ホタルの独り言 Part 2

ホタルの生態や生息環境を研究し保全活動をしていますが、様々な昆虫や美しい日本の四季
自然風景の写真も撮っています。

ムカシトンボの羽化までの有効積算温度について

2017-04-05 16:17:22 | トンボ/ムカシトンボ科

 先日、観察したムカシトンボの上陸ヤゴが、いつ羽化するのかを予想するために有効積算温度を算出してみた。

 変温動物である昆虫の発育速度は、生息している環境温度に比例し、温度が低いと長く、高いと短くなるが、発育には有効な一定の温度(有効な温度の時間積分)が必要である。発育に最低必要な温度の限界点(発育が進まなくなる温度)は発育零点と呼ばれており、発育零点以下では発育が進まないことになる。この発育零点を差し引いた温度を積算したものが有効積算温度と呼ばれ、発育に有効な温度として(日度)で表されるが、発育零点と有効積算温度は、各種昆虫の種類や個体群ごとに固有の値を持つので、これらの値と平均気温の季節変化から、ある土地における成虫の出現時期などを推定することができるのである。
 ゲンジボタルの幼虫は、蛹になるために水中から陸に上がることが知られているが、前蛹を経て蛹化し羽化するまでの発育には、やはり温度が関係しており、筆者の研究では、発育零点8.02℃、有効積算温度408.4日度という結果が出ている。では、ムカシトンボについては、どうなのだろうか。

 まず、ムカシトンボのヤゴが上陸してから羽化するまでの期間と気温について、東京都内の生息地における過去のデータを集め、羽化までの期間の逆数を求めて発育速度を計算し、これと期間中の平均気温との関係を図にすると、グラフ1.のような関係が得られる。このデータに回帰直線を当てはめて横軸との交点の気温を求めると、それは気温の低下によって発育が遅くなり、ついに発育速度がゼロ、つまり発育できなくなる限界の気温(発育零点)を推定できる。これをもとに回帰直線分析を行い、発育零点と有効積算温度を得た。

ムカシトンボの上陸ヤゴにおける発育速度と平均気温の関係

グラフ1.ムカシトンボの上陸ヤゴにおける発育速度と平均気温の関係

①ムカシトンボのヤゴの上陸後から羽化までの日数と温度との間には、相関係数(r)が0.99であることから、高い相関関係が認められる。
②回帰直線式 y=0.0037x-0.0074(r=0.9954)  x=気温、y=発育速度(発育日数の逆数)
③この回帰直線式から、発育零点が2℃であることが求められる。(ただし、あくまでも現地の平均気温から算出した机上での計算である。)

有効積算温度は一般に次式で表される。
(T - t0) D = K
T :発育期間中の平均温度
t0 :発育零点
D :経過日数
K :有効積算温度

 この式に基づいて東京都内におけるムカシトンボの生息地の過去データから、上陸後から羽化までの有効積算温度を計算すると、有効積算温度は230日度となった。 上陸後からの日々の平均気温から発育零点である2℃を差し引き、その値を毎日足していった温度が230℃を超えると羽化が始まるということになる。
 そこで先日観察したムカシトンボの上陸ヤゴが3月20日、4月1日、4月10日に上陸した場合において、平均気温の推移が2016年、2014年、2012年と同様の場合を想定して、有効積算温度が230日度を超える日を計算し、グラフにした。赤い が羽化日である。(グラフ2~3)ちなみに、2014年は、5月11日~17日にオスの飛翔とメスの産卵を観察しており、2012年は、ここ数年で4月の平均気温が最も低くかった年である。

ムカシトンボの上陸から羽化日までの推移

グラフ2.ムカシトンボの上陸から羽化日までの推移(平均気温が2016年と同様の場合)

ムカシトンボの上陸から羽化日までの推移

グラフ3.ムカシトンボの上陸から羽化日までの推移(平均気温が2014年と同様の場合)

ムカシトンボの上陸から羽化日までの推移

グラフ4.ムカシトンボの上陸から羽化日までの推移(平均気温が2012年と同様の場合)

 グラフからは、3月20日頃に上陸していれば、4月19日から25日の間に、4月1日に上陸した場合は、4月19日から29日の間に、4月10日にに上陸した場合は、 5月1日から3日の間に羽化するという結果が得られた。ただし、実際の過去の羽化観察では、最高気温が20℃を越えていなければ羽化は行われないようであるから、これらを参考に本年のムカシトンボの羽化の 観察と撮影を進めたいと思う。
 尚、発育零点と有効積算温度は地域差や個体群ごとに違った値をもっているとも思われるので、すべてにおいて本記事の値が当てはまるものではい。

追記

ヤゴの上陸時期についても検討する必要があるが、ゲンジボタルの幼虫と同様と考えるのであれば、日長時間が一番大きく関与していると思われる。これについても地域や個体群ごとに、体内時計の設定時間が決まっていると思われる。

参考資料及び文献

  1. ホタルの発生に及ぼす温暖化の影響について(ホタルの羽化と積算温度について -発育零点と有効積算温度について)/古河義仁
  2. 卵と幼虫の発育ゼロ点と有効積算温度を用いた アキアカネ保全に有効な中干し実施日の検討
    齋藤四海智 先崎悠介 米澤千夏 千葉克己 神宮字寛/農業農村工学会論文集 IDRE Journal No. 304 (85-1), pp.Ⅰ_37-Ⅰ_46 (2017.6)
  3. 日本産昆虫、ダニの発育零点と有効積算温度定数/桐谷 圭治/農環研報31,1-74(2012)

お願い:写真は、1024*683 Pixels で掲載しています。Internet Explorerの画面サイズが小さいと、自動的に縮小表示されますが、画質が低下します。Internet Explorerの画面サイズを大きくしてご覧ください。

ムカシトンボの上陸ヤゴの写真

ムカシトンボの上陸ヤゴ(終齢幼虫)
Canon EOS 7D / TAMRON SP AF90mmF/2.8 Di MACRO1:1 / 絞り優先AE F6.3 1/60秒 ISO 400 -1/3EV ストロボ使用(撮影地:東京都内 2017.4.2)

東京ゲンジボタル研究所 古河義仁/Copyright (C) Yoshihito Furukawa All Rights Reserved.

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