白石勇一の囲碁日記

囲碁棋士白石勇一です。
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書評・第7回 名人

2017年07月23日 23時59分59秒 | 書評
皆様こんばんは。
本日は横浜の宇宙棋院で行われた、女流親善囲碁大会で指導碁を行いました。
大会には大勢参加されていましたが、全体的に和やかな雰囲気でしたね。
私も楽しく対局させて頂きました。

さて、本日は囲碁史に残る名作、「名人」をご紹介します。
本書は文豪・川端康成氏による「名人引退碁」の観戦記をまとめたものです。
「名人引退碁」は家元制での最後の名人、本因坊であった本因坊秀哉名人の最後の勝負碁でした。
対局相手を務めたのは木谷実七段ですが、本書では何故か大竹七段とされています。
木谷七段が自分の名を残すことに、複雑な想いがあったのでしょうか。

本書には碁の解説はほとんどありません。
まさしく観戦記であり、両者の息遣い、交わした言葉などといった、対局の雰囲気を伝えることに専念しているように思えます。
読者は実際に盤際で観戦しているかのような錯覚を覚えるでしょう。

この対局はタイトルを争うようなものではありません。
しかし、旧時代の覇者が新時代の開拓者に道を譲るための一局であり、重要な儀式でした。
この対局に懸ける両者の想いも特別であり、本書ではそれがひしひしと伝わってきます。

なお、この時名人は65歳、木谷七段は30歳でした。
しかも木谷七段がコミ無しの黒です。
手合割通りとはいえ、木谷七段の有利は明らかですね。
私が儀式と表現する意味もご理解頂けるでしょう。

「5目でございますか。」
「ええ、5目・・・・・・・。」
この余韻のある終局シーンは印象的ですね。
一つの歴史が終わりを告げた瞬間でした。

名人引退碁という唯一の対局で、川端康成氏が観戦記を執筆されたのは囲碁界にとって素晴らしいことでしたね。
囲碁ファンなら一度は読んでおきたい作品です。
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