行き当たりばったり連載小説『Dっち』

高機能自閉症と呼ばれる発達障害を持つ「Dっち」ー 彼の心に触れることは難しいが、どんな人でもきっと彼を好きになる。

『Dっちノート』(15)K君の紙飛行機

2010年03月02日 | Dっちノート
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『Dっち』番外編


(15)K君の紙飛行機

 ところで、『Dっち』57―「ちょっと紙飛行機工作のことを」で、工作の授業で「競技用紙飛行機」を作らせたことを書いた。この紙飛行機工作授業の参考とさせてもらったのが、「紙飛行機の神様」と呼ばれる二宮康明博士監修の紙飛行機「ホワイトウィングス」シリーズの中でも最もベーシックな「レーサー520」という機体(画像参照)。

 作り方のコツは接着剤を過剰に使わないこと(機体を軽くするため)と翼と胴体をバランスよく、まっすぐに組み立てることだが、そのあたりが生徒たちにはなかなか上手くできない。主翼に軽くキャンパー(曲面をつける)をつけることなど小技も必要。

 飛ばすときは、割り箸と輪ゴムで作った「カタパルト」を用い、ゴムの強さ、発射角度、風向きなどを計算しながら飛ばす。思ったように飛ばなければ、機体の重心の位置を変えたり、キャンパーを深くしたり、浅くしたりと、良く飛ばすにはどうしたらいいか、工夫もこらす。

 5、6年間、毎年毎年工作授業の突端はこれを作ることにしていたので、100機以上は作らせたか。思い思いに色を塗らせてみたり、オリジナルの機体マークを作らせたりした。

 作って飛ばすところまで指導するので、授業としては、工作、美術、自然科学、スポーツまでカバーすることになり、「総合授業」として取り上げる良い課題だと思う。僕自身がこういうことは大好きなので、指導にも力が入った。

 「見本」を作るのにも力を注ぎ、それはまあ、先生にはね、君ら逆立ちしてもかなわないけんね、といういやらしい大人の優越感に浸るためなのであった。

 そんなわけで、見た目の出来映えとしては、僕にかなう生徒はなく(当然と言えば当然、自慢するわけではありませんが)、僕が主催したほとんどの校内競技会において、一番飛ぶのは僕が作った機体だったが、一度だけK君という生徒が作ったものに負けたことがある。

 K君はそれほど手先が器用というわけでもなく、彼が作った紙飛行機は、見た目的には僕のよりはるかに劣ったが、何回飛ばしてもK君の方が良く飛んだ。彼の機体と僕のそれの差違をじっくり検分してみたが、K君のは主翼と胴体の位置や角度が微妙にずれていたり曲がっていたりしていて、どう見ても僕の方が良く見えたのだが、実際に良く飛ぶのはK君の機体であることを認めざるを得なかった。

 このときは、ガッコウ近くの公園で競技会をしたのだが、何回か飛ばす内、K君の機体はいい感じに風に乗り、そこそこ広い公園領域をはるかに超え、民家が建て込む住宅街の方向に飛んでいき、この競技の最高の栄誉である「視界没」(飛びすぎてどこかへ行ってしまうこと)となったのだった。

 後からみんなでK君の機体が飛んでいった住宅街あたりを探したが、彼の機体は見つけることはできなかった。おそらくどこかの民家の屋根あたりに「不時着」したものと思われる。K君は軽度の知的障害を持った穏やかな性格の生徒だったが、自分の作った飛行機が「先生のより良く飛んだ」ということで随分嬉しそうにしていた。だから、機体を失ったことをとても残念がった。

 それで、彼はもう一機作ることになったが、その機体は「視界没」となった機体ほどは飛ばなかった。何かが上手くいく、ということはある種の「奇跡」が介在するように思う。紙飛行機の神様がたまたまK君の作った機体に憑依したのかも知れない。

 晴れた青空を見ると、そこに紙飛行機がすいすいと飛んでいるさまをつい想像する。あの時のK君の紙飛行機は紙飛行機の神様の住む異次元の空間に紛れ込んだのかも知れない。K君は元気にやっているだろうか。


画像上:生徒たちに作らせた「レーサー520」
画像下:ホワイトウィングス・シリーズ中の自作複葉機。速度はゆったり、滞空時間も短めだが、安定した飛行で悠々と飛ぶ感じがグッドでした。

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