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「中抜き」の経済学
磯崎さんにも指摘されたように、日本の中小企業には銀行からの借り入れでリスクをとる傾向が強い。私の例にあげた会社(私は利害関係者ではない)もそうだし、新銀行東京も再建の方針に「ベンチャー融資」を掲げている。この原因には、中小企業がVCや資本市場で資金を調達するのがむずかしいというだけではなく、さまざまな要因がある。
基本的な問題は(日本だけではないが)、税制のバイアスだ。Modigliani-Millerでも知られるように、法人税や倒産がなければ、理論的には負債と株式は同じである。しかし現在の税制では、金利は経費として控除されるが、配当には課税される。日本では「会社は経営者のもの」という通念が強いので、中小企業は節税のため、借り入れで資金を調達して利益を配当しないように操作する。その結果、企業の70%以上が赤字法人である。
本質的な違いは、銀行が資金を仲介してリスクをプールするのに対して、VCや投資ファンドでは投資家がリスクを負担するという点だ。銀行型の仲介構造は、情報の非対称性が大きいときは意味がある。銀行が預金者に代わって融資先を審査し、その情報コストを利鞘として取るわけだ(Leland-Pyle)。預金者がリスク回避的で逆淘汰が起こる場合には、銀行が集中的にリスク管理を行なう必要がある。
同様のローリスク・ローリターン構造は、日本社会に広くみられる。たとえばソフトハウスがITゼネコンの下請けになると、資金リスクはない代わり、利鞘は元請けにとられる。携帯端末メーカーは赤字営業だが、キャリアは数千億円の利益を上げている。メディアの世界でも、アメリカではハリウッドのプロデューサーがすべての権利をもっているが、日本では隣接権者にすぎないテレビ局がコントロール権をもち、プロダクションは下請けだ。
この構造は、情報が稀少な時代には有効だったが、ITによって情報が過剰になった世界では、本源的な生産者にコントロール権を移し、自由にリスクを取れるようにしたほうがいい。ところが仲介者は、こういう中抜き(非仲介化)に抵抗して既得権を守ろうとする。ゼネコンは談合で利権を守り、テレビ局は政治家を動員して電波利権を守る。
他方、系列構造に慣れた生産者も、あまりそれを変えようとしない。この中で単独でリスクをとっても、談合に阻まれて市場に参入できないからだ。しかし、このシステムが限界に来ていることは明らかだ。特にITの世界では、ローリスクで取れるリターンはほとんどないのに、系列構造にみんながぶら下がり、業界全体が沈没している。ここから脱却するには、まず談合を破壊し、生産者を既得権のくびきから解き放つことが第一歩だ。
追記:磯崎さんのきょうの記事によれば、会計的にも融資と投資の区別はそれほど絶対的ではないようだ。別にこれは「論争」ではなく、事実認識は同じなので、誤解なきよう。
追記2:TBでも指摘されているように、企業の経営者も負債と株式の区別はよく知らない。大企業の取締役が「どれぐらい借り入れで調達するかは銀行とのつきあいで決める」というのを聞いて、唖然としたことがある。
基本的な問題は(日本だけではないが)、税制のバイアスだ。Modigliani-Millerでも知られるように、法人税や倒産がなければ、理論的には負債と株式は同じである。しかし現在の税制では、金利は経費として控除されるが、配当には課税される。日本では「会社は経営者のもの」という通念が強いので、中小企業は節税のため、借り入れで資金を調達して利益を配当しないように操作する。その結果、企業の70%以上が赤字法人である。
本質的な違いは、銀行が資金を仲介してリスクをプールするのに対して、VCや投資ファンドでは投資家がリスクを負担するという点だ。銀行型の仲介構造は、情報の非対称性が大きいときは意味がある。銀行が預金者に代わって融資先を審査し、その情報コストを利鞘として取るわけだ(Leland-Pyle)。預金者がリスク回避的で逆淘汰が起こる場合には、銀行が集中的にリスク管理を行なう必要がある。
同様のローリスク・ローリターン構造は、日本社会に広くみられる。たとえばソフトハウスがITゼネコンの下請けになると、資金リスクはない代わり、利鞘は元請けにとられる。携帯端末メーカーは赤字営業だが、キャリアは数千億円の利益を上げている。メディアの世界でも、アメリカではハリウッドのプロデューサーがすべての権利をもっているが、日本では隣接権者にすぎないテレビ局がコントロール権をもち、プロダクションは下請けだ。
この構造は、情報が稀少な時代には有効だったが、ITによって情報が過剰になった世界では、本源的な生産者にコントロール権を移し、自由にリスクを取れるようにしたほうがいい。ところが仲介者は、こういう中抜き(非仲介化)に抵抗して既得権を守ろうとする。ゼネコンは談合で利権を守り、テレビ局は政治家を動員して電波利権を守る。
他方、系列構造に慣れた生産者も、あまりそれを変えようとしない。この中で単独でリスクをとっても、談合に阻まれて市場に参入できないからだ。しかし、このシステムが限界に来ていることは明らかだ。特にITの世界では、ローリスクで取れるリターンはほとんどないのに、系列構造にみんながぶら下がり、業界全体が沈没している。ここから脱却するには、まず談合を破壊し、生産者を既得権のくびきから解き放つことが第一歩だ。
追記:磯崎さんのきょうの記事によれば、会計的にも融資と投資の区別はそれほど絶対的ではないようだ。別にこれは「論争」ではなく、事実認識は同じなので、誤解なきよう。
追記2:TBでも指摘されているように、企業の経営者も負債と株式の区別はよく知らない。大企業の取締役が「どれぐらい借り入れで調達するかは銀行とのつきあいで決める」というのを聞いて、唖然としたことがある。
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逆にいうと、倒産が起こる場合には負債と株式は同じではない。負債の場合には、ふだんは資産の残余コントロール権は債務者にあり、いくらもうかっても金利だけ払えばよいが、債務不履行になったときはコントロール権が債権者に移転する。株式の場合は、ふだんは残余コントロール権は株主にある代わり、倒産した場合のコントロール権は債権者に劣後します。
この「定額リターン/債務不履行時のコントロール権」と「変動リターン/通常時のコントロール権」という組み合わせは、自明ではない。理論的には、この2つの条件の別の組み合わせ(たとえばコントロール権のない優先株)も可能だが、現実には負債と株式が圧倒的に多い。このパズルを理論的に説明するのは、ファイナンス理論の最先端の問題で、いろいろな考え方があります。cf. Tirole, "The Theory of Corporate Finance".
financeをかじり、経営体験をほんの少しでも持つと、借入で調達するよりも株式で資金を調達する方が資金コストがかかるというのは本当なんだなぁ、と実感します。企業を成長させつづけなければならないという期待は実は重いです。過剰な期待は、これまでも、これからも多くの企業の経営責任者の道を誤られせ続けることでしょう。
ベンチャーというゼロからの成長を最初から使命にしている企業なら株式による資金調達もよいのでしょうが、税金のデメリットを抜いて考えても、安定的な中小企業の財務担当者なら目先の金利か、成長と暗黙のうちに強制される配当かの選択に迷うと思います。
あ、そうそう、それと日本の場合は銀行のネットワーク力とfinanceの常識を超えてディスカウントされる金利があるので、これを使わない手はないという考える企業も多いはずです。
まぁそういう下らない起業はするな、というのも一つの意見ですが、社内失業している中高年が「第2の人生」にチャレンジするのも意味があるので、信金やノンバンクにも使い道はあると思います。かつてバブル期に邦銀が派手にやったような「投資的な融資」も不可能ではないのだから。
http://www.tez.com/blog/archives/001191.html
それから、この記事の議論はきわめてラフなもので、MMの原論文には「コントロール権」の概念はありません。これはHart-MooreやAghion-Boltonなどが導入したものです。Tiroleは、負債と株式をsecurity designとして統一的に理解し、いろいろなアプローチを紹介しています。
<債務不履行の仮定は証明を楽にするための技術的なもので別にこの仮定は必須ではありません。 理論的には、債務不履行が存在する状況においてもMM命題は成立し、企業価値は資本構成から独立になります>
前のコメントでも書いたように、オリジナルのMM論文にはコントロール権は想定されていないので、そういう「完備契約」の世界では、債務不履行も無関係にすることができます(税も)。しかしこれはおかしい、ということでいろいろな人が財務構造を説明するためにたくさん論文を書いたわけです。その中で有力なのは、HartやTiroleの「ガバナンス」で説明する理論で、荒っぽくいうとこういうことです:
新古典派的な完全情報・完備契約の世界では、MM命題はほとんどの問題を(裁定で)帳消しにできるが、それはファイナンスを単なる「金貸し」と考えているからだ。実際には、ファイナンスの第一義的な意義は投資家がエージェントをコントロールすることにあり、不完備契約や再交渉を考えると、負債と株式は倒産したときの処理が大違いで、これによって多くのstylized factsが説明できる。
くわしい説明は、Tiroleの教科書の第2章や、Hart"Firms, Contracts, and Financial Structure"の第2部を読んでください。このHartの教科書は名著で、私は修士論文を書くとき20回ぐらい読みました。
これを見た公取委から事情聴取を受け、その半年後にNECが警告処分を受けました。その後しばらくNHKのクルーは秋葉原に立ち入り禁止になり、店頭を撮影していると、店員が「肖像権の侵害だ」と妨害するようになりました。
このとき救いがたいと思ったのは、彼らがヤミ再販などの違法行為を「仲間を助け合う美しい風習」と考えていることで、私に対して名誉毀損で訴える旨の脅迫状まで来ました。それから20年たっても、日本は何も変わってないんですね・・・
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