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数字 と 痛み

2011-04-24 | 非・悲・否・避「常識」
原発関連の話で、興味深い事象をみています。

当たり前な話ですが、その人の専門分野によって関心の重点と反応が異なることです。

数字そのものの精度や意味に論点をおく人と、それ以外に大きくわけるとします。

医療関係者の多くは後者です。仕事の性質上それは不思議ではありません。

それは、日々の診療でも、1回の検査の数値だけで物事を判断しているわけではないからであり、それが専門家としてそう心配する数字ではなくても当事者である患者さんや家族の受けとめは多様で、そこでいろいろな解釈や説明の努力を要することを経験しているからではないかとおもいます。
不確実性、不条理もそこにはたくさんあります。誰かの正解は別の人の正解にはならないこともしばしばです。

診療のある限定されたシーンにおいても、いくつかの数値とそれ以外の情報(状況)と、今後の選択肢とあわせて総合的に診ている、ということもあります。
ある限定された項目の数値そのものへの考察も、臨床でみる数値は数値そのものに影響を与えるその人の因子とあわせて考えることになっています。(例えば、ヘモグロビンの値が正常でも、脱水の状況下ではその数値はそのまま正常とは考えられない、等)

後の世の検証で「それは嘘だった」とひっくりかえる経験もしばしばあります。
(前提となる基準や事実が変わったのだとしても)「なぜあのとき●●しなかった(してくれなかった)んだ」という糾弾もあります。



「週刊東洋経済」の最新号56-59ページに外科医から松本市長になった菅谷医師のインタビューが掲載されています。
菅谷先生先生は、チェルノブイリ被災地で医療支援をされました。

先生は2011年3月下旬に開かれた内閣府の食品安全委員会に参考人として出席したそうです。そこでの話。

「私は放射線の専門家ではないが、ベラルーシでの経験から今回の暫定基準値をどう思うか聞きたいといわれて出席した。

机の上で考える研究者というのは、どうしても現実味がないから甘い。農業生産者の立場を考えて、基準を「緩やかに」という人も委員にいて、彼らの考えもわかる。だが、私は「子どもや妊産婦の命を守るためにも、基準は厳しいほうに置いたほうがいい」と言った。チェルノブイリでは、小児の甲状腺がん患者が急増したのは事故から5年後だ。

委員の中には「甲状腺がんはたちがいいがんだから大したことはない」という人もいたので、思わず「ちょっと待ってください」と。5歳、10歳で手術を受けた子どもたちを考えてみてほしい。家族も「なぜ汚染された野菜を食べさせてしまったのか」と後悔がつきまとう。そんな現実を委員たちは知らない。

私がいなかったら「甲状腺がんはたいしたことではない」で通ってしまったのではないか。放射線の専門家は個々の被害者のケースを考えない。みんな統計で集団として扱ってしまう。国民一人ひとりのレベルで考えてもらわないと困る」

“たちがいいがんはたいしたことがない”という会話そのものにびっくりしました。
(議事録が出たら確認をしたいと思います)

もちろん統計や集団も大事なのですし、政治的判断に迫られていたしかたなくというような状況というのも、どこかの時点であるのかもしれません。
しかし、前提や仕組みを作る段階で、どの程度ケアしようとしているのかということは重要なのではないかと思います。


その意味で、数字については数値そのもの以前に、共有されていないこと、コミュニケーション不全にみえるような状況が不安の要素になっていきます。

4月22日には議員対象の勉強会でも東電1次データは政府サイドに届いていないことがわかりましたが、同じ日の衆議院議院経済産業委員会でも政府「東電データ未入手」ということが判明。

「これまでも原子力安全委員会が東電からSPEEDI(緊急時迅速放射能影響予測ネットワークシステム)用のデータを得ていないことはわかっていましたが、班目春樹委員長は吉井氏の質問に「3月21日と27日に項目まで示して、原子力安全・保安院に求めたが、まだデータはいただいていない」と答えました。
 排気筒や排水口などのデータも集中している保安院の緊急時対策支援システム(ERSS)のデータも「とれてない」と発言。「事故状態判断支援システム」や「予測解析システム」のデータについても、それらを運用するオフサイトセンター自体が事故後、福島県庁に移転したため、「現在運用されていない」と述べ、基礎的データをまったくつかんでいないことを明らかにしました。
 吉井氏は、「深刻な問題だ」と強調。安全委員会にデータを提供する保安院の寺坂信昭院長もいまだに「東電に求めている」と述べるにとどまりました。」
しんぶん赤旗 4月23日

素人的には「その数字を出すには1ヶ月くらいかかるのかな」と想像もしますが(実際、臨床でも外部団体に出さないとできない検査などでは時間がかかります)、、この質問をした議員さんは、国会議員のなかでも詳しい方だということです。

26日月曜日からは、記者会見が統合されるので、データの刷り合わせなどはすすむかもしれませんね。

小出先生 「基本情報の公開なき楽観論には注意が必要」


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