語られる言葉の河へ

2010年1月29日開設
読書
大岡昇平+社会問題・社会保障

【フランス】家を売って、しかも死ぬまで住む方法 ~年金式売買~

2017年07月01日 | 社会
 フランスにはヴィアジェという制度がある。これに訳語があるかどうか、しいて訳してみれば年金式売買といったようなことである。
 ここに私が一軒の家をもっているとする。私はこれを年賦で人に売る。相手は私に毎年定額を払わなくてはならないが、その期限は私が死ぬまでである。私は死ぬまではその家を自分のものとして今まで通り使うことができる。死ねば家はそのとき相手のものとなる。これがヴィアジェである。
 だから、私はこの家によって死ぬまで年金をえて、生活の保障をえることができる。ただし、私が早死をして来年死ねば、相手は一年分払っただけで家が自分の所有になる。もし私がなお三十年生きていれば、相手はそのあいだは払う義務がある。ここにある賭の要素が入ってくる。
 しかもこの賭はさらに深刻となる。もし相手が私より早く死ねば、私は相手がそれまでに払った分を返さなくてもいい。家はもとより自分のものだし、貰ったものは貰い得である。つまり、互いにより長く生きた方が特である。
 これは一面にははなはだ合理的な制度であろう。老人などはこれによって晩年を安らかに暮らすことができる。死後になって処分される財産を生前から活用するのであって、はなはだフランス人らしい頭の使い方である。
 しかし、その半面には--、自分は財産を子供には譲りたくない、あるいは不和な親類に自動的にうつるのをさまたげたい、という老人もいる。そういう人は財産をヴィアジェにして生きているうちに使ってしまう。この制度にはしばしばある執念がまつわっている。
 しかも、相手は私がいつ死ぬかと待っているのだし、私も相手が何かのはずみにぽっくりゆけば--、と思っている。それでこの契約を結ぶ際には、こっそりむこうのかかりつけの医者に様子を聞いたりする。この制度ほど人間の弱点に乗じやすく、またそれを煽りやすいものはあるまい。
 モーパッサンに『酒樽』という短編がある。ヴィアジェで土地を買った男が、持ち主の老婆が頑健でなかなか死なないのに業をにやして、上手に酒をすすめて老婆を酒好きにして、はやく土地を手に入れる話である。こんなことが事実おこるわけではなかろうが、しかし心情の中では・・・・。
 このモーパッサンの話は、ある地方のある時代の特別な事情かと思っていたが、じつはこういう制度がいまも一般的に活用されている。

□竹山道雄『スペインの贋金 ~竹山道雄著作集2~』(福武書店、1983)の「たそがれのパリ女たち」(「婦人公論」昭和32年2月号)から引用
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