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2010年1月29日開設
読書
大岡昇平+社会問題・社会保障

【佐藤優】ユダヤ教、キリスト教、イスラムの「罪」 ~『牙を研げ』~

2017年05月16日 | ●佐藤優
 (1)一神教というと、基本的にはユダヤ教とキリスト教にイスラム教を加える。
 しかし、ここのところはよく吟味したほうがいい。
 イスラム教が徹底した一神教であることはまちがいない。しかし、イスラム教で想定するところの神は、ユダヤ教、キリスト教で想定するところの神と一緒かというと、だいぶ距離がある。それは、罪に対する感覚が違うからだ。

 (2)イスラム教の罪は、洗い流せばすぐ落ちる程度の汚れで、罪の感覚は非常に薄い。神と人間がストレートにくっついている。
 〈例〉教師が講義を15分遅れてはじめたとする。イスラム教徒なら、一言目に「アッラーを恨むな」と言ってはじめるだろう。15分遅れて来たのは、アッラーが教師を教室に来るのを15分遅らせたからだ。それについて、あなたたちが恨むと、アッラーを恨むことになるから、教師を恨むんじゃない。わかったな。

 (3)ユダヤ教は原罪概念がないという意見があるが、この判断は難しいところだ。たしかにユダヤ教の主流派では、原罪の概念はないにしても、罪の概念はある。しかも、それが人間にかなり初期の段階から備わっているという認識はあるから、論理構成を見るならば、限りなく原罪に近い罪の概念がユダヤ教にはある。罪の概念があると、自分は罪を持っているから、自分のやっていることはまちがっているかもしれない、という意識が常にある。
 ユダヤ教、キリスト教的発想では、自分は絶対に正しいと思うけれども、絶対に正しいと考えている自分がまちがっている可能性があることになる。
 それに対して、イスラム的な発想だと、自分は絶対に正しい、おまえは絶対にまちがっている、となる。
 だから、同じ「絶対に正しい」と考える人たちであっても、自分がまちがっている可能性があるということが原理的に埋め込まれているかどうかが、イスラムと、ユダヤ教、キリスト教の大きな違いになる。

 (4)これは日常生活においてはたいした違いではない。一神教は基本的には自分と神様の関係が重要なので、その意味では、自分以外には無関心、それ故に寛容だ。だから、エルサレムに行くと、カトリックの教会もあれば、正教の教会もある。ユダヤ教のシナゴーグもあり、イスラムのモスクもあり、シーア派もスンナ派もいる。キリスト教も、いわゆる主流派のカルケドン派ではないヤコブ派やマロン派とか、コプト教会もあるし、アルメニアの教会もある。紛争は、かつて偶発的にしか起きなかったし、今みたいにイスラムとユダヤ教の関係がおかしくなったのは、イスラエル独立後の話だ。

 (5)ユダヤ教徒に、キリスト教の教義をどのぐらい知っているかと聞いても、あるいは正教会の人にアルメニアのキリスト教はどいうことを考えているかと聞いても、まったく知らないし、関心もない。要するに、自分と神様の関係だけしか関心がないから、ほかの人は何を信じているかということについても関心がない。
 だから、キリスト教、一神教が非寛容で、多神教が寛容であるというのは、一神教の歴史からしても、論理からしても成り立たない。

 (6)一神教が非寛容になっていくのは、大航海時代以降、帝国主義の流れが出てきてからだ。特定の文明を拡大していこうというなかで、キリスト教と文明が同一視されたことによって起きてくる現象だ。
 だから、むしろ帝国主義の文脈のなかで考えたほうがいい。時代も、規模も異なるけれども、じつは十字軍もその文脈のなかで考えたほうがいい。十字軍の基本的な目的は、財宝を取りに行くことだった。実際、イスラムよりも正教会のほうが財産を持っていたので、十字軍はイスラムと戦うよりも、むしろコンスタンチノープルの正教会との戦いにウェイトを置いていたのだ。

□佐藤優『牙を研げ 会社を生き抜くための教養』(講談社現代新書、2017)の第2章の「⑨ユダヤ教、キリスト教、イスラムの「罪」」
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 【参考】
【佐藤優】論理が発達する理由 ~『牙を研げ』~
【佐藤優】天照大神vs.須佐之男命 ~『牙を研げ』~
【佐藤優】仏教や神道とは違う、一神教の思考法 ~『牙を研げ』
【佐藤優】国教は習慣というかたちをとる ~『牙を研げ』~
【佐藤優】紅白歌合戦の、カオスからコスモスへ ~『牙を研げ』~
【佐藤優】武士政権成立前後のグローバリゼーションと反グローバリゼーション  ~『牙を研げ』~
【佐藤優】プロテスタンティズムという思考の鋳型  ~『牙を研げ』~
【佐藤優】日本兵は捕虜になるとよくしゃべる理由、米軍の日本研究  ~『牙を研げ』~
【佐藤優】ソ連軍の懲罰部隊が強かった理由、日本軍の「生きて虜囚の辱めを受けず」  ~『牙を研げ』~
【佐藤優】『牙を研げ 会社を生き抜くための教養』 ~各章の小見出し~
【佐藤優】『牙を研げ』 ~まえがき~
【佐藤優】『牙を研げ 会社を生き抜くための教養』 ~目次~

 
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