語られる言葉の河へ

2010年1月29日開設
大岡昇平、佐藤優、読書

【震災】住民の生命や生活より箱モノ造りを優先 ~神戸市~

2015年01月17日 | 震災・原発事故
 本書【注】の著者は、都市政策を専攻する。行政マン(神戸市)の経歴も持ち、現職は神戸松蔭女子大学教授である。

 阪神・淡路大震災を千載一遇の好機とし、仮設住宅の住民そっちのけで箱モノ造りに邁進した神戸市。ゼネコンが儲かれば後は閑古鳥が鳴こうとも、お構いなしなのであった。「箱モノ造りに邁進」の典型は、再開発を目論んでいた神戸市幹部(当時)が「幸か不幸か燃えた」と本音を漏らした長田区だ。

 本書は、「火事場泥棒的再開発」の背景に歴史的伏流を見てとる。<戦前から軍港として発展した神戸は重厚長大型産業の町。言い換えれば中央(東京)に内発的発展を阻害された植民地型開発の拠点です。震災復興工事も東京中心に利益の9割が兵庫県外に吸い上げられている。>

  関東大震災と阪神・淡路大震災
  大恐慌(1929年)とリーマンショック
  昭和三陸沖地震と東日本大震災
  軍事費増加と復興公共事業補助

 ・・・・本書は、戦争へ突き進んだ時期と現在との酷似を浮き彫りにし、警鐘を鳴らす。災害のたびに自衛隊が国民の共感を獲得した風潮を鑑みれば、「一定方向」へ国民が誘導される怖さが見出される。

 本書は、<現憲法は政府に国民の生命と生活を守ることを命じているはずが空洞化している。>と指摘して、「憲法復興学」を再生への道として強調する。
 <技術的に可能なら何をやってもいいわけではない。>
 <ドイツが原発廃止を決めた背景はキリスト教精神と倫理だった。>
 倫理、人間重視の「憲法の理念」への回帰こそ、今求められる。福島後の原発政策に未来はない。

 財政難など、どこ吹く風の「アベノミクス」。
 日本の国土すべてが「万年工事現場」だ。
 豊富なデータの力作(本書)は、「美しくない日本」は戦争と自然災害を連動させた産物にほかならないことを示す。

 【注】池田清『災害資本主義と「復興災害」』(水曜社、2014)

□粟野仁雄(ジャーナリスト)「戦争と災害が連動 「美しくない日本」 ~きんようぶんか・本~」(「週刊金曜日」2015年1月9日号)
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 【参考】
【震災】神戸市長田区に見る「復興災害」(2)
【震災】神戸市長田区に見る「復興災害」(1)
【旅】復興を絵画で表現できるか ~平町公の試み~
【震災】二重ローン 得するのは銀行だけだ ~その対策~
【震災】復興のカギはパイプ役(住民の自主組織) ~神戸の過ち、奥尻の教訓~
書評:『神戸発 阪神大震災以後』
書評:『復興の闇・都市の非情 --阪神大震災、五年の軌跡』

   

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