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弁護士。中央大学法学部兼任講師。1968年生まれ。著作権等の知的財産権、IT関係はとりわけ強い。これまで、中古ゲーム差止訴訟、「mp3.co.jp」ドメイン名訴訟、対WinMXユーザー発信者情報開示請求訴訟などで勝利を収め、ファイルローグ事件では、高裁での逆転勝利をねらう。主な著書として『著作権法コンメンタール』(編著:東京布井出版)、『インターネットの法務と税務』(共著:新日本法規)などがある。
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小倉秀夫の「IT法のTop Front」
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 かつて孔子は、「君子は言を以て人を挙げず、人を以て言を廃せず」と言ったらしいです(『論語』衛霊公第十五)。しかし、それは、情報の信頼性を判断するのに、その出所の如何を斟酌すべきではないという意味ではありません。
 
 実際には、その情報を正しく認識する能力及び立場を有する者に端を発する情報か否か、その者には正しい情報を提供する動機があり、かつ、誤った情報を提供する動機がないか否か、その者の認識が変容せずに正しく伝達されているかということが、当該情報の信頼性を判断する上で重要です。したがって、欧米では、マスコミと雖も、情報源を秘匿しないのが原則です。
 
 もちろん欧米のマスメディアだって、権力による不正を暴く等のために、情報源を秘匿することを約束して情報提供を受ける必要がある場合もあります。ただし、ASNE(米国新聞編集者協会)の「Statement of Principles」の第6条に、
ARTICLE VI - Fair Play. Journalists should respect the rights of people involved in the news, observe the common standards of decency and stand accountable to the public for the fairness and accuracy of their news reports. Persons publicly accused should be given the earliest opportunity to respond. Pledges of confidentiality to news sources must be honored at all costs, and therefore should not be given lightly. Unless there is clear and pressing need to maintain confidences, sources of information should be identified.
とあるように、「情報源を秘匿するという約束は全てのコストを支払っても守られるべきだが、それ故、そのような約束は軽々しくすべきではない。匿名を維持する明白かつ差し迫った必要がない限り、情報源は明らかにされるべきである」というのが少なくとも米国の報道機関の基本スタンスであるようです。
 
 それは、一方では、「読者との信頼」を守るために必要とあれば、情報源との約束を破り、巨額の賠償金を支払わせるリスクを負ってでも、情報源を公開するという行動に繋がります。
 それが端的に表れたのが、俗に言うコーエン事件です。これは、ミネソタ州知事選の投票日直前に、共和党候補の運動員だったPRの専門家、ダン・コーエン氏が、地元の四人の記者に、情報源が自分であることを秘匿するという条件で、「民主党の副知事候補(女性)は、十二年前、シアーズ店で六ドル(七百円)相当の万引きをして有罪になっている」という情報を提供したが、スター・トリビューン紙とパイオニア・プレス・デイスパッチ紙は、記事にコーエン氏の名前を載せ、悪質な選挙戦術として、紙面でコーエン氏を激しく批判したという事件で、コーエン氏が両紙を相手取って損害賠償請求を提起したというものです。この事件は、州地裁で20万ドルの損害賠償と50万ドルの懲罰的損害賠償が認められ、州控訴審では懲罰的損害賠償が否定され、州最高裁では通常の損害賠償も否定されたが、連邦最高裁で州最高裁の判断が破棄差し戻しになるという複雑な経緯を辿りました。
 前澤猛氏の「「情報源の明示」を考える ― コーエン事件と鬼頭事件から」によると、「アメリカのマスコミの多くは、基本的には両紙編集責任者の姿勢を支持している。それは「取材源の秘匿に固執するより、公開に努力する方が、記事の真実性は保証され、新聞は読者の信頼を勝ち取れる」とみるからだ。そして、マスコミ、とマスコミ法学者は、この裁判が、連邦憲法修正1条と新聞の現実面に触れず、事件の争点が「契約破棄」という私法上の問題に限定されたことを強く批判している。」とのことです。

 他方、権力の腐敗を暴くような情報が提供されたような場合には、取材源の身を守る必要性が高くなります。この場合、米国のマスコミは、取材源に関する法廷での証言を拒絶し、法廷侮辱罪で収監されても、取材源を秘匿します(裁判所は、マスコミに対して、取材源に関する証言拒絶権を与えているわけではありません。)。実際、米中央情報局(CIA)工作員名漏えい疑惑では、米タイム誌の記者や米ニューヨーク・タイムズ紙の記者が、法廷侮辱罪で収監を命じられています。
 
 情報提供者との間で「取材源を秘匿する」という約束をすることはこれほど重大なことなので、前澤・前掲によれば、米国の報道機関では、そのような約束を行う権限を現場の記者に与えない等の内部規則を作っているようです。
 
 これに対して、日本のマスメディアはどうでしょうか。
 
 浅野健一氏の「「取材源にかかわる」と証言拒否を連発 健康食品会社損害賠償訴訟でNHKデスク」を見てみましょう。ここでは、「取材源の秘匿」は、(誤った内容を含む)捜査情報を非公式にリークした警察職員を庇うために「取材源の秘匿」を活用(というか濫用)されています(なお、このような「取材源の秘匿」の濫用は、NHKに限りません。)。
 
 1996年5月ころ、警察は、ある医師の告発を信じて、札幌の食品会社「玄米酵素」の事務所等を、薬事法違反の疑いで家宅捜索しましたが、結局、薬事法違反の事実は発見されませんでした(その後、嫌疑不十分で不起訴となりました。)。これが事件の発端です。なお、警察は、この家宅捜索について、正式な記者会見は行いませんでした。ところが、NHKは定時ニュースにて、「劇薬に指定されている甲状腺ホルモン剤の入った健康食品を製造・販売していた札幌の食品会社『玄米酵素』の事務所や工場を警察などが薬事法違反の疑いで家宅捜索しました」と報じてしまいました。そこで、「玄米酵素」が警察を相手取って国賠訴訟を、NHKを相手取って損害賠償請求訴訟を提起しました。
 
 警察は、家宅捜索の件をNHKにリークしたことを否定していましたが、捜索差押え令状に関する審理は公開の法廷では行いませんし、たまたま警察が「玄米酵素」に家宅捜索に入った場面を目撃したところで詳しい容疑までは分かりませんから、警察関係者がリークしたことは明らかです。ですから、この事件では「取材源の秘匿」といっても警察関係者のうちの誰がリークしたのかということを秘匿しているにすぎません(警察は、そもそも警察関係者がリークしたと言うこと自体否定していたようですが。)。そして、所轄の警察署の意思として家宅捜索の事実をNHKにリークしていた場合、取材源を明らかにしたとしてもリークした個人が処分される理由はありませんし(警察が国家賠償等の対象となることはあるかもしれませんが。)、所轄の警察署の意思とは離れて個人的に家宅捜索の事実をNHKにリークした場合は、そのリークをした人は、国家公務員法上の守秘義務違反として処分されることはあるかもしれませんが、かばい立てする理由はありません。薬事法違反を行っているという告発を受けて警察が「玄米酵素」の工場等を家宅捜索を行った段階では、薬事法違反の嫌疑が明白であるとは未だ言えないのであり、警察がこの段階での正式な記者会見を控えると言うことは、「玄米酵素」の名誉や信用を徒に傷つけないように配慮するという観点から正しいと言えるのであり、組織としてのそのような正当な判断を個人の独断で勝手に打ち破るというのは処分に値するし、他方、「劇薬に指定されている甲状腺ホルモン剤の入った健康食品を製造・販売していた札幌の食品会社『玄米酵素』の事務所や工場を警察などが薬事法違反の疑いで家宅捜索した」という事実には「玄米酵素」が劇薬に指定されている甲状腺ホルモン剤の入った健康食品を製造・販売していたという事実とは全く別個の独立した報道価値などないからです。
 
 したがって、ASNEの「Statement of Principles」に示された基準に則るならば、「玄米酵素」事件の場合、そもそも「取材源の秘匿の約束」をすべきではない場合にあたるというべきです。しかし、日本のマスコミは、そのような場合にも、暗黙の了解で、取材源を秘匿する旨の約束をしてしまっているようです(あるいは、特段の約束がなくとも、取材源を秘匿するのが原則だと思っているのかもしれません。)。
 
 日米の報道機関の「取材源の秘匿」に関する態度のこの顕著な差は、「真相を探求して報道する」ということに関する意欲の差に端を発しているのかもしれません。なにせよ、日本の報道機関には、その報道によって読者又は視聴者が印象づけられる事実が真実か否かを探求する気が全くありません。
 例えば、「劇薬に指定されている甲状腺ホルモン剤の入った健康食品を製造・販売していた札幌の食品会社『玄米酵素』の事務所や工場を警察などが薬事法違反の疑いで家宅捜索しました」という報道がなされれば、それを試聴した者は、玄米酵素が「劇薬に指定されている甲状腺ホルモン剤の入った健康食品を製造・販売していた」のだろうと認識することは明らかです。したがって、この件について報道するのであれば、玄米酵素が「劇薬に指定されている甲状腺ホルモン剤の入った健康食品を製造・販売していた」ということについて裏付け取材を行い、それが真実であると信じるに足りる資料を収集してからとすべきでしょう。しかし、日本のマスコミは、「劇薬に指定されている甲状腺ホルモン剤の入った健康食品を製造・販売していた札幌の食品会社『玄米酵素』の事務所や工場を警察などが薬事法違反の疑いで家宅捜索した」という事実がありさえすれば、玄米酵素は「劇薬に指定されている甲状腺ホルモン剤の入った健康食品」を実際には製造・販売していなくとも、「劇薬に指定されている甲状腺ホルモン剤の入った健康食品を製造・販売していた札幌の食品会社『玄米酵素』の事務所や工場を警察などが薬事法違反の疑いで家宅捜索しました」という報道を行い、読者・視聴者に玄米酵素が「劇薬に指定されている甲状腺ホルモン剤の入った健康食品を製造・販売していた」という印象を植え付けても無問題と考えているようです。
 
 自らの報道によって、読者・視聴者が誤った事実認識をしてしまいその結果正しい判断をすることが阻害されることになろうとも、あるいは報道の対象となった人・企業が不当に名誉または信用を毀損されて致命的な損害を被ることになろうとも、そんなことはどうでもよいというのが、我が国の多くの報道機関の基本的な発想です。
 
 このような考え方でいるものですから、日本の報道機関は、報道内容の真実性を根拠づける「取材源」をできる限り明示しようという考えに至らないのでしょう。そして、2ちゃんねるのような匿名掲示板や匿名blogの隆盛を見るにつけ、そのとき面白おかしければ、情報の正確性などどうでもよいというのは、日本社会に根付いた文化なのだろうかということで、新年早々暗澹たる気持ちになってしまいます。
Comment (4) | Trackback (3)


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コメント
 
 
 
Unknown (Unknown)
2005-01-03 18:13:33
前に見た時のプリペイド携帯と同じ状態では

ないでしょうか?

多くの人はインターネットを悪意の

あるものにしたいわけでもないので

問題の発言はしないでしょう。

2次的な情報は確証が無くても発信して

しまうのはしょうがないと思います。

そうした今までに無いメディアだけに

既存の法やシステムでは対応できないと

思います。



そして匿名で気軽がいいのか?

実名必須で、安全が良いのか?は

その実情の中で、変わっていくと思います。



米で実名が多いけど、それは必須ではないと

思われますので、インターネットと言えば

実名が必須というのを日本だけ、やるのは

どうかと思われますが・・・
 
 
 
実名/匿名というよりも (DreamMaster)
2005-01-06 11:17:16
勉強になりました。



ただ、「2ちゃんねるのような匿名掲示板や匿名blogの隆盛を見るにつけ、そのとき面白おかしければ、情報の正確性などどうでもよいというのは、日本社会に根付いた文化なのだろうか」というより、「お上の言うことだから正しいのだ」という態度で、論拠を明示する労力を回避する文化が問題なのではないかと考えました。

 小倉先生の方がよく御存知かとも思いますが、たとえば、情報公開法で行政の判断根拠を要求してもなかなか出さないとか、公文書館が貧弱で歴史的な検証が難しいとかいう問題にもつながる話かと思いました。
 
 
 
アメリカと日本の違い (MM)
2005-01-06 13:31:04
日本がアメリカより匿名性を利用するのは、やはり個人を特定された場合、日本であると非常に生活しにくくなるからなんでしょう。企業や圧力団体に訴えられたりした場合、日本人は裁判に慣れていないし、対応してくれる弁護士を探すのも大変でしょう。企業などに働いている場合、そのような騒ぎを起こしたというだけで、マイナス要因になる。



例の島田伸助氏の事件にしても、普通の日本人の感覚だと、自分の会社の先輩タレントであるから、殴られたとしても泣き寝入りするしかないと思うのではないか。

 
 
 
国家公務員法? (kazz)
2005-01-12 12:16:30
警察官は地方公務員だから国家公務員法は適用されないと思うんですが・・。
 
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