ナースのたまごたちへ

臨床看護師から転職:看護大学の教員一年目のつれづれ

看護診断

2009-12-14 20:23:16 | 日記
きょうはちょっと長い、マジメなことを記そうと思います。

現在、看護過程についての授業企画について話し合いをもっています。
看護診断という言葉があるのですが、これが教員間でまったく認識が違うことにとても驚いています。その関係でいろいろな看護診断に関して書かれている日本の文献をよみあさりました。
そしたら、あるある、ロイやヘンダーソン、オレムの看護理論を使った看護診断のテキストがやまほど。決してNANDAの看護診断分類のことだけではないのですね。

もう20年くらい前になるでしょうか。初めてこの言葉を聞いたのは。アメリカで看護独自の問題の表現方法について標準化がなされ、nursing diagnosisという言葉で紹介されたのは鮮烈でした。しかし、「診断」という表現にしたことにより、その導き方に科学的根拠というしばりが発生し、ウィキペディアでも「象牙の塔」と揶揄されています。
http://en.wikipedia.org/wiki/Nursing_diagnosis

以下は私の考え。

看護診断の本来の目的は、看護ケアの焦点や問題点を_共通の用語をもちいるこ
と_でより看護が_科学的で根拠に基づいたもの_になること、もうひとつの目的
は、医療を受ける患者には医師がする診断とは_独立して_看護の診断が必要であ
る、という主旨が大きかったようです。

NANDAのやり方によれば、診断のプロセスとして、

1. *Collect data* - statistical data relevant to achieving a diagnosis.
2. *Cues/patterns* - changes in physical status. (for example: lower
urinary output)
3. *Hypothesis* - possible alternatives that could have caused
previous cues/patterns.
4. *Validation* - taking necessary steps to rule out other
hypothesis, to single out one problem.
5. *Diagnosis* - making a decision on the problem based on validation.
6. *Strategies* - taking necessary action to solve the problem and/or
to provide adequate nursing care.^[2]
<http://en.wikipedia.org/wiki/Nursing_diagnosis#cite_note-1>

としてあげられ、とくに大変なのが4番の他の診断仮説を除去するという作業です。
これが象牙の塔といわれるゆえんでしょうか。でも医学における診断にはこのプロセスは欠かせませんし、ルール遵守せずにミスジャッジをした場合は「誤診」として責任追及されます。そのくらい診断とは重い意味を持ちます。

日本に看護診断が輸入されたときに、看護診断はNANDAの看護診断分類だけをいうのではない、とされ、日本独特の看護診断方式、みたいなものがでてきたらしいのです。
日本では、アメリカで生まれたものを日本文化、社会システムに合わせてモディファイし、本家よりも高品質なものを作り上げるというスゴイことができるというすばらしい特性があります。それは認めるのですが、科学と銘打ってそれをやるのは、ちょっとルール違反ではないか、という気がします。なぜなら科学とはグローバルスタンダードの最たるものだからです。
したがって、診断名を明らかにするためには診断のルールにのっとっていることが大前提でないといけないので、ただPES (○○ に関連する○○)という様式だけ守っていれば診断というわけにはいかないでしょう。じゃあ、その診断プロセスが科学的に整備されて実践可能になっているかといえばたいへん疑わしい。また、ラベリングをしないならば、NANDAが分類化している用語を使えない理由を科学的に明確にした上で診断名をつけなくてはいけなくなるでしょう。

看護診断そのものを否定するつもりはありません。学生にはきちんと教えるためにそのプロセスを丁寧におさえるべき、ということには大賛成です。しかし、ここで「看護診断」という言葉を用いて教えることに抵抗を感じるのです。臨床では看護診断といえば、NANDAであり、カルペニートの標準看護計画ですから「学生時代看護診断で勉強してきました」というと「ああ、ラベリングをしてきたのね」と思われるのが一般的ではないでしょうか? 
たしかに多くの医療施設で電子カルテを使っておりますので根拠のあるアセスメ
ントをした上でのラベリング能力を持つことは必要になってくるスキルでしょ
う。しかし、もしも看護学の教育方針がラベリングではないならば、「看護診断」というのはやめたほうがいいんじゃないか、と思うのです。



厚生労働省での検討会で看護独自の機能について説明するときに看護診断とNANDAは連結して考えられています。これが一般的な看護診断に関する共通理解だと思います。

http://www.mhlw.go.jp/shingi/2002/06/s0624-2c.html

平成14年新たな看護の在り方に関する検討会

それにしても、看護を教える人間にこれだけブレがあると学生も混乱するでしょうねえ。しみじみ。