「マッキーのつれづれ日記」

進学教室の主宰が、豊富な経験を基に、教育や受験必勝法を伝授。また、時事問題・趣味の山登り・美術鑑賞などについて綴る。

マッキーの美術:美楽舎例会・T氏講演「中国骨董漂流二十年」

2014年07月09日 | 陶芸



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 7月6日(日)、美楽舎例会が京橋の画廊で15時から予定されていましたが、それまで6歳児に付き合って、墨田区にある折り紙ミュージアムを訪れたり、台東区の雑貨店をハシゴしたりして過ごしました。今月の例会は、会員K氏の知り合いで中国骨董一筋に20年間、その収集と研究を続けていらっしゃるT氏を招いてお話を伺いました。

 美術品コレクターとしては、T氏の20年という期間はさほど長くはありません。私の周囲には、30年~40年のコレクター歴を持っている人も稀ではありません。私自身も、最近はちょっとご無沙汰していますが、美術愛好家として既に35年ほどの美術品収集歴があります。コレクター歴の長短は別として、T氏の骨董にかける情熱がひしひしと伝わる興味深い例会でした。

 ところで6歳児はどうしたの?……1時間半ほどの講演時は、ギャラリーの後ろで床に座って折り紙ミュージアムで買ってきた折り紙を使って一人遊びをしていました。ただ、T氏がお宝のコレクションを箱から出す度に、6歳児は骨董に興味があるのか、大人に混じって前のテーブルに近寄ってきます。「触らないように、見なさい」と言ってガードしましたが、6歳児は至って静かにマイペースで例会の時間を過ごしていました。



 今回のT氏の講演では、講演内容のレジュメとコレクションの他、資料として書籍や写真を使って説明いただきました。そうした骨董品・図録・写真などを中心に、今回の講演会の概要を今回のブログでお伝えします。

 ところで、骨董品とは何か? それは、希少価値のある古美術や古道具のことです。どの程度の古さが必要なのかは曖昧ですが、およそ製造から百年を経た物品を骨董と呼ぶのが一般的です。ですから、まず骨董品は、古いことが重要で、その結果としてその品物に希少価値が伴うことが大切です。ちょっと気取った言い方で、アンティークと呼ばれる品物も、骨董品の範疇に入るでしょう。

 私のコレクションには、江戸時代の書物・明治時代の書画などもありますが、骨董品と呼ばれるものはほとんどありません。なぜなら、骨董を収集する指針を示してくれる師匠がいなかったこと、おまけに骨董品を見る目、真贋を判定する目に、確信が持てなかったからです。

 ある百貨店で、漢の緑釉陶器の購入を勧められました。食指が動くほどどっしりとした双耳壷でしたが、結局自信が持てずに見送りました。
漢の緑釉は、1970年代までは壺が数百万円もする高価な焼き物でした。特に器物の表面が銀化し、それが景色となった壷は、日本人に好まれました。

 ところが、1980年代後半になると、中国においてインフラ整備が大々的に行われると、各地で埋もれていた漢代や唐代の墳墓が発見されました。その結果、漢の緑釉や唐三彩などが発掘され、日本に大量に持ち込まれました。その結果、それまで高価だったそれらの陶磁器の価格が大暴落しました。

 その頃に、私にも漢の緑釉壷の話があったわけです。2000年も前に作られ、陶磁器の歴史に燦然と輝く緑釉の高品質の陶器が、かなり安く手に入る時期だったわけです。



 上の陶器は、アンダーソン彩陶です。中国の新石器時代に製作された彩文土器の名で、スェーデンの地質学者・考古学者のアンダーソンにより発掘されたことで、この名があります。アンダーソン彩陶は、前5000~前3000年ごろの遺跡から多数出土されています。ですので、極めて古い陶器ですが、比較的安い価格で入手可能だそうです。

 中国の
黄河文明は、このアンダーソン彩陶が作られた新石器時代の仰韶(ヤンシャオ)文化から、竜山(ロンシャン)文化を経て、殷・周の青銅器文化に発展していきました。 余談になりますが、アンダーソンは、現在は所在不明の北京原人の発掘にも関与した人物として記憶されています。

 
アンダーソン彩陶は、成形し乾燥させてから顔料で文様を描いた後、焼成します。顔料には酸化鉄が使われ、焼成すると黒色または褐色に変色します。陶器の表面に描かれた文様は、幾何学文・人面・魚など動物文などです。彩文土器は、西アジア、中国、中南米などの原始農耕文明に多く見られます。



 上の破片には、甲骨文(3000年前)が描かれています。
甲骨文字とは、中国・殷(商)の時代に行われた漢字書体の一つで、知られる限り最古の漢字と言われています。亀甲獣骨文字、甲骨文とも言います。亀の甲羅(腹側の甲羅)や牛や鹿の骨(肩胛骨)に刻まれました。



 上の小物は、翡翠でできた亀甲文ですが、漢時代に作られたものです。甲骨文字から比較すれば時代は新しくなりますが、亀に模した翡翠に、おめでたい文字が刻まれているのでしょう。



 上の直方体の陶器は、唐時代の枕だそうで、表面は唐三彩で彩られています。唐三彩は、唐代の陶器上に施した釉薬の色を指しますが、後に唐代の彩陶を総称する語として使われるようになりました。唐三彩の焼成は、二回行われます。一回目は、白色の粘土で作った器物を、窯の中で1000~1100度で素焼きします。次に、器物を取り出し、各種の釉薬をかけ、再び窯の中で850~950度で焼き陶器として完成させます。

 唐三彩は芸術品としての水準は極めて高いものの、日用品として用いられることは少なく、主に埋葬品として使用されたのだそうです。知り合いの家に、唐三彩の馬や駱駝の置物が幾つもありました。クリーム色・緑・白の三色の組み合わせや、緑・赤褐色・藍の三色の組み合わせなど、とても美しい焼き物です。それらの唐三彩の置物は、本物だったのでしょうか。

 加藤卓男は、ラスター彩が有名ですが、実は「三彩」の技法で重要無形文化財(人間国宝)になった陶芸家です。下の花器とぐい呑は、私が所有している加藤卓男の三彩花器とラスターぐい呑みです。









 上の香炉は、宋時代の龍泉窯の青磁です。南宋時代、青磁の主要な窯場が「龍泉窯」ですが、
龍泉は、カオリン質の灰白色の土に恵まれていたことが理由のようです。鎌倉時代には、龍泉窯で作られた「砧青磁」が、数多く日本に輸入されました。

 北宋時代の後半の汝官窯の青磁は、素地は陶胎で、柔らかい白色の陶器の上に青磁の青い釉をかけています。全体に釉をかけるために焼くときに針の上に置いて浮き上がらせたので、器の底には針の目の跡が残り、陶胎のために貫入も入っています。

 龍泉窯では、素地に灰みを帯びた白色の磁器質のものを選んだために、硬質な印象の器となりました。また釉は石灰鹸釉で、これは高温でも釉が流れ落ちない特性があり、そのために3~4回の施釉と焼成を繰り返したものが多いのだそうです。



 上の椀は、宗赤絵(磁州窯)の椀です。宋赤絵とは、宋代(金代)に作られた上絵付けの陶器のことです。化粧掛けした素地に透明な釉をかけ、その上から赤・緑・黄などの顔料で花鳥などを描いたもので、赤絵の先駆けとも言える焼き物です。この宋赤絵の椀は、赤絵で花と魚が描かれ、またわずかに薄緑に彩色た部分があり、口縁に金泥が施されています。下の図録に掲載された宋赤絵に、形式が似ている作品です。

 以前、私は赤絵の焼き物が好きではありませんでした。けれども、赤絵の器を実際に使ってみると、食卓が華やいだ雰囲気になることに気づきました。赤絵の食器ばかりですと興醒めしますが、上手に配置すると、楽しく使うことができる焼き物と言えるでしょう。



 中国陶磁器の中で、忘れてはいけないものとして、青花を上げることができるでしょう。日本では染付と呼びますが、白磁の釉下にコバルトで絵付けを施した磁器のことです。元代に始められた手法で、きめが細かく純白に近い磁器質の胎土を用い、釉下に施された青色の文様は、退色・剥落することがありません。明の時代に景徳鎮に官窯が設けられ、洗練された完成度の高い作品を生み出しました。

 ところで、最近100年~150年の発掘の成果は、歴史を変えるほど充実したものでした。埋もれていた歴史を掘り起こすことで、伝世品に偏っていた意識の変革を迫られたと、T氏は述べています。また、骨董の価値という点では、発掘や海揚り(うみあがり)によって大量に品物が出回ると、需要・供給のバランスが崩れ、値が下がります。学術上は、貴重な資料が増えますが、骨董の価値は一時的に下がることになります。




 下の筒状の物は、象牙の筆筒(筆立て)です。明時代の作品で、象牙の表面に精緻な彫り物が施されています。このような文房具も骨董の範疇に入る作品です。美術品として扱われずに、実際に日常的に使われてきた品々の中には、芸術的に優れた物品も少なくありません。審美眼を研ぎ澄ませ、そうした日用品の中に芸術性を見出して、自分なりのコレクションを形成することも、骨董収集の一つの方法と言えます。






 上の画像は、東京国立博物館で開催中の「台北 國立故宮博物院―神品至宝―」で展示された、台北の國立故宮博物院が誇る神品「翠玉白菜(すいぎょくはくさい)」です。大きさと完成度は異なりますが、その形式が同様な下の画像の作品は、清末期に作られた翡翠の印鑑です。

 骨董の初心者は、骨董市や蚤の市で、自分が好む物品で、値の張らない品物をまず購入し、手元に置いて楽しんだらよいでしょう。無論、その程度で初めから掘り出し物を見出すことは困難です。けれども、古い物の味わいや良さが分かってきて、かつ自分の好みというものが理解できるようになるはずです。そうした経験を経て、信頼の置ける骨董品を扱う店で、良い品を思い切って買うことができるようになれば、あなたは骨董の虜になる道を歩み始めたと言えるでしょう。くれぐれもご注意を!

 骨董に魅せられ、中国骨董を中心に、好みの作品を収集してきたT氏の話を聞きながら、美楽舎にいる、またはいた人たちの、様々なコレクションについて考えました。収集品の分野はひと様々で、手に入れた作品に対する思い入れは、優劣つけ難い人たちです。購入作品に囲まれた至福の生活がある一方、家人に知られないよう真夜中にこっそりと作品を自室に持ち込む涙ぐましい労力や、購入費用の工面の悩みなども、コレクターの属性と言えるでしょう。

 ですから、美術収集家のコレクションには、それを集めた人の主張と思い入れが込められているだけではなく、悲喜こもごものコレクター人生が投影されているのです。




コメント (8)
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