ヒット商品応援団

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顧客変化は編集で探る

2017-04-16 12:37:29 | 市場創造
ヒット商品応援団日記No675(毎週更新) 2017.4.16.

昨年11月低迷する大阪経済にあって元気な商業施設としてUSL(ユニバーサルスタジオジャパン)を取り上げ、そのV字回復の背景を取り上げたことがあった。他方2016年度の東京ディズニーリゾートはどうであったかと言うと、先々週この国内二大テーマパークの2016年度通期の入場者数の発表があった。多くの報道がなされたので目にした方も多かったと思う。東京ディズニーリゾートは前年度比0.6%減の3000万人と2年連続で前年実績を下回った。一方USJは前年度比約5%増の1460万人で過去最高を更新した、という報道である。この報道をどう受け止めたであろうか。
東京ディズニーリゾートの低迷はユニクロがそうであったように値上げによるものであると、そう考えた人も多かったことと思う。USJの快進撃はハリーポッターを転換点としてアトラクションが成功したものであると。それぞれ正解であると、私も思うがこの2つのテーマパークはその「テーマ」に対する基本的な考え方、MD(マーチャンダイジング)の方針が異なることによるものであり、その結果であるというのが私の受け止め方である。

周知のように東京ディズニーリゾートはウォルトディズニーという創始者が始めたファミリーエンターテイメントの理念に基づくものであるが、その創業キャラクターである「ミッキーマウス」にそのエンターティメントというテーマのあり方が出ている。エンターティメントビジネスには浮き沈みもあり、ディズニー社も例外ではなく倒産の危機もあった。実はあまり知られてはいないが、この危機を救ったのはこの「ミッキーマウス」であった。ちょうど第二次世界大戦の頃、ディズニー社も戦意高揚のプロパガンダ映画を制作し、ミッキーマウスにその任を与えたと言われている。戦後はそうした政治的なものにはなっていないが、大衆自身が願う形へミッキーを作り変える作業を続けることは変わらず行われてきている。大衆という顧客が望む「米国」をどう描くかであるが、これはUSJも同様で、大阪に導入した初期のアトラクションで後に撤退する「ウエスタンエリア」という西部劇映画をテーマとしたエリアで駅馬車やシェーンなどのセットがそのまま情景となっていたアトラクションである。つまり、米国民が思い描くエンターティメントであり、ヒーロー・ヒロインが活躍する開拓物語である。

実は、顧客が望むような「世界」をいかに創っていくかがこの2社の「差」になって現れてきているということである。面白いことにUSJがこの数年間実施してきたアトラクションを見ていけばその「差」の意味がわかってくる。例えば、
2015年 「妖怪ウォッチ・ザ・リアル」導入。
2016年  「AKB48グループ選抜「やり過ぎ!サマーシアター」
              「ユニバーサル・クールジャパン2017『戦国・ザ・リアルat大阪城』」開催。(2017年3月12日終了)
また、今後のアトラクション計画にはスーパーマリオを中心とする任天堂の世界観を忠実に再現するアトラクションのように、今顧客が求めているであろう「物語」を関連映画にとらわれず積極的に取り入れるMDとなっていることである。そして、それはUSJという場を超えた大阪城にまで広げる、そんなエンターティメントワールドとなっている。つまり、積極的に時代の変化を取り入れてきたということである。勿論、失敗もかなり多く、また単一イベントも極めて多い。しかし、東京ディズニーリゾートと比較してもわかるように「変化」を果敢に取り入れてきたという点に注目すべきである。

さて、この時代に沿った顧客が望む編集とは何かであるが、その編集とは商品・メニュー揃え、価格帯揃え、ということになる。勿論、個々の専門領域におけるテーマに沿った「揃え」であるが、従来の考えから少し外れても一度トライすべきということになる。例えば、街場のパン屋さんの定番の一つにメロンパンがある。それはそれで人気商品ではあるが、そのメロンパンに季節のソフトクリームをプラスしてやってみる。こうした試みは観光地化した街のパン屋さんではすでにやっているが、かなり前になるがクイーンズ伊勢丹のある店舗で焼きたてのクロワッサンにソフトクリームを挟んで販売したことがあった。勿論、大人気で行列ができたのだが、かなり「手間」「人手」を要することから定番メニューにはならなかったが、そのジレにも見られるように、「定番メニュー+α」のメニュー化である。
もう一つの価格帯揃えについても、いわゆる昔からの「松竹梅」があるが、売れ筋商品はやはり「竹」となる。この売れ筋価格帯に一工夫するということである。例えば、この「竹」に2種類の価格帯の商品を用意してみるということである。高い方の「竹」が売れるか、低い方の「竹」が売れるか、見極めるということである。

ところで前回のブログで「静かな顧客変化を察知する」時代であると書いた。この「静かな変化」を察知するためのMD(マーチャンダイジング)について書いてきたが、課題は顧客として「誰に」対して行うかである。2大テーマパークの業績から見えてきたように、東京ディズニーリゾートの失敗は既存リピーター顧客に対し新しい「変化」を提示することなく「値上げ」をしたことによる。当然来場客数は減少し売り上げも減少する。一方、USJも値上げはしたのだが、時代の要望である特定顧客における変化欲求ではあるが、「妖怪ウオッチ」や「AKB48」の顧客をも取り込んでアトラクションやイベントを行う。つまり新規顧客を取り込んでいくという戦略をとったことが、この業績の「差」になって表れたということである。これはUSJの場合日本人市場のみならず、訪日外国人市場、特にLCCを使った顧客市場への取り込みも大きな理由になったことは言うまでもない。こうした訪日外国人市場の急伸については未来塾「2つの観光地、浅草と新世界」でも指摘したが、時代を読んだ巧みなMDであると言える。

今、大手牛丼専門店が糖質カットメニューにトライしている。これも「糖質カット」という健康時代の要請の一つであり、女性のみならず男性もこうした潮流に乗った事例である。既に数年前からサッポロビールの第三のビール「極ZERO(ゴクゼロ)」では糖質やプリン体0の成功があり、日本酒においても月桂冠の糖質0もヒットし他のメーカーも追随しているという背景もあっての導入である。そうした意味でガツン系の象徴でもある牛丼専門店が新たな顧客開発を狙った導入にも意味がある。これもメインメニューになることを狙った新商品ではなく、あくまでも「メニュー揃え」ということである。ただご飯の代わりに豆腐やこんにゃくを使う「定番メニュー+α」のメニュー化としては如何なものかという疑念はあるが。
こうした個客のもつ「多様な変化」を探ることが必要となっている。そして、前回のブログにも書いたように、この「多様さ」に応える編集力が求められているということだ。(続く)

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