白石勇一の囲碁日記

囲碁棋士白石勇一です。
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井山名人、3連勝!

2016年10月27日 22時40分39秒 | 囲碁界ニュース等
皆様こんばんは。
本日は名人戦第6局、2日目が行われました。
結果は井山裕太名人が、高尾紳路挑戦者に黒番中押し勝ちを収めました。
これでなんと、3連敗後の3連勝!
決着は最終第7局に持ち越されました。
それでは早速、2日目の模様を振り返っていきましょう。

なお前日同様、この対局は幽玄の間にて、高梨聖健八段の解説付きで中継されました。
また、ニコニコ生放送でも生中継されました。



1図(実戦黒69)
さあ注目の封じ手は・・・黒△のツケコシ!
見事に外れました。
この部分だけ見ればよくある手筋ですが、まさかこの局面で打つとは思いませんでした。
朝日新聞デジタルで解説を務めた望月研一七段は、この手がある事を解説していましたが・・・。
左上の這い以外の手を、一応出してみたという感じで、やはり当たるとは思っていなかったでしょうね。





2図(実戦白70~74)
というのは、実戦のように進むと、左辺黒△が弱くなってしまうからです。
白5の後、黒Aと頭を出す手が自然ですが・・・。





3図(変化図)
黒1と伸びると、このような進行になりそうです。
左辺の黒はまだ生きていませんし、上辺の黒は白Aの打ち込みが心配です。
心配が多すぎて、黒が大変でしょう。
井山名人、失敗したのではないかと思っていましたが・・・。





4図(実戦黒75~黒79)
実戦は、井山名人が予想外の打ち回しを見せました。
黒1~5のコウ仕掛け!
ここで眼形を確保し、黒Aを省略してしまおうという狙いですね。
打たれてみれば、なるほどと思いますが・・・私では絶対に気付きませんね




5図(実戦黒83~黒87)
その後黒1、3とコウを解消、白はコウ替わりで黒△を取りました。
白としては相当な利益です。
しかし黒5と飛んで、黒は白△を丸飲みする態勢です。
思いもよらない大変化になりました。





6図(実戦白88~90)
白は丸飲みされてはたまらないので、動き出していきました。
白1、3は、高尾挑戦者らしい力強い打ち方です。





7図(実戦白112)
その後白△まで、隅の白は完璧に生きました。
後は周りの白がどうなるかの問題です。
地は白が多いので、黒は攻めによって大きなポイントを挙げなければいけません。
ただし上辺や右上隅の黒も不完全なので、上手くいくかどうか?
このあたりの場面を昼休み中に見ていましたが、黒が勝つのは大変なのではないかと思っていました。





8図(変化図)
このように黒がのんびり打っていると、攻めるどころか大きく地を作らせてしまいます。
一瞬にして白勝ちが決まるでしょう。





9図(実戦黒113)
ですが、実戦は黒1!
これが急所なのです。
直接的には黒Aの切りを狙っていますが、他にも上下の白の分断、全体の眼取りと、様々な意味のある手です。
この場面になれば私でも思い付くかもしれませんが、井山名人はずっと前から見ていたのでしょう。
そこが名人と並の棋士の違いですね。





10図(実戦白114~白118)
白5まで進行しましたが、白全体の眼が無くなっています。
8図とは全く違いますね。
これが急所の効果です。
次に黒Aの切りが目に付きますが、上辺の黒が弱いので・・・。





11図(実戦黒119~黒123)
黒1と上辺を補強し、白2を待ってから黒3と切りました。
自分の弱い石を守りながら攻めるという、攻め方のお手本ですね。
もう上辺の黒は安全とみて、白4には黒5と強気に攻めました。





12図(実戦白124~白126)
しかし、白1、3と反撃が来ました。
白AとBを見合いにしていますが、黒大丈夫でしょうか?





13図(実戦黒127~黒131)
もちろん、井山名人には対策がありました。
黒1、3でぎりぎり凌いでいます。
さらに白4の手筋が飛んで来ましたが、ここも黒5が好手で凌げています。





14図(実戦白132~白140)
黒8となって、上辺の黒は生きました。
後は周辺の白がどうなるかです。
まず白9と、こちらの凌ぎを図りました。
黒Aと出口を止めると、白Bで黒2子が危なくなります。
黒としては、何か対策しなければいけませんが・・・。





15図(実戦黒141)
実戦は、黒1の格好良いツケ!
白Aと受ければそこで黒Bと打ち、白Cには黒Dで脱出できます。
このツケは、幽玄の間解説の高梨八段が予想していましたね。
「井山名人が打ちそうな手」という事でしたが・・・なるほど、いかにもという感じです。





16図(変化図)
ツケに対して白1と出て来れば、そこで黒2と守るのが良い調子です。
次に黒AとBが見合いで、白が困ります。





17図(実戦黒141~黒143)
実戦は黒1のツケに対して、白2と左辺の白を守りましたが、黒3に回り、今度は上辺の白が危なくなりました。





18図(実戦白144~黒151)
白1から懸命に凌ぎを図りますが、一転して黒8!
今度は左辺の白の攻めに戻りました。
目まぐるしい展開です。





19図(実戦白152~黒157)
左辺の白を生きていると、また上辺の白が危なくなりそうなので、開き直って白5まで守りました。
しかし黒6となって、いよいよ左辺の白がピンチです。





20図(実戦白158~黒163)
白1から眼を作ろうとしますが、黒6が決め手です!
井山名人は、ここで勝ちを意識したとの事でした。
次に白Aと受けていれば、左辺の白は生きられるのですが・・・。





21図(変化図)
白1には黒2が先手になるので、黒4、6の出切りが成立します。
中央の白が取られてしまいます。
<追記>上辺か中央の白が取られてしまいます。





22図(実戦白164~黒167)
白1、3と、黒Aを防ぐ打ち方を選択しましたが、黒4でとうとう白の命がかかったコウになってしまいました。
最終的にはコウ替わりで右辺白△が死に、黒の中押し勝ちとなりました。


1日目は井山名人の足早作戦、高尾挑戦者の手厚さが目立った進行でしたが、2日目は一転、井山名人が猛攻をかける展開になりました。
高尾挑戦者が悪い手を打ったようには見えませんでしたが、結果的には井山名人が上回りました。
見所の多い名局だったと思います。

さあ、次はとうとう最終局です!
最終局というのは盛り上がるものですが、それが3連敗からの3連勝となればひとしおですね。
最初に高尾挑戦者が3連勝した時は、ちょっと心配していました。
せっかくの名勝負が、4局で終わってしまうのではないかと・・・。
ですから普段は中立の私も、今回ばかりは途中から井山名人を応援していました(笑)。

しかし、まさか本当にここまで来れるとは・・・。
第4局以降、毎局調子を上げて行く井山名人には戦慄すら覚えました。
途中に王座戦天元戦を挟む過密スケジュールでしたが、むしろ集中力を増す結果になったようです。
間違いなく、最終局にも最高の状態で臨むでしょう。
一方の高尾挑戦者も、このシリーズでは毎局自分らしさを発揮して来たと思います。
百戦錬磨の高尾挑戦者の事ですから、最終局でも全力を出し切れる事でしょう。
最終局では、一体どんな名局が生まれるのでしょうか?

最終第7局は11月2日(水)、3日(木)に山梨県甲府市「常磐ホテル」で行われます。
間違いなく、後世に語り継がれる一局になるでしょう。
絶対に見逃せない戦いです。
お楽しみに!