堅持し通す

不思議なのは、どこからか、一秒から、私は全身の痛みが突然消え。

まち両者は接近

2017-01-11 11:03:55 | 日記

不潔な水沫《みなわ》が逆巻いた。そしてそこを、悪霊のガリオン船を思わせて、膠質の怪物が追跡してくる。エンジンを動かす蒸気力が最高の段階に達したとき、わが勇敢なノルウェー人は、アラート号の船首をジェリー状の怪物の巨体へ向けた。たちして、いまや、武装快速船の舳に突き出た第一|斜檣《しゃしょう》が槍烏賊《やりいか》に似た怪物の頭から伸びた触手とすれすれになった。だが、ヨハンセンはひ瘦面療程るむことなく、突進をつづけた。気胞のはじける破裂音、切り割ったマンボウが流すどろどろした汚物、あばかれた古塚から噴出する悪臭、それらすべてが千倍にも拡大されてそこにあって、どのような記録者であろうと、この凄まじさを紙上に表現できるとは考えられぬ。アラート号は一瞬のうちに、目を刺す緑の雲に包まれて、船尾だけが外に出ているにすぎぬのだが、そこもまた毒液が煮えたぎっていた。そしてしかも――おお、神よ!――いったんは砕けて星雲状に変わった名も知れぬ暗黒の落とし子が、ふたたび元の形をとり戻しつつあるのだ。だが、アラート号は蒸気力を最高にして、フル・スピードの逃走に移り、一秒ごとにその距離を広げていった。
ヨハンセンの手記はそこで終わっていた。思うにその後の彼は、船室内に閉じこもったまま、偶像を前に物思いに沈み、ときどきは、自分と、そばで笑い声をあげている男との食糧に気をつかうだけで、舵輪を握る気持にもなれずにいたのであろう、果敢な行動のあとの反動で、彼の心のうちの何か大きなものが消失したのも無理からぬことである。やがて四月二日の嵐が襲来して、わずかに残っていた意識までが、濃密な雲に包まれてしまったらしい。おそらくは彼の周囲の無限に広がる闇のなかPOLA 美白に、怪奇の物が渦を巻き、彼自身の身体は彗星の尾に載せられて、旋回する宇宙の目くるめくばかりの高所を飛翔し、地獄の底から月の世界へ、そしてふたたび月から地獄の底へと、狂気の突進を反復していたにちがいないのだ。そしてそのいたるところに、狂喜乱舞する古き神々と、緑色のコウモリの翼を持つ地霊たちの哄笑が聞こえていたものと推測される。
しかし、ヨハンセンはこの悪夢から救出された――ヴィジラント号、海事審判所の法廷、港町ダニーディン、そして長い航海を経て、彼はようやく、エゲベルクの山麓にある故郷の家に帰ることができた。とはいえ、その怖ろしい経験を人に語るわけにいかなかった。気が違ったと見られるからだった。そこで、死が訪れる前に、書き残しておくことにした。それも、妻に気づかれぬようにである。彼女には知られたくない。彼自身としても、死がこの記憶を拭い去ってくれたら、またとない神の恩寵と感謝すべきだと考えていたはずである。
以上がぼくの読んだ手記の概略なのだ。いまはそれが、ウィルコックス青年の薄肉浮彫りとエインジェル教授の資料と一緒に、錫の箱に収めてある。ぼくのこの記録も、それらの品と運命を同じくさせねばなるまい。ぼくはこの記録を、ぼく自身の正気のテストの意味で書きあげた。そのために、自分では関連させて考えたくない出来事も、敢えて結び付けて提示してあるのだが、それが狂気の証拠かどうかは、ぼくの判断の埒外にある。要するにぼくは、宇宙が恐怖を楯に守りぬこうとする秘密を知ってしまったのだ。これから先は、春の空も夏の花も、ぼくへの毒となることであろう。いずれにせよ、ぼくの生命は長くない。ぼくの大伯父が、そして、哀れなヨハンセンが死んでいったように、ぼくもまた死んでいかねばならぬ。宇宙の秘密を知りすぎたし、一方、あの忌わしい信仰が生きているからだ。
クトゥルフもやはり生きているものと、少なくともぼく自身は考えている。太陽が若かった頃から彼を庇護していた岩の割れ目に戻って、生きつづけるにちがいないのだ。彼の呪われた都も睫毛液、ふたたび海底に沈んだ。四月の嵐のあと、ヴィジラント号がその海上を無事に航行できたのがその証拠だ。しかし、地上では彼の信徒たちが、今夜もまた、人里離れた深夜の森林内で、偶像を載せた石柱をめぐって、吠え立て、躍り狂い、殺戮を繰り返している。目下のところ、クトゥルフは海底の暗黒の深淵に捕えられたかたちで身を潜めている。そうでなければ、現在のこの地上は恐怖と狂乱の世界と変わって、われわれ人類は泣き叫んでいるはずである。いつかまた変化が生じる。浮かびあがったものが沈むように、沈んだものが浮かびあがってくる。げんにこの時点でも、醜悪な太古の神々が、海底で、機会の到来を夢見ながら待っているし、地上にあっては、都市の上に頽廃の影が広がり、人類の危機が接近しつつある。その時が、かならず襲来する――しかし、その日のことは考えるべきでない。考えるには怖ろしすぎる!そしてぼくの遺言執行者に、ぼくの死後、この記録を発見したときは、俗人どもの目に触れぬように慎重に処理してしまうことを依頼しておく。

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