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2010年1月29日開設
読書
大岡昇平+社会問題・社会保障

【佐藤優】近代プロテスタンティズムの、神の場の転換 ~『牙を研げ』~

2017年05月19日 | ●佐藤優
 (1)我々にとって重要なのは、18世紀以降、つまり啓蒙主義以降の近代プロテスタンティズムだ。
 ここに起きているのは、神の場所の転換だ。コペルニクス、ガリレオ以降、地球が世界の中心である、という考え、ましてや地球が平面で上と下である、という旧来的な世界観は維持できなくなった。
 日本から見て上は、ブラジルから見て下だ。日本から見て下は、ブラジルから見て上だから、上にいる神というのは意味がない。
 そのために、神の転換が起きる。

 (2)この問題に取り組んだ神学者がシュライエルマッハーだ。
 これまで古代中世の形而上学と結びついて、「上」あると表象されてきた神が、心の中にいる、という転換をシュライエルマッハーはおこなう。こうして、宇宙像と神の場を転換することに成功した。そこから神的なものの価値の、人間的な価値への転換が容易になった。
 〈例〉人権思想も、この文脈で語ることができる。
 どういうことか。自然法は中世、古代においてもある。ところが、自然は、不正で不平等で病気が蔓延している。なぜかというと。地上と天上の関係はネガとポジのようなものだからだ。原罪がある世界においては、すべてが逆になる。この世界がすべて悪くなっている、ということは、天上がすばらしいところ、ということの反映だ。
 ところが、コペルニクス以降、天と地という秩序はないから、天が地に降りてきて、天の秩序を地上で実現することができる、という考え方になる。だから、人権思想の根幹には、こういう神様がある。

 (3)すると、人間の心の作用ということと、神様が一緒になってしまう。自分の考えることこそが絶対といって、自己絶対化の道を歩んでいく。
 だから、近代的なプロテスタンティズムを理論化したシュライエルマッハーは、同時にロマン主義の母でもあり、ナショナリズムの母でもある。

 (4)さらに、地上に価値観をおろしてきたことによって、科学技術の発展に対する制約がなくなった。
 啓蒙主義が原則として認められる。啓蒙主義は、真っ暗いところにロウソクが1本ある。そうすると少し明るい。2本にすれば、もう少し明るくなる。ということで、本数を増やしていくほど明るくなる。このように知識が増えてくる。これがエンライトメント(enlightement:啓蒙思想)だ。
 その結果、何が起きたか。
 19世紀の終わりにおいて、人類は将来の社会をすごく楽観していた。地上に楽園をつくることは可能である。一部に社会問題、労働問題があるけれども、これを克服してすべての人が豊かに暮らすことができるし、疫病からも解放される。化学肥料が見つかったので、我々は近未来に飢えからも解放される。人類にはバラ色の未来があるはずだ。そして、我々の文明は未開のアジアやアフリカにも及んで、世界全体が幸せになるはずで、天国を地上に実現できるはずだ。こういう考え方が主流になってきた。ナポレオン戦争を最後に、戦争の数もだんだん減ってきた、ということも関係している。

□佐藤優『牙を研げ 会社を生き抜くための教養』(講談社現代新書、2017)の第2章の「⑯神の場の転換」
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 【参考】
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【佐藤優】キリスト教の特徴、三一論(父・子・聖霊の関係) ~『牙を研げ』~
【佐藤優】キリスト教共同体とローマ法 ~『牙を研げ』~
【佐藤優】復活という現象の科学的説明 ~『牙を研げ』~
【佐藤優】プレモダンとしてのカトリックと正教 ~『牙を研げ』~
【佐藤優】ユダヤ教、キリスト教、イスラムの「罪」 ~『牙を研げ』~
【佐藤優】論理が発達する理由 ~『牙を研げ』~
【佐藤優】天照大神vs.須佐之男命 ~『牙を研げ』~
【佐藤優】仏教や神道とは違う、一神教の思考法 ~『牙を研げ』
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【佐藤優】プロテスタンティズムという思考の鋳型  ~『牙を研げ』~
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【佐藤優】ソ連軍の懲罰部隊が強かった理由、日本軍の「生きて虜囚の辱めを受けず」  ~『牙を研げ』~
【佐藤優】『牙を研げ 会社を生き抜くための教養』 ~各章の小見出し~
【佐藤優】『牙を研げ』 ~まえがき~
【佐藤優】『牙を研げ 会社を生き抜くための教養』 ~目次~

 
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