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「コルシカ島への旅」 (8)船旅の醍醐味は食にあり

2017-04-02 09:42:04 | 旅行記
地中海気候が夜のモードに変わり、厚手のヨットパーカーが欲しくなるころヨットは今夜停泊する湾にもぐり込み、アンカーを降ろす。 早朝から嶮しいコルシカの山道を南に向かってひた走り、船に移り換えてここまで約20時間、ロンゲストディーがやっと終わった。 シャワーを浴びて三々五々ダイニングに集まり、食前酒の長いグラスで乾杯しすっかり暗くなった海を見渡すと、それぞれのヨットのマストやキャビンに灯が点り、夕餉のひと時が始まったようだ。 意を決したようにきりっと引き締まった夜気が船を包む。

クルーが用意してくれた地元料理の前菜に始まったディナーだが、早くも母国の味覚に郷愁を感じ始めてきている。 かくして今夜のメニューで期待が高まるのは、メンバーの一人であるNちゃんが作ってくれる「特製ラーメン」。 彼女は猪苗代湖のセーリングででも、狭い厨房から毎回魔法のごとく素晴らしいランチを生み出してくれる、カウンター割烹のオーナーシェフ。 冬になると自らが猟銃を担いで射止めてきた鴨鍋と、彼女がお目当ての男性常連客がカウンターを占領し、視線が一人に集中する光景はいささか気になる。

「若いうちは何を食べても苦にならないが、年を重ねるごとに互いが自国のものを欲するようになる」と言ったのは英国人を妻にした僕の友人だが、今回のメンバーも和食がないと欲求不満に陥る年齢に達している。 にもかかわらず団長格のO(オー)氏が、シェフ不在でパンと冷凍食の一週間にも及ぶ船旅を決断したのは、Nちゃんの参加を内々に得ていたからではないかと僕は思っている。 言い換えれば、彼女が欠ければコルシカの旅は実現しなかった可能性が高かったのだ。

出発日が近づき、参加各人に日本から持ち込む食材の割り振りが決まった。 僕が持参するのは、かなり多めのソーメンと麺つゆ(これの利用範囲は実に広かった)、それに柿種ピーナツや裂きイカ・貝柱などの乾物と瓶詰めの辛子味噌など。 ところで乗船するなりNちゃんが真っ先に向かったのはキッチンで、大容量のオーブンと電子レンジを見るなり発した一声は「これがあればどんな料理でも作れる!」。 しかし欧米サイズのキッチンは小柄な彼女には高すぎる。

そこで即席の踏み台を作ってくれたのが、ヨットのナビゲーターやメンテナンスを本職とする仙台在住のオノちゃんで、彼は航海中もシェフのアシスタントを務めてくれた。 食前酒からメインのコルシカワインに代わるころ、注目の特製ラーメンが登場したが、スープを除いて材料はすべて現地調達したもの。 固い長ネギは油で軽く炒めるなど、ひと手間かけたその逸品は期待を裏切るはずもなく、ドライバーのウイリー君や二人のクルーを含めて全員を感動の渦に巻き込んだ。 まさに旨いものに国境なし。









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