語られる言葉の河へ

2010年1月29日開設
大岡昇平、佐藤優、読書

【佐藤優】EU ~米露中「大国の掟」(4)~

2016年12月20日 | ●佐藤優
 (1)同じユーラシア大陸でも、中東からの難民流入やイギリスの離脱など、EUはロシアとはまったく異なる問題を抱えている。一部には「EU解体論」を唱える論者もいるようだが、それはないと思う。むしろ、栄はますます盟主ドイツの影響力が高まって「拡大ドイツ」になって発展するだろう。

 (2)近代ヨーロッパ史は、拡大するドイツとの戦いの歴史だった。19世紀に成立したドイツは、オーストリアやフランスと戦争を起こし、第一次世界大戦も第二次世界大戦も発端はドイツの領土的野心から始まった。
 EUの本質的な目的は、ドイツを取り込み、「再びヨーロッパで戦争を起こさせないようにする」ことなのだ。
 ところがEUは、武器を大砲に換えたドイツによって乗っ取られ、現在は事実上「ドイツ第四帝国」の様相を呈している。ドイツは自国の製品を無関税で東欧や南欧に売ることで莫大な富を手に入れてきた。その一人勝ちの構図が他のEU諸国から大きな反発を生んでいるが、強いユーロはとりもなおさずドイツのおかげだから、まだまだドイツの天下は続く。

 (3)EU内での力は圧倒的なドイツだが、ロシアとの衝突は避けようとしている。歴史的に東への進出を志向してきた国家ではあるものの、二度の世界大戦で甚大な被害を被り、その教訓が今も生きているのだ。
 ロシアがクリミア半島を併合した際、国際的な経済制裁がロシアに対して行われた。しかし、ドイツは早く制裁を止めたがっていた。2022年までに脱原発をめざすドイツは、エネルギー面でもロシアに依存しており、その意味でもロシアとの対立は一刻も早く幕を引きたいのだ。

 (4)ドイツの政策には、東独出身のメルケル首相のパーソナリティが大きく影響している。共産圏の東ドイツで大陸国家的な地政学を身につけている彼女は、プーチンの「ユーラシア主義」とは棲み分けるのが賢いやり方だと悟っているのだろう。

□佐藤優「米露中「大国の掟」を見極めよ」(「文藝春秋」2017年1月号)
     ↓クリック、プリーズ。↓
にほんブログ村 本ブログ 書評・レビューへ  人気ブログランキングへ  blogram投票ボタン

 【参考】
【佐藤優】ロシア ~米露中「大国の掟」(3)~
【佐藤優】米国 ~米露中「大国の掟」(2)~
【佐藤優】歴史と地理 ~米露中「大国の掟」(1)~


コメント    この記事についてブログを書く
  • Twitterでシェアする
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする
« 【佐藤優】ロシア ~米露中... | トップ | 【佐藤優】中国 ~米露中「... »
最新の画像もっと見る

コメントを投稿

ブログ作成者から承認されるまでコメントは反映されません。

●佐藤優」カテゴリの最新記事