MrKのぼやき

煩悩を解脱した中年男のぼやき

ラーメンのような手足

2017-08-10 13:46:29 | 健康・病気

8月のメディカル・ミステリーです。

 

8月7日付 Washington Post 電子版

 

A girl’s limbs were oddly floppy. A lucky encounter helped explain why.

少女の手足は奇妙に力が弱かった。幸運な偶然の出会いが原因の究明につながった。

 

By Sandra G. Boodman, 

 

 Elena Silva(エレナ・シルバ)さんは携帯電話を握りしめ、夫の Brian Woodward (ブライアン・ウッドワード)さんに切迫した気持ちを伝えようとしたが、蒸し暑い7月の午後のMaryland 郊外にあるプールの喧噪に彼の返事はかき消された。

 「ここに子供たちを連れて来て、すぐに」そう強く求めたことを Silvaさんは覚えている。Gg(Gigi “ジジ” と発音する)と呼んでいるこの夫婦の娘 Gabriela (ガブリエラ)ちゃん(当時7才)の診断に向けた彼女らの長年の追求は、その幼い少女がその場に居てくれることにかかっていると彼女は考えた。

 Woodward さんが Gg と兄の Elian(エリアン) 君をプールに連れて行っている間、Silva さんは研究者や知識の豊富な親たちのネットワークとの出会いに期待して National Institutes of Health(国立衛生研究所)の敷地内にある Clinical Center で開催されていた 2014 年の会合に出席していた。そこは彼女の自宅から数マイルのところにあった。一年に一度、専門分野に特化した研究者や、様々な稀な神経筋疾患に見舞われた家族が集まる懇談会は、支援的意味があるだけでなく、研究促進の目的も持つ。

 その日の朝、初めてそのイベントのことを知った Silva さんはその会合で参加者たちと交流していたが、そのとき親を支援している人物の一人がこう尋ねたのである。「娘さんはどこ?なぜここに連れてきていないのですか?」

 Gg はプールにいると Silva さんが答えると、その女性はその子を NIH に連れてくるように、しかもすぐに、と Silva さんに助言した。うまくいけば出席している世界的に著名な研究者の一人で、National Institute of Neurological disorders and stroke(国立神経疾患・脳卒中研究所)の小児神経筋疾患・神経遺伝疾患部門の部長 Carsten Bönnemann(カルステン・ボネマン)氏に診てもらうことができるというのである。もしBönnemann 氏が彼女のケースに興味を示せば、Gg は研究対象となって診察を受けることができ、それまで腹立たしいほどわからなかった病気が診断される可能性があった。

 

2015 年、家族で出かけた全米横断旅行中、両親の Brian Woodward さん、Elena Silva さん、兄の Elian Woodward 君と一緒に写真におさまる “Gg” こと Gabriela Woodward ちゃん。

 

 40分後、濡れた水着を着たままの Gg は父親、兄とともにその会合に現れた。Silva さんは Bönnemann 氏に娘を紹介した。

 それからおよそ18ヶ月後、Gg は診断を得ることになったのだが、それは、母親によって運良く見つけられた出会いがなければ決して起こり得ないことだっただろう。

 「この偶然には今でも本当に驚いています。まさに私が居るべき場所だったのです」と Silva さんは言う。

 

‘Like a noodle’ “まるでヌードル”

 

 2007年4月、Gg が生まれて数分も経たないうちに、彼女の上肢の筋の緊張が弱いようであることに産科医が気づいた。この新生児を調べた2番目の医師は、彼女は“少しグニャグニャしている”ものの心配には及ばないと両親に告げた。

 両親は3 才年上の Elian に比べ Gg の活動性がずっと低いことに気づいた。母親の言葉によれば、彼女は“弱くてグニャグニャしていて小さく”見えたという。Gg はなかなか首が据わらなかった。彼女をうつぶせにすると手を使って身体を持ち上げることができなかったが、これは生後約2ヶ月でほとんどの乳児ができるようになることである。また彼女の下肢は力なくぶら下がっているように見えた。

 「彼女はヌードルのようでした」ワシントンのシンクタンク New America の政策担当部長を務めている母親はそう思い起こす。

 Gg が6ヶ月のとき小児科医は Maryland にある発育障害の子供たちのための早期介入プログラムに彼女を紹介した。理学作業療法士が自宅を訪問し Gg を検査した;粗大運動の発達が明らかに遅れていた。

 それからの数年間は漫然と Washinton と Baltimore の専門医を頻回に受診し、苦痛を伴うものも含めた数え切れないほどの検査を受け、医師は Gg の筋力低下の原因と考えられる疾病を検討しては除外するといった日々だった。

 可能性があるものとして次のようなものが考えられた;低身長、知的障害、および強い食欲を引き起こす稀な遺伝性疾患である Prader-Willi syndrome(プラダー・ウイリ症候群);脳への損傷によって引き起こされ通常生下時から神経学的異常が見られる cerebral palsy(脳性麻痺);あるいは重症度に幅のある様々な染色体異常、などである。

 「すべて陰性という結果が続きましたが、そのことは嬉しいことでもあり嬉しくないことでもありました。親ならとにかく知りたいと思うものでしょう」と Silva さんは思い起こす。

 そのうちに、Gg の認知機能は障害されていないことが明らかになった:幼くして話すことができたし、頭脳も明晰であった。彼女は筋力を増強させるために理学療法や作業療法を続けた。彼女は2才でハイハイをし、3才で歩き始めたが、これらは正常よりははるかに遅れていた。

 

Whipsawed by advice 二重にだますアドバイス

 

 しかし彼女の両親は相矛盾するアドバイスで二重にだまされているという思いが強くなっていった。Baltimore の著名な専門医は Gg の発育遅延には無関心であるように見え、生下時からの低い筋緊張が主体となる “benign congenital hypotonia(良性先天性低緊張症)”と診断し、いずれ症状は改善すると言って彼女らを安心させた。

 しかし彼のアドバイスは、Gg が稀だがいまだ特定されていない疾患なのではないかと疑っていた Washington の専門医のそれとは真っ向から対立していた。より侵襲性の高い検査を勧めるものもいたが、それは Gg とSilva さんにとってつらい経験だった。この幼い少女は針を怖がったという。

 「その時点では誰もが好きなことを言うものです」と Silva さんは思い起こす。「私は原因解明にできるだけ取り組もうとしていました」

 彼女によると、3時に目を覚ますと眠れなくなり、それからの3時間を“パズルを解くために”コンピュータに向かうような夜が続いたという。Gg と合致する疾患を持つ他の子供を探してインターネットを検索したが見つけることはできなかった。それは孤独でほとんど無益な探索だった。

 一方、Gg は学校に行き始め、他の子供たちから当然のごとく投げかけられるしばしば傷つけられるような質問を受け流すことを学んだ:どうしてそんなに遅いの?どうして走ったり跳んだりできないの?どこが悪いの?

 2013年までに医師たちは、Gg が様々な原因で起こる筋肉組織を障害する疾患、すなわちミオパチーの一種であると大筋で考えた。いくつかのミオパチーは遺伝子変異で起こるが、感染症や原因不明に起こるものもある。Silva さんと Woodward さんには Gg が何の病気なのか、原因は何なのか、そしてそれをどのように治療すればいいのかわからなかった。

 Gg が受けた精密検査の結果に基づいて可能性が高まっていた疾患は congenital form of muscular dystrophy(CMD:先天性筋ジストロフィー)というものだった。先天性筋ジストロフィーは生下時あるいは2才までに発症する;最も明確な症状は筋がだらりとしていること、すなわち筋緊張の欠如である。あるタイプのものは進行性で、認知障害を伴う場合もある。

 

One expert’s intervention 専門医の介入

 

 2014年7月、インターネット検索を行った結果、NIHで行われている“Cure CMD”年次総会というものを Silva さんは偶然見つけた。

 「Elena は、私たちが家族たちと歩いていたときにちょうど現れたのです」とBönnemann 氏は思い出す。国内各地から来たおよそ40の家族が、先天性筋ジストロフィー研究の一環として研究者らと会合を持っていた。

 娘のケースについて Silva さんの説明を聞き、Gg と対面したBönnemann 氏は、その日のうちに彼女の下肢の筋肉の超音波検査を含めた診察を行った。それによって明確な構造的異常が明らかになった。

 「彼女のケースでは粗大筋のみに発育遅延が認められました」と Bönnemann 氏は言い、Gg が魅力的で“きわめて賢い小さな子供”であることを知った。

 Silva さんは次に起こったことに元気づけられた。

 「彼は『彼女を追跡させてもらいたい』と言いました。これは我々にとって突破口となったのです」そう彼女は思い起こす。

 Gg は Bönnemann 氏が主導していた未診断の神経筋疾患の研究に登録された。両親は、研究者らによって確定診断が行われることに期待した。

 2015年2月に行われた筋生検で筋疾患の存在が確認された。次のステップは、Gg とその両親の whole exome suquemncing(全エクソーム配列決定)だった。この遺伝子検査は現在行える最も大がかりな検査の一つである。この検査では血液サンプルを用いて最新の解析が行われる。

 2015年夏、家族は長年の念願だった RV 車での一年間の米国横断旅行に出かけた。2015年11月、家族がタホー湖(シエラ・ネバダ山脈のカリフォルニア州とネバダ州の境界に位置する湖)にいたとき Silva さんの携帯電話が鳴った。

 長く待ち望んでいた知らせを NIH の遺伝学者がもたらしてくれた:Gd は二つの異なる遺伝子変異を受け継いでいた。親それぞれから一つずつ受け継いでおり titin(TTN, タイチン)と呼ばれる体内の最大の遺伝子の一つを障害するものである。結果 Gg は titin myopathy(タイチン・ミオパチー)だったが、これは稀な疾患グループの一つでフィンランドで最初に同定された。(Silva さんによると、彼女も夫もフィンランド系の祖先がいることは知らないし、親族には筋ジストロフィーを持つものはいないという)

 

“A pretty big moment” “まさに決定的瞬間”

 

 TTN 遺伝子はタイチンと呼ばれる非常に大きなたんぱくの合成の指令を与えるが、このたんぱくは筋の機能(筋の伸展を起こす)に必須で、正常な心機能にもきわめて重要である。

 タイチン・ミオパチーは優性遺伝で単一の遺伝子に起因するが、Gg のように劣性遺伝で誤った遺伝子の2つのコピーを受け継ぐ人に起こるケースもある。単一の遺伝子の場合、その人はこの疾患の明らかな症候を示さないキャリアとなることを意味し、Gg の両親や兄がそうであったようにスクリーニングによってそのことが初めて判明する。

 タイチン遺伝子変異の中には、特定の心筋症とも関連しているものもある。心筋症は、心臓の血液を送り出す機能が障害され、心不全に陥ることもあるよく見られる疾患である。

 2014年の研究の共著者である Bönnemann 氏によると、“心疾患を持つ子供がいる一方でそれを持たない子供がいる理由” は研究者らにまだわかっていないという。幸い Gg には心臓が障害されている徴候はない。「うまくいけば今後何年も全く安定しているでしょう」と彼は言う。

 Silva さんにとってはこの知らせは驚きだったが、安心にもなった。「それはまさに決定的瞬間でした」と彼女は思い起こす。「私は電話を切り、居間に入っていき、Gg にその病気のこと、そしてそれを私とパパからもらったことを話しました。彼女はそれが私たちの両方からだったことに安心したようでした」。

 Silva さんも同じだった。「いくらか罪の意識がないわけではありません」知らなかったとはいえ、娘の疾患を引き起こした遺伝子を受け渡したことを知り彼女はそう話す。「しかし、私たちの両方に由来していたということで安心感は2倍となりました」。

 Gg の疾患はきわめて稀であり最近特定されたものであるため、これがどれほどの頻度で見られるかはわかっていないと Bönnemann は言うが、タイチン関連疾患の最近の急増を彼は指摘する。過去3年あまりの間に、NIH では新たに20例のタイチン・ミオパチーの患者が発見されている。しかし、Silva さんが登録しているタイチン・ミオパチーのフェイスブックのグループにはわずかに十数人のメンバーしかいないという。

 タイチン・ミオパチーの治療は合併する障害への対応が主体となる。それには、過度に硬い関節が原因で、運動がさらに制限されてしまう筋の拘縮を予防することが含まれる。

 

A different kind of childhood 特別な小児期

 

 Silva さんによると、Gg は筋力低下と闘い続けているが、彼女は“並外れてバランスと協調が良い”という。そしてこの疾患は水中では彼女に影響を及ぼさない。「彼女は小さなアシカのようです」と Silva さんは言う。

 しかし、たとえば、移動することなど他の子供たちには簡単にできる能力が制限されてしまう稀な疾患を抱えているということは孤立化につながりうる。「彼女は、自身の疾患に対する強い意識を持った感情的に繊細な子供ですので、そのことが事態を困難にしています」と母親は言う。「彼女はこう言うでしょう。『筋肉がもっとうまく動いたらいいのに。私が人とは違っていなければいいのに』と」

 先月、10才になった Gg は、メリーランド州 Chestertown で筋ジストロフィーの子供たちのためのキャンプに参加し、自分が特別ではないと感じながら一週間を過ごすことができた。母親によると、Gg はとても楽しい経験をし、来年の夏また参加することを楽しみにしているという。

 彼女がそこに出かけている間、母親は、3年前に非常に大切だと感じた毎年恒例の Cure CMD meeting に出席した。

 Silva さんは今でも自身が参加することになった偶然に驚嘆している。「NIH の近くに住んでいるという幸運がなかったらその原因を知ることはなかったでしょう」そう彼女は言う。

 

 

筋ジストロフィーの詳細については

日本筋ジストロフィー協会のHP:筋疾患百科事典

ご参照いただきたい。

 

筋ジストロフィーとは

骨格筋の壊死・再生を主病変とする遺伝性筋疾患の総称で、

筋関連たんぱくの遺伝子変異・遺伝子発現調節機構の障害によって

生じる。

筋ジストロフィーといえば、

ジストロフィン遺伝子の変異に起因して

ジストロフィンたんぱくが生成されずに発症する

男児のみに見られるドゥシェンヌ型筋ジストロフィーが有名だが、

筋関連たんぱくをコードする多種多様な遺伝子の異常により

膨大な数の病型が次々に明らかにされてきている。

タイチンは10種類あまり存在する筋の構造たんぱくの一つである。

弾性のたんぱく質でコネクチンとも呼ばれる。

タイチンは骨格筋中で、アクチン、ミオシンに次いで

量が多く、これまで知られている中で最も大きなたんぱくである。

(普通のサイズのたんぱくの約50倍)

タイチンは筋原線維(フィラメント)の位置を安定させる機能を持ち

筋原線維の弾力性と伸展性に寄与している。

このタイチンをコードする遺伝子の異常が

記事中の少女のミオパチーの原因と見られるが、

きわめて稀な疾患であることは間違いなさそうだ。

残念ながら現時点では根治的治療は存在しないため

治療は対症療法と合併症の管理に限られる。

このような子供たちに骨格筋機能の回復をもたらすような

根治的治療が一刻も早く発見されることを願うばかりである。

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