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進学塾では、小5で「合同と相似」の学習で取り上げられる「縮図」が、学習指導要領が改訂された公立小学校6年の学習項目として、指導の対象となりました。
ただし、公立小学校で学習する「拡大図と縮図」の項目は、その意味や性質を理解し、実際に拡大図と縮図を作図することが主な課題で、その標準学習時間を考慮すれば、縮図に関わる計算(割合の計算)は、簡単に触れる程度となっています。
今回、公立小学校小6算数の授業で、この「縮図」に関する計算問題を取り上げ指導しました。
この内容を公立学校で指導することは、私にとって大変興味深いことであり、実際に教えてさまざまな点で有意義で参考になりました。
この縮図関連計算の指導法は、学校と塾では異なりますが、 「生徒の考え方」や「指導法」について、多くの指導者が熟慮すべきで、ブログで二回に分けて、内容を深めてみたいと思います。
そこでまず、進学塾で「縮図」を指導する時の要点と、今回公立小学校で経験した指導法を対比してみましょう。
【進学塾での指導法】
進学塾で学習する縮図の問題は、あくまでも相似な図形の学習の一貫として捉えます。
相似な図形の一つの例として縮図を取り上げ、かなり厳密な概念の導入が行われます。
また作図中心の学習指導ではなく、「実際の長さ」「縮図上の長さ」「縮尺」という3つの数値の関係を理解し、そのうちの2つの数値が決まると、もう1つの数値が計算できることについて細かく学習します。
求める数値は、長さ(相似比)だけではなく、面積(面積比)に関する問題や、場合によっては体積(体積比)の問題も取り扱い、速さなど他の問題との融合問題としても学習します。
塾において学習する縮図に関する問題を確実に理解するためには、以下の基礎的な項目に習熟していることが条件となります。
- 割合の関係式を理解している
- 単位の変換ができる
- 分数計算ができる
すなわち進学塾では、曖昧な考え方で答えを出すのではなく、「割合の公式」を自在に用いて、単位変換も含め1本式を立て、分数計算で計算を簡略化することが求められます。
そうした基本事項のハードルをクリアした生徒にとって、縮図の問題は出題領域が狭いので、比較的正解し易い問題と言えます。
逆に言えば、中学受験を目指していても、上の三つの基礎事項をマスターしていない生徒にとっては、縮図の問題は苦手な問題ともなります。
そうした問題の特性から中学入試では、「割合」「単位」「計算」の3つの基礎学力を1つの問題で見ることのできる、出題者にとっておいしい問題として、『縮図』はよく出題されます。
【公立小学校での指導法】
では、公立小学校で簡単に触れる程度の「縮図」の計算問題を、どう教えたらよいのでしょうか。
私はまず、生徒たちに「縮図」の基本的な概念を確認した後、「割合の公式」について質問してみました。
小5で学習した「割合」の問題を解くときに、「割合の公式を使う」、「くもわの図を使う」、「何となく式が出てくる」のどの方法を使うかという質問でした。
結果は、割合の公式・・・1割、くもわ・・・1割、何となく・・・8割、といった割合でした。
同様の質問を、私が指導している他の小学校で行うと、割合の公式・・・2割、くもわ・・・5割、何となく・・・3割、という結果でした。
学校によっては、「くもわ」が半数を超える所もあり、小5で学習するときの指導者の考えが反映された数値と言えます。
「なんとなく式が出てくる」というのが、生徒の知識の幅が広過ぎて、割合の習熟度を判別するには、難しいと考えられます。
こうした状況で、「割合」の応用となる「縮図の計算」を、子どもが理解できるように公立小学校で教えることは、進学塾で教えるよりも遙かに難しいことになります。
この項目の本来目指す眼目からずれても、工夫しながら基本的な考え方に戻り、指導する必要が公立小学校にはあります。
では、具体的に今回生徒にやってもらった「縮図」の問題について、進学塾と学校での指導方法の違いについてより具体的に考えます。
【問題1】実際の距離が2kmを、縮図では4cmで表される縮尺は、何分の1ですか。
塾で生徒が書く式は、
4÷(2×1000×100)=分数計算して=1/50000
(くらべる量÷もとにする量=割合という式と、単位変換を分数計算します。)
小学校では、割合の習熟度が低いので、上のような式をたてることはできません。
「2kmの何分の1が4cmだろう?」という考え方がそもそもできませんので、「4cmの何倍が2kmだろう?」という疑問の投げかけからスタートします。
すなわち、割合の最も基本的な「~倍」という、低学年で学習した整数倍の考え方に持ち込んで、解いていきます。
公立小学校で子供たちが解く式は、
2×1000×100=200000(cm)
200000÷4=50000(倍) 2km=200000cmは4cmの50000倍
実際の長さは、地図上の長さの50000倍なのだから、逆に言えば地図上の長さは実際の長さの1/50000となり、この数値が縮尺だな、といった考え方をとります。
【問題2】縮尺50000分の1の地図で、実際の距離が2kmの長さは、地図上では何cmですか。
この問題では、2km=200000cmの実際の長さが、地図上では数値が小さくなるので、計算は割り算だな!(縮尺の分母の50000という数値に生徒は注目し、縮尺としての分数そのものを使わない。)
そうすると、答えは200000÷50000=4(cm)じゃないか!
塾では、割合の公式を使い、
2×100000×1/50000=4(cm)と、かけ算で式を立てます。
(頭の中で、もとにする量×割合=くらべる量、と言いながら式を書くように指導します。)
【問題3】縮尺50000分の1の地図上の4cmの長さは、実際の距離は何kmですか。
この問題は、縮図の長さより実際の長さは大きくなるのでかけ算だ!、と言いながら、小学校の生徒は解き始めます。
分数で表された縮尺を分数として捉えるのではなく、分母の50000と言う整数に注目して、その数を使って解き始めます。
4×50000=200000(cm) 200000÷1000÷100=2(km)が答だ!
この場合も、塾では、
4÷1/50000÷100000(分数計算)=2(km)と答えを出します。
(やはり頭の中で、くらべる量÷割合=もとにする量、と言いながら)
本来の解き方では、割合の公式、それに分数計算というハードルを越えなければなりません。
しかし、その2つのハードルを越えなくとも、小学校においては多くの生徒が答えを出せるなら、それでも良いのかもしれません。
ただし、分数をかける、分数でわるといった考え方の訓練と、正確な割合の関係式を立てて問題を解く練習に、「縮図」の問題を使うのも一つの方法です。
一つの例題から、広域的に使える一般式を導き出す学習ではなく、現在の小学校では、既存の知識を活用しできるだけ多くの生徒が答えを導き出して、「できたね!良かったね!」で終わることを、現場では実践せざるを得ないのが実情と言えます。
さて、こうした現状を踏まえ、多くの生徒が中学校そして高校で数学を学習する将来も見据えて考えたとき、はたしてこれでよいのか?
次回は、縮図の学習を含む「割合の問題」について、その指導法について考えます。
マッキーの教育論:公立小学校で「縮図の計算」を教えて思ったこと・・・その2
秋の気配が漂う苗場山登山道からの風景