語られる言葉の河へ

2010年1月29日開設
読書
大岡昇平+社会問題・社会保障

【相場英雄】『震える牛』 ~添加物を大量に混ぜた際のリスク~

2017年04月19日 | 小説・戯曲
「添加物に害は?」
「一応、当局の検査をクリアしたものばかりです」
「なにかリスクがあるのですか?」
 鶴田はバッグからメモ帳を取り出したあと、小松を見た。
「一つひとつの添加物は、動物実験を経て発がん性や毒性のチェックをクリアしています。ただ、これを同時に混ぜ合わせた際の実証データはありませんし、国も監視していません」
 メモ帳の上で、ペンが停まった。悪寒が首筋から背中いっぱいに広がった。
「水気をたっぷり吸った雑巾のようだという理由のほかに、私やかつての同僚が一切自社製品を食べなかった理由がそれです」
 小松は今までと同じように冷静に告げ、もう一つの焼きおにぎりを手に取った。
「この焼きおにぎりは、メニューの中でも添加物が少ない部類です。だから食べさせていただきました」
「おにぎりまで?」
「三個で150円ならば原価は80円程度。間違いなく古々米が原料です。古いコメに乳化成分、ブドウ糖液、増粘多糖類を加えていなければ、とても食べられるシロモノにはなりません」
 小松はそう言ったあと、焼きおにぎりを頬張った。
「でも、生鮮サラダなら大丈夫でしょ?」  
 鶴田が小エビの載った皿を差し出すと、小松は強く首を振った。
「次亜塩素酸ナトリウムという消毒剤、アスコルビン酸ナトリウムという酸化防止剤のプールに浸かった野菜を食べる気にはなれません」
「今朝、時間がなかったのでコンビニのハムサンドとサラダを摂ったのですが」
「おそらく多数の添加物が入っていますね。サラダの野菜がカットしてから一日経っても黒ずんだりしないのには、ちゃんと理由があるのですよ」
 親指についた米粒を口に入れた小松が言った。
 無意識のうちに、鶴田は頭を振った。添加物を大量に混ぜた際のリスクは、国ですら把握していない。鶴田をはじめ、一般の消費者は全く情報を知らされぬまま、便利な食べ物を口に運んでいる。

□相場英雄『震える牛』(小学館、2012/後に小学館文庫、2013)「第三章 薄日」から引用
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