しばのずしょりょう

読んだ本などの感想をひたすら書く所。

千年の祈り

2008-01-17 18:19:40 | その他
千年の祈り (Shinchosha CREST BOOKS)千年の祈り (Shinchosha CREST BOOKS)
イーユン・リー 篠森 ゆりこ

新潮社 2007-07
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イーユン・リー作「千年の祈り」を読む。

10の短編集。

誰とも結婚せず、仕事も失くした林ばあさんに持ち込まれた縁談話。
しかし、解消されることのない孤独の道を描いた「あまりもの」

重度の障害を持つ娘と共に暮らす蘇夫妻と友人の方夫妻。
2つの夫妻の関わりから生じる思いとは・・・の「黄昏」

代々宦官を輩出してきた町から、死んだ毛沢東そっくりの男が現れ、
一時的に祭り上げられるが・・・の「不滅」

陽を愛したゲイの伯深と、陽の子を身ごもった薩沙が子どもを堕胎すべく
シカゴへやってきたが・・・の「ネブラスカの姫君」

三三は、親友の旻をアメリカに留学させるため、恋人の土と偽装結婚させるが、
2人が中国へ帰ってくることはなかった。10年後、土が離婚したという話を
聞いた三三は・・・の「市場の約束」

アメリカに帰化したハンは、中国へ里帰りしたが、母と会うことが気重であった。
キリスト教に傾倒している母についての複雑な心境を描いた「息子」

父が長期不在している時に、若蘭と彼女の母親を訪ねてくる炳おじさん。
両親の離婚話が持ち上がり、母親に嫌気がさした若蘭は、炳おじさんを
訪ねるが・・・の「縁組」

核兵器開発の研究所で働く父親の元を離れ、夏と冬の一週間だけ厖夫妻の元で
過ごす主人公。厖夫妻や近所の人々との交流を描く「死を正しく語るには」

ある村で干ばつが起こった。木陰ですることがなく休む村人達は、老大という
男の話を語り始める。それは、息子を殺され、復讐の為、17人殺害し、死刑と
なった男の話だった・・・の「柿たち」

離婚した娘を心配して、渡米した石氏だが、娘との心はすれ違ったままだった。
時折公園で出会うイラン人女性と心を通わす石氏は・・・の「千年の祈り」


海外で数々の賞を受賞してきた作品と聞いて、興味が湧いた。
中国の作家の本を読むのは初めてだったけど、自分が今まで読んできた本とは
毛色が違うなぁと感じた。社会主義を掲げる国家で起こる矛盾と鬱屈が、
新しく感じる部分なのかもしれない。こんなにも自由がない社会なのかと
しみじみ思う。隣の国のことなのに、すごく遠い気がする。

登場する人達は、みんなどこか孤独であり、心の解放を望んでいるけど、
挫折したり、失敗してしまったり、上手くいかない。
だけど、救いがない話になっていないところが素晴らしい。
上手くいかなくても、確実に自分の中では変化していることがあって、
再生されている気がする。だから、読後に嫌悪感がない。

「不滅」「ネブラスカの姫君」「市場の約束」あたりが心に残った話だった。