と資本主義 (もとすき)
2008-05-28 21:38:26
ジョブズのデザイン美学の基本はminimalismのようですが、最小の要素で最大の効果を狙うこの美学理念と資本主義には相通じるものがあると思います。日本人では任天堂の岩田聡社長がジョブズ的脳の持主のように見えます。過大評価でしょうか。
 
 
 
あえて (うだっぴょん)
2008-05-28 23:11:09
議論の活発化のために「あえて」の反論です。実証分析では説明できないものは残差になります。同じように、科学的に説明できないものは優れ者の直感なのだとしているのかも。天才の直感を科学的に「因数分解」する天才はいないの?
 
 
 
合議制では魅力的な商品は生まれない (江戸川アダモ)
2008-05-28 23:31:04
ウォークマンもそうですが、車で言えば初代ユーノスロードスターなどが端的な例ですね。市場のニーズなんて関係ない。単に「自分が欲しいものを作る」という発想です。マーケティングというのはそれらの成功を見て「最近の消費者はパーソナルなものを求めている」とかなんとか、後で理屈をつける行為です。

これらの商品は判りやすい例ですが、他にもちょっと気の効いたヒット商品って、マーケティングなんか無視して、自分の好き嫌いで作ってしまったものが多いと思います。それが出来たのは、開発の中心人物(若しくはそのサポーター)が社内でうまく立ち回って通したとか、あと時代がバブルで何をやっても許されたとか(^^

これは不思議なことでもなんでもなく、例えば音楽的に凡庸な人が話し合って、良い曲なんて作れないのと同じことです。マーケティング理論というのは、ちょうど音楽理論みたいなものでしょうね。それを習ったところでよいものが出来るわけではない。

ようは知識とか手順をいくら積み上げても、Coolなものは生まれない。先ず直感ありきです。最初から全体がばっと「降りてくる」感じです。これは、サイエンスやテクノロジーでも同じですね。
 
 
 
Unknown (しま)
2008-05-29 02:13:47
池田さんの本にも
「MP3を再生する携帯プレーヤーもそれ以前からあった」「音楽配信〜以前からあった」とかかれてます。イノベーションというほどのものがアップルにあるような気がしません。行動はすばやいと思いますが。
 
 
 
iPodTouchのuser experience (ひでき)
2008-05-29 09:55:19
電気屋さんの店頭で触ったくらいですけど、無線LAN付のiPodTouchのlook&feelというか、ひさびさにドキドキする感じというか、sense of wonderというか、十分にinnovationだと私は思いました。

それこそ、my first sonyというか、walkmanの初代にどきどきしたときを思い出します。
 
 
 
脳の働き (googoomobile)
2008-05-29 10:17:42
アップルが洗練されたデザインの製品を作ることは以前から当たり前のことで、今も昔も共通ですが、iPodの爆発的なヒットとiTouchやiPhoneの成功は全く別物と思います。

ジョブズの脳の中で過去の成功に縛られない新しいヒラメキが生み出したものだと思います。枯れることなく湯水の如くあふれ出すアイデアやヒラメキが、一番スゴイと思います。ただその一方で、何百何千のアイデアがボツになっている(脳内に情報キャッシュされている状態)と思います。


>「MP3を再生する携帯プレーヤーもそれ以前からあった」「音楽配信〜以前からあった」とかかれてます。イノベーションというほどのものがアップルにあるような気がしません。

iPodについて言えば、20年以上前にインプットされたウォークマン(音楽プレーヤー)というデバイスと音楽配信というものが、シナプスでつながった瞬間に新しい価値を創造した製品が生まれたんだと思います。

 
 
 
魅力を受け取るのは人間です (Sott)
2008-05-29 10:18:28
アップルファンに叱られるかもしれませんが、、、

ジョブズは人間の心に入り込む天才(感覚的マーケッティングの天才?)だと思います。あくまで想像ですが、おそらく内々には失敗策も大量にある筈です。
彼の一番の凄いカリスマの原点は、初代マックのデザインをイタリアのデザイナに依頼したことかもしれません。当時の技術の発想(出所)はパロアルト。

蛇足:
 コンピュータ世界にファンが存在する(した)としたら、Mac, PDP-11, Thinkpad, 位でしょうか。・・・で、個人名が知れ渡っているのはジョブズだけ。
 
 
 
Unknown (Unknown)
2008-05-29 19:18:04
たとえば、
"富士山を動かすにはどうすればよいか?"
とかいう問いにexcellentな回答をしたとしても、ジョブズは「ふ〜ん…」てな感じで、あんまり感動するようには思えません。
理詰めよりも官能性(狭義のエロスではなく)、"Excellent!"よりも"Cool!"であることのほうが、ジョブズの価値観では上位にくるような気がします。  …ま、ただの凡人の直感ですけど。

アップルの製品を初めて手にして、「おお!」と感動しているひとのそばに、もしジョブズがいたら、"ニヤッ"と笑ってそれを眺めている… なぜかそんなイメージです。
 
 
 
経営はアート (Unknown)
2008-05-29 21:59:02
>かつては日本にも、ジョブズを脱帽させるイノベーターがいたんだな・・・

今のアップルは昔のソニーだ。これは誰でも少なくとも家電とPCをかじったことがある人なら誰でも思うことですね(ソニーファンとアップルファンはかぶる)。なぜアップルが強いのかより、どうしてソニーは駄目になったのかを知りたいですね。

工業品のように経営学は勉強できないのかもしれません。傑出した個人の才能に依存する。昔投資はワンマン社長の会社と言っていた人がいます。そういう形態が個人の才覚が一番出る組織なのかもしれません。外れたら怖いですが。
 
 
 
イノベーションとは捨て去ることなり (Unknown)
2008-05-29 22:41:48
iPodの原型は某大手電子機器メーカーが先に手懸けていたのだけれど
主力製品の自社の音楽プレーヤーとバッティングする上に、
過去最大の売り上げを上げている子会社のCD販売の関係もあって
当時のCEOが商品化にGOを出さなかったとか…
で、ぶち切れた開発担当者が製品ごとアップルへ移籍、
こうしてiPodとiTunesは巨大なマーケットを築き
かたや、某メーカーの携帯音楽プレーヤーは子会社のパッケージ販売ともども
壊滅してしまったのでした…って、よくできた嘘話?だそうですが
過去や現在の成功はイノベーションの敵って教訓ですかね?

一方アップルコンピュータは、周辺機器は疎か、ケーブルの口から
OS、CPUに至るまで、ニーズがあろうが、なかろうが、どんどん切り捨てて…
気がついたら現行機種では10年程度前のソフトすら動きません(w
まさに「世界一イノベーティブな企業」の面目躍如です

 
 
 
口実としてのイノベーション (もとすき)
2008-05-30 00:24:11
アップルのイノベーション追求には「性能や機能は現状で十分だからもう少し価格を下げて欲しい」という消費者の声を無視する口実という面があると思います。
よく引用され称賛される例の"Stay hungry, stay foolish."も、要は「愚かしいまでに貪欲であれ」ということ。ジョブズの本質はビル・ゲイツ以上に徹底した「全身資本主義者」で、だからこそ現代のiConたり得ているのではないでしょうか。
 
 
 
イノベーション (Prewire)
2008-05-30 08:33:55
イノベーションの定義について、早速、Wikipediaを使って調べてみた。「イノベーションとは、新しい技術の発明だけではなく、新しいアイデアから社会的意義のある新たな価値を創造し、社会的に大きな変化をもたらす自発的な人・組織・社会の幅広い変革である」。つまり、従来のモノ、仕組みなどに対して、全く新しい技術や考え方を取り入れることによって、新しい価値を作り出し、社会的に大きな変化や意味を生み出すことを意味している。

*「Innovation」(Wikipedia): http://en.wikipedia.org/wiki/Innovation

最近、「The Innovator's Dilemma」を執筆したクリステンセン教授は、AppleのiPodやPCを中心としたデル・モデルの事例では、技術ではなく、ビジネスのイノベーションが起きていると述べています。

*「クリステンセン教授、企業にとってイノベーションの重要性が高まっている」:
http://prewire.blogspot.com/2007/11/blog-post_11.html

もしかすると、イノベーション自身もまた、変化しているのかもしれない・・・・。
 
 
 
目的と手段 (smst)
2008-06-01 07:07:11
やりたいことをやるためにはお金が必要です。
たとえば、ジョージ・ルーカスは映画が撮りたくて、そのためにお金が必要で、そのために映画を成功させてお金を儲けたといえます。
創業者にはやりたいこと(事業)をやるための手段としてお金儲けを捉えているタイプと、事業はお金儲けのための手段だと捉えているタイプとがあるように思えます。
この分け方は不明確だし、時間的にも一定していませんが、ホリエモンが逮捕されてからは、お金儲けを手段と捉えていると感じられる企業が賞賛されているように思えます。
 
 
 
ちなみに (haruomi)
2008-06-05 09:35:28
coolという形容詞をより使っていたのはジョブスよりゲイツでしたよね。
80年代に「儲けたいならハードウェアを作ればいい」と奨めたジョブスを鼻で笑って、ソフトウェアで桶狭間を演じて見せた。

しかしまさかジョブスも、自分が日本の唾棄すべき状況を正当化するために使われているとは思ってもいないでしょうな。彼も他のアメリカ人と同様、本音では「日本は変わったほうが良い」と思ってるのでは……?
 
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