ヒット商品応援団

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平成の歌謡曲/いきものがかりと阿久悠

2015-05-17 11:17:40 | 市場創造
ヒット商品応援団日記No614(毎週更新) 2015.5.17.

確か4月末のTVの特集番組であったと思う。それは再犯防止を願って、月に2回朝の決められた時間に札幌刑務所の受刑者たちが思い思いに耳を傾けるラジオ番組コミュニティーFM三角山放送局の特集であった。その受刑者からのリクエスト曲にいきものがかりの「ブルーバード」がかけられていた。その歌詞の出だしにある「飛翔(はばた)いたら 戻らないと言って 目指したのは 蒼い 蒼い あの空」・・・・・家族などへの塀の外への思い、二度と戻ってはいけないという意志からのリクエストであると思った。と同時に、若い三人組のいきものがかりの曲が60代と思しき受刑者のこころを打っていることに素直に驚いた。音楽は「聞く者」のためにあり、それは年齢や性差、言語の違いを超え、更に時間を超えていくものである。勿論、塀の中も外もである。何か、若い三人が「時代」という大きな妖怪に向き合っているなと感じた。

実は「妖怪」という言葉、キーワードを使ったのはあの作詞家阿久悠さんである。「歌謡曲の時代」(新潮文庫)の「序」のなかで、「歌謡曲活動するための餌はというと、時代である。歌謡曲は時代を食って色づき、育つ。時代を腹に入れて巨大化し、妖怪化する。ぼくはそう思っている。」と語っている。
何故いきものがかりにそう感じたのかというとある意味直感ではあるのだが、言葉(歌詞)はシンプルでごく普通の言葉が連なるそんな曲が多い。もっと言うならば、言葉、形容詞を削ぎ落とし、これ以上の意味しか無い、という世界にまで追い込もうという意志が見られるからである。少し褒めすぎかもしれないが、「普通」を超えるとは時代の持つ「普遍」につながるという意味である。

いきものがかりフアンであれば熟知のことであるが、初期の2006年リリースした「SAKURA」や7作目となる「ブルーバード」あたりまではいわゆる青春物であったが、Nコンの課題曲にもなった2009年の大ヒット作「YELL」あたりから少しづつ変わり始めたように思える。そして、やはり転換点となったのが2014年冬季オリンピックのテーマ曲となった「風が吹いている」であろう。この曲では初めて「時代」というキーワードを使った。

 時代はいま変わっていく 僕たちには願いがある
この涙も その笑顔も すべてをつないでいく

風が吹いている 僕はここで生きていく
・・・・・・・

冬季オリンピックのテーマ曲であるが、この「時代」にはオリンピックのアスリートたち以外に、直接的な言葉としては出てこないが、例えば日常の中のいじめを受けている人たちや、もっと大きく言えば3,11の東日本大震災の被災者をも含まれていると思う。そうした人々への応援歌である。

ところでその「時代」は凄まじい勢いで変化し続けている。そのためにどうするかである。答えは「Live」にある。常にフアン(顧客)に直接向き合って、その歓声や息遣いまでも感じ取ることができるからである。ミュージシャン、いや人を楽しませるエンターテイナーは毒舌漫談の綾小路きみまろから歌舞伎まで全ての基本はライブにある。ゆずもそうであるがいきものがかりの基本もライブで現在も全国コンサートツアー中である。CDもDVDもライブの結果である。古くからミュージシャンがCDショップの店頭で歌い、そして自ら販売するのもこうした背景からである。

ライブはミュージシャンにとって基本であるが、作詞家阿久悠さんが歌謡曲復興の最後にかけた歌手あさみちゆきは今でも路上ライブをやっている。井の頭公園の歌姫と呼称され一時注目された歌手である。阿久悠さんは『現在の歌で、一番欠けているのは場面だと思います。作詞家としても僕は、あさみちゆきという語り部を得て、映画よりも劇画よりも意味深い、鮮やかな『場面』を作ろうと試みました。」と語っていたが、ライブコンサートこそミュージシャンと観客が共有できる「唯一」の「場面」であるからだ。この「場面」、ストリートライブを今なお月1回吉祥寺の井の頭公園で実施していると聞いている。

亡くなってから随分時間が経ったが、コラムニスト天野祐吉さんは「ことばの元気学」で”ことばは音だ”と次のように語ってくれていた。

『やっぱり,言葉は音ですよね。
音を失ったら、言葉は半分死んでしまう、とぼくは思っています。
言葉は何万年も昔から音とともにあったわけで、
文字が生まれたのは、ほんの昨日のことですから。』

そして、阿久悠さんは流行歌に触れて、既に伝統化しつつあり、流行歌に自由はなかった。演歌となると、更に様式化が加わり、時代を拒否すると断言した。
「それに比べて歌謡曲は、定型や様式から解放され、逆に言えば、永久に伝統芸となり得ない、常に生(なま)もののようなところがあって、それが魅力だった。」と。
いきものがかりには、時代を食い、時代を「音」に変え、平成の歌謡曲という妖怪への道を歩んでもらいたいものである。(続く)

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