幸福宮殿メルヘン切符

一枚の物語切符から幸せ行きの力が生まれる大人のセラピー短編童話
  ~希望号発車~

「情けの小道」

2016-06-30 | 思い入れのある童話


 

うさぎのピョンタと仲間達は、日暮れのせまった野原で帰り
支度をしていました。

山の稜線にかかる雲が、少しずつ赤みを帯びてきています。
「ねえ~、そろそろ帰りましょうよ」
ちょっぴりと涼しい夕暮れの風を大きな耳に受けながら、
ピョンタが声をかけた、その時でした。

野原から続く崖の方から、大きな音が聞こえてきました。
どす~~ん・・・・・・!?。
「なに、今の音?」
「なにかしら?」
一斉に目を向けたうさぎ達は、口々に不安気に声を出しました。
その中でも、好奇心のあるピョンタが、
「ねえ、行ってみようよ・・・なにかしら」と、
言うのと同時に、ウサギ達は駆けていました。

仲間達がその崖に行ってみると、そこには血だらけになった
狼が、息も絶え絶えに横たわっていたのです。
見たものが狼でしたから、さあ、大変、
「何だ、狼か!」と、仲間が背を向けて帰ろうとした、
その時、
「ねえ、たとえ狼でもかわいそうよ、助けてあげようよ」
ピョンタの言葉に、仲間達が驚いた様子で声を震わせます。
「へえ~、私達が助けてあげて、その後で、狼に食べてもら
うわけね」
「そうだよ、帰ろうよ。急がないと!」

しかし、理屈では分っていても、ピョンタはそのまま帰る気に
なれませんでした。
それはピョンタの心、そのものから湧いてきた、生きるものの
自然な感情だったのです。
「大丈夫よ、いくら狼でも、この体では動けないわよ」

そして仲間達はピョンタの心に動かされて、オオカミの傷の
手当てを。そこは植物を食べているうさぎ達のこと、
薬になる葉っぱを集めてくると、狼の傷にあてがってやりま
した。

「これでよし、もう大丈夫ね。狼さん、もう大丈夫よ。
 私達、帰るからね」

「ピョンタ、行くよ~。はやくう~~」

息も絶え絶えの狼は、自分の子供に注ぐような、
いとおしい目でピョンタを見つめました。
先に行く仲間達からの声に引っ張られるようにして、ピョンタ
はその場を去っていきました。

(狼さんの目がいつもと違っていたわ。何か、とてもやさしそ
うだった・・・)
ピョンタは生まれて初めての感情に、動かされていました。
仲間達はいい事をしてあげた事の気持ちより、食べられてはい
けない思いで、急ぎ足で帰っていきました。
ただ、ピョンタだけはとてもすがすがしい気持ちだったのです。

その出来事があってから、数日後の事です。
すっかり元気になったあの狼が、丘の上に向かっていくと、
狼の仲間が崖の下を見ながら、なにやら眼をぎらつかせて
います。

丘のその場に行ってみると、なんと、その狼の目の先には、
あのうさぎ達がたわむれていたのです。
「ああ、親分・・・あの~・・・」
そこまで言いかけた時、親分と言われた狼は威厳のある言葉
を向けた。
「いいかみんな、これから俺達はうさぎは口にしないからな!!」
ええ~?と言うような驚いた顔で見る狼たちに、

「俺が助けてもらったのは、あのうさぎ達なんだ。こうして
この俺が生きているからこそ、お前達も、俺のお陰で狼らし
く生きてられるんだからな」

その言葉を聞いた狼の仲間達は、獣の目を消すと、丘の上から
去っていきました。
「さて、わしは彼らのところに行ってくるとするか」
何を思ったか、狼は、かっての危険な崖を避けると、ゆっくり
と回り道して降りていきました。

「おお~い、みんな元気かのう~。わしだで~」
一瞬、驚いたうさぎ達も、声の主があの時の狼と知ると、
身構えながらも、待ちました。

ピョンタはきりっと嬉しそうに耳を立てると、
「狼さん、もういいの・・?」
ピョンタの言葉に、狼は得意の廻り芸でおどけて見せました。
「ははは・・・この通りじゃよ」
ピョンタ達に目を合わせるように、ごろんと横になると、

「いや、なに今日はな、君たちにお礼をしたくてのう」
それは、うさぎ達を最も安全な、子孫を守っていける人間の
里に連れて行きたいと言うことでした。。
そのとおりに、昨日も確かに又、仲間を失った事は、
ウサギの世界の事実だったのです。

「本当に生きやすい、いいところがあるのならいいわね」
ピョンタの言葉に、仲間達はすぐ了解を示しました。

「よし、じゃあ、わしの後についてきな」
ピョンタを先頭にして、うさぎの仲間達は狼の後に従いました。

あの恐怖感はもう今は無く、自分を任せられるような親近感と
安心感を得ているうさぎたちだったのです。
なにかこの狼が、偉大なうさぎ達の神のようにも思えてきた
のは、ピョンタだけではありませんでした
この狼からは、そのようなオーラが感じられる神々しい姿で
あったのです。

そして、数時間もすると、狼のいう人間の里に出ました。
「ここじゃ、ここじゃ、見てみい、君たちにピッタリの住ま
いじゃよ」
はじめて見る景色に驚きながら、しかし、どこか懐かしさを
感じるのは、ピョンタだけではなかったのでした。

「なにか感じるわね、温かなものが・・・」
「長居はわしが危ないからのう、わしはもういくで。なあに、
人間は銃を持つと怖いが、クワを持つとそれはそれはやさし
くて、温かい動物なんじゃよ。可愛がって貰うんだぞ」

狼は言い終わると、名残惜しそうにピョンタに目を注ぎました。
そこには、あの時に助けてもらった恩返しが出来た喜びに溢
れていた、狼の姿がありました。

「もう行ってしまうの、気おつけて帰ってね」
狼が茂みに見えなくなると、ピョンタと仲間達は新しい人生
の待つ里に、勇気と希望を抱いて歩き出しました。
「クワを持っている人がいるといいね」
「うん、きっといるよ、いるいる」

夕日の一光線が消え、森に夜のとばりが迫ってきています。
「うう~ん、ちょっと無理をしすぎたかな。これはいかん」
狼は怪我をした脚を引きずりながら、大きな息を吐きながら
森のオオカミ谷へと向かっています。
その狼の姿を、大木の枝の隙間から一匹の豹が狙っていたの
です。
そうとう腹を減らしているらしく、今にも狼に飛び掛らん
ばかりに、様子をうかがっています。

そうとも知らずに、
(もう人間の里に着いた頃かな?人間に可愛がられて幸せに
なってくれたらいいが・・・)願う狼でした。
狼は思いました。あのピョンタがわしを助けてくれた。
そして、わしがそのピョンタを人間の里に送り出した。
そこには、ピョンタがうさぎの世界を変えるという使命が
あったのかもしれない・・・・と。

「おや、ピョンタの声が・・・?」
狼は、人間の里から風に乗って届いた声を耳に入れました。
「狼さ~ん、元気でね~、ピョンタうんと幸せになるからね~」
「よかった、良かった、さて、わしも仲間の待つ谷へ急ごう
とするか」

ヨロヨロしながら歩く狼の首に、樹上の豹の鋭い眼光が、
狙いを定めました!!。
『あ、危ない!!』
「親分~!今、俺達が向かっているからよ~」
狼は仲間達の来る声を信じると、シャキッと体制を立て直し、
痛みをこらえながら、スピードをあげました。 

                      おわり



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