バンマスの独り言 (igakun-bass)

趣味と実践の音楽以外に日々感じる喜びや怒り、感動を記録するためのブログです。コメント大歓迎です!

深夜へようこそ・・・小さな街の小さなロックバー

2005年12月19日 | 日常
東京新宿四谷荒木町・・・かつて昭和の中期には花街として栄え、今はこの大都会にぽつんと残されたノスタルジックな面影を漂わせる小さな街・・・ここに僕の愛すべき小さなバーがあります。

先日、バンドの忘年会を共通の友人でありサポーターでもあるご夫婦の経営する原宿駅に程近いカフェバーでやりました。バンド仲間を代表して「ビハインド・ブルース」のギタリストMr.223氏、ウェブ上で応援していただいているMr.テーラー氏、そしてバンドの特別メンバー:作詞家 末松康生氏(元・四人囃子)を加えての気の合う楽しい仲間だけの年内最後のパーティーでした。
たくさんの料理と飲み物などに囲まれ、楽しい会話と先日BSで放送された「ロック誕生50年」のビデオをツマミに、最後はカラオケで夜はふけていったのでした。

楽しかった時間も終電時間がヒタヒタとせまってくると、仕方のないことですがお開きとなりました。みんなそれぞれ帰っていきます。僕も、と思ったけれどなぜか混雑する電車に乗る自分が想像できないのです。かといってこの寒空の下、いったいどうすれば。

そうだ! あの人に電話しよう・・・「大丈夫! 待ってますよ」・・・この返事で決めました。 赤いランプの点いているタクシーを止めて「運転手さん、四谷三丁目へお願い」・・・バンドからはボーカルのS氏とA子マネージャーも付き合ってくれました。
ほどなくしてタクシーを降り、荒木町柳新道通りの暗い路地の入り口に立つと・・・ここはさながらタイムトンネルの入り口のよう・・・数十メートル先に緑色のぽ~っといかにも目に優しい、穏やかながらもきっぱりとした存在感のある看板が控えめに光っています。それが「待ってますよ」と言ってくれた主(あるじ)のいるロックバー「テキサスフラッド」の入り口のサインです。そこはかとなく深夜の匂いが流れる暗い路地を3人で歩く一分もない短い時間に、何とも言えない期待感と安堵の時間を求めるような気持ちが大きくなっていきました。 

お店のある二階への階段を上る足取りはこの夜、すでに酔っているせいもあってなにかとても重かったような気がします。いかにも手作りといった風情の木の扉を開けると、ふっくらとしたミディアムテンポのブルースロックが待ってましたとばかりに外気で冷やされた身体を包み、あふれた音が開いたドアの隙間から階下へ流れ出ていったような気がして思わず今上った階段を振り向いてしまいました。
「やあ、いらっしゃい」「こんばんは、来ちゃった~!」あいさつもそこそこに広めのカウンターテーブルに両手をついてよっこいしょ、と椅子に座る時のワクワクした気持ちはとてもいいものです。マスターはいつものように柔和な笑顔でグラスを拭いていました。
スタートは柑橘果実がボトルの口にささっている「コロナ」ビールです。総じて外国ビールは軽い口当たりのものが多いけどこれも南国でのどが渇いた時に飲む一杯の水のような爽やかさ。さっきまでのパーティーで飲んでいたジャパニーズ・ウイスキーの変にまったりとした喉にからんだ味がふっと解けていきました。
ほっとする瞬間です。 薄暗い店内は所々小さなミニスタンドが置物やCDなどを照らしていて、目がその暗さに慣れてくるといろいろな小物が置かれているのが分かります。
たくさんのポスターやカード、告知、ロック関係の雑誌、ギターやアンプ・・・。

流れる音楽がひときわパワフルになりました。左の頭上にはJBLのスピーカーがその白いコーンを細かく振動させています。「ロス・ロンリー・ボーイズ」。 アメリカの田舎のアンちゃん兄弟がやってるバンドです。ちょっとむさくるしい、絶対にブリティッシュ・ロックにはいない風貌のこの連中のノリにこの感じいいなぁ、と思いつつ軽いビールをもう一本おかわりしました。

隣でボーカルのS氏がテーブルにひれ伏して完全睡眠状態に入りました。今夜のパーティーの続きを夢の中で見ているのでしょう。マスターは隣に座っているA子マネージャーに大丈夫?落ちないでね、と今にも背の高い椅子からずり落ちそうな今晩の幹事氏を気遣って声を掛けました。顔を上げ「大丈夫!」と言ったきり彼は午前2時を過ぎて目を覚まし、帰宅するため帰り支度をするまで何も話しませんでした。いいんだ、これで。今日はとても楽しかったんだから・・・。

そしてA子マネージャーと共にタクシーで深夜の闇の中に消えていきました。それを見届けて、ふたたび緑の看板へ戻ると、そこにマスターが立っていました。「遅かったね」「タクシーがいなくてなかなかつかまえられなかった」と言う会話をしてそそくさと店内へ戻りました。

さぁ、お店はいよいよマスターと僕だけになって、店内に音を吸収する衣服をまとう客がいなくなったので流れる音楽がいっそう響き渡るように感じました。
その後、マスターは少しづつ、時間の経過とともに音量を絞っていったようです。
静かで穏やかな時間が流れました。いろんな事を話すんだけど、どこかで流れが寸断します。深夜、ほの暗い店で向き合って話していても睡魔が時々襲ってきて「落ちる」んです。ふっと我に戻りまた別の事を話し始めます。今度はマスターがちょっと「落ちて」また別の話。次のお替りはなににしようとカウンターの酒棚をのぞいて、たまたま目立っていたタンカレーのジンをロックで飲みながら、また「落ちて」しまい・・・。

深夜にロックバーの灯をともし、客足が途絶えた時の空虚な時間をどう精神的に乗り切るかがこの商売をする人の向き不向きを決定するとマスターは言います。もしも僕がカウンターの中に一人いてお客の来る気配すら感じられない状況に置かれた時、精神的にかなりとんがっていってしまうと思います。そして次の瞬間、入り口のドアが唐突に開くのを非常に恐れるんではないかとも思います。ドアがあったってカギはかけていないのですから、どんな人間や妖怪が入ってくるか分からないのです。これはきっと恐怖です。でも来てくれる客は神様?でしょうからこの相反した恐怖と安堵・喜びがまぜこぜになって静かな夜はふけていくのです。

テーブルに置かれた例のミニスタンド。じっと見つめているとちょうど焚き火を囲んでいる時のように人はしんみりとした気持ちになるもんです。聞かれもしない身の上話などが自然にでたりして、居合わせた皆が一つの気持ちになったりします。そこまで考えてこれは置かれているのでしょうか? とてもしっくりと周りに調和しています。
・・・ジンのグラスの氷が少し溶けてごろりっと位置を変えました。その些細な音がこのロックバーでは聞けるのです。 お店に入った時の大音量の中ではビールの栓を抜く音すら聞こえなかったのに、今は氷の動く音が聞こえるのです。深夜にようこそ・・・と言っているような。気遣いのマスターはそっとそっと少しづつ少しづつ流れるブルースの音量を下げていったのでしょう。
ジンを飲み干すころまたちょっと「落ち」ました。僕はお店で夜を越すのは初体験でした。しかも前日は早朝からの仕事に続き夕方からは相当のアルコールが入っています。時々「落ちる」のは当然としても、ここまでよく頑張れたものだと思います。

もう若くはないのでこんなことはもうしないかもしれないな~と思っていると、もうすぐ始発の時間になるよとマスターが言いました。
外の寒さが想像できました。ひと気も少ない路地を歩き、太い道に出て、地下鉄の階段を下りるのを恐れました。
これが夏ならもう外は明るいのでしょうが、この日の明け方の東京の気温はおそらく0度であったでしょう。暗くて寒いのならこのあたたかなマスターのいるロックバーから一歩たりとも出たくはない、と思うのは僕だけじゃないはずですよね。
でも、現実が待っているのです。帰らなくちゃ・・・。

「マスター、ありがとう。またね!」で入り口(今度は出口)のドアを開け、最初よりもさらに重い足取りで階段を下りたのでした。

「深夜へようこそ」・・・賑やかなロックバーもありがたい存在ですが、グラスの中の氷の音がするロックバーもとても貴重でありがたい存在である事にプラットホームのベンチで一人始発電車を待ちながら気づいたのでした。



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15 コメント

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そんな展開でしたか~ (はりけ~ん)
2005-12-20 01:46:18
いやあ、金曜日のレポがなかなか上がらなかったので「もしやうちのメンバーが粗相でも?」と案じておりました(笑)いや、絶対してると思ってますが。

どうやら中身の濃い夜になったようですね。アルコールの飲めない私ですが、雰囲気とかはすごく良く伝わってきます。その場にいたら一緒に四谷三丁目に行っていたかも…なんて。



改めて日曜の朝の激励メール有難うございました。お陰様で今日は鼻水が止まらず厳しい冬の日を送っております。やっぱり野外はシーズンを選ばないと、ですね。
そちらもお疲れさまでした! (igakun-bass@発行人)
2005-12-20 10:37:55
はりけ~ん君、ありがとう! 戸田はがんばれたんだね。

客席の人が「すごい声量!!!」と言ってたんだってね。もうその感想だけでステージが想像できちゃう。以前共演したステージやカラオケ大会での唄いっぷりが思い出される。忘年会へ来られなかったのは返す返すも残念だったけど、「新年会」は来ようね!



あなたのバンドの代表出席者は終始みんなと楽しく話し、呑み、唄い、気を使い、そりゃあ最高のゲストだったよ。ナイスガイだった。



鼻水が止まらないとの事、薬を「総合」から「鼻炎」系に換えてみたら? 僕はそれで軽快した。

年末はぬくぬくしてようね!

街の朝 (テーラー)
2005-12-20 12:27:19
シェイズの皆様、223さま、末松康生さま、カフェバーのマスターさま、金曜日はありがとうございました。

この場を借りてお礼申し上げます。

あの後、こんなにもまったりした時間を過ごしていたなんて。

呑んだ日の早朝、ひと気のない街っていいですよね。

なんとも寂しいような、悲しいような、空しいような。

でも街はもうすぐ起き出すんですよね。
そちらも翌朝早くに・・・・ (igakun-bass@発行人)
2005-12-20 13:21:46
>テーラー さま



こちらこそパーティ参加ありがとうございました。テーラーさんが張り切ってくれたんで予想をだいぶ超えて盛り上がりました!



あの時とても楽しく気分が良かったので家に終電で帰るという現実から逃げたかったのです。早朝に帰ればただ家で寝なかったというだけの話なので。



テキフラではすばらしくいい時間を過ごせましたが、朝の寒さと外での睡魔は辛かったのですよ。

これを自業自得と言いますが。

うーん (223)
2005-12-21 00:16:41
「いやな奴」といわれなくて良かったーー!

「ブルースは退屈!」という暴言を吐いたときに末松康生さんがむっとしていたのが気にかかりますが・・・

テーラーさんの暴走ぶりできっと記憶から飛んでいることを期待してます。
感謝です。 (てきふら団塊マスター)
2005-12-21 14:31:53
暖かい文章ですね、バンマスのは。

あの日は私も睡眠不足で、一緒に時々「落ちた」のでした。



「相反した恐怖と安堵・喜びがまぜこぜになって静かな夜はふけていく」

まだ妖怪はいらっしゃってません。いらしたら、例の50何度のバーボン奢っちゃいます。63度もあります。



お知り合いの「原宿駅前のカフェバー」はどちらでしょうか?

今夜もあの穏やかな時間がロックバーに。 (igakun-bass@発行人)
2005-12-21 15:10:17
>話の主人公:てきふらマスター さま



コメント、大感謝です!



このブログはその時々に味わった気分を記録に残しておきたいので書いています。

あの夜は、今考えると不思議な時間が流れました。その中でマスターが話してくれたいろいろな事、特に客がいなくなった時(来ない時)のマスターの精神状況の話が特に心に残り、本投稿の中間部(マスターが引用した段落)に最大の力点を置いて書きました。(黄金分割点!)



例の50何度のバーボン(シェイズのボトル)はウチのドラマーが乱入するとすぐ無くなるそうですね。彼がきっと「妖怪」なのだと今気付きました!



パーティのカフェバーは竹下口を左方向道なりに明治通りまで出てその交差点を渡ってすぐ右にある「BELAMI」さんです。その前を少し下ると「ぎっちょん」さんがあります。
Unknown (igakun-bass@発行人)
2005-12-21 17:20:17
>223 さま



ぬぁんと絶対禁句の「ブルースは・・・」を言っちゃったの? 聞いてないよ~ぉ!



そういうお話は僕と二人だけで、ということで。
えっ (223)
2005-12-21 23:01:40
>バンマス

バンマスも賛同してたぢゃないですか?!

お互いに極秘ということで。
なにっ? (末松康生)
2005-12-21 23:36:17
223さん、ブルースは退屈って言った?

よーく覚えていますよ。ぼくも半分はそう思っています。だからムッとしなかったはず。もしもしたのならほかのことにです。

バンマスが賛同?それは知らなかったなあ。

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