語られる言葉の河へ

2010年1月29日開設
大岡昇平、佐藤優、読書

【経済】宇沢弘文の「自己を見返す力」 ~知識人とは何か~

2015年01月01日 | 批評・思想
 <知識人とは、その根底において、けっして調停者でもなければコンセンサス作成者でもなく、批判的センスにすべてを賭ける人間である。>【エドワード・サイード『知識人とは何か』】

 宇沢弘文(1928年7月21日-2014年9月18日)の教え子の一人ジョセフ・スティグリッツは、こんな指摘をした。
 「ヒロは、自分自身に対してとても批判的だった」
 グローバリズム批判で知られるスティグリッツは、「不平等」の問題への関心を宇沢と共有していた経済学者だ。
 <ability of criticizing of himself>とスティグリッツは語った。

 宇沢を「怒りの人」と評する人は少なくない。
 「現実の不公正、不平等を是正して、社会正義に適った途を探るのが経済学」と真正面から唱え、水俣病や成田空港問題などでは現場にまで飛び込んでいったから、「怒りの人」という評語は誤りではない。
 しかし、言葉が足りない。
 スティグリッツは<ability of criticizing of himself>を宇沢の特筆すべき能力と見なしていた。
 「自己を見返す力」が怒りを怒りたらしめる。

 理論経済学者の宇沢は、問題を提示し、解法を示すと同時に、自分が定時して解いてみせた過程そのものに疑問を投げかけてしまうところがあった。『自動車の社会的費用』に顕著だが、彼の問いはあまりにもラディカルで、相手を困惑させずにおかない。
 だが、その問いは自分にこそ向けられるから、自動車に乗るのを止め、どこへ行くにも走ったのだ。

 宇沢は、ミルトン・フリードマンを頭目とするシカゴ学派を指弾した。
 市場原理的な考えを世界に流布さえたからだが、実は宇沢は、シカゴ学派に学問的基礎を提供するような研究実績も残している。
 宇沢は、「合理的経済人」の考えを極端なまで押し広げた合理的期待形成仮説を激しく批判した。だが、その学派の教祖ロバート・ルーカスは宇沢の教え子でもあり、宇沢を尊敬していた。ノーベル経済学賞受賞後の講演で、ルーカスは宇沢を<charismatic figure>と呼んでいる。

 「自己を見返す力」は、サイードのいわゆる「批判的センス」に通じるものだ。
 「知識」の力を熟知し、信じていた宇沢は、それゆえに「知識」のあり方に極めて敏感で厳密だった。おかしな方向に作用しまいか、常に懐疑的態度を崩さなかった。スティグリッツの目には禁欲的にすら映ったようだ。

□佐々木実「知識人とは何か 宇沢弘文の「自己を見返す力」 ~佐々木実の経済私考~」(「週刊金曜日」2014年11月7日号)
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 【参考】
【経済】宇沢弘文が残したもの ~社会的共通資本の思想~


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